アンジェス Research Memo(3):HGF遺伝子治療薬の国内承認申請に向けた準備が進む(1)
アンジェス<4563>の主要開発パイプラインは、HGF遺伝子治療薬、NF-κBデコイオリゴ、DNA治療ワクチン等がある。各パイプラインの概要と今後の開発方針は以下のとおり。
1. HGF遺伝子治療薬
HGF遺伝子治療薬では血管新生作用の効果を活用して、重症虚血肢を対象とした開発を進めている。重症虚血肢とは、安静時でも疼痛を感じる重度の末梢性血管疾患を指す。血管が閉塞することによって血流が止まり、下肢切断を余儀なくされることもある重篤な疾患となる。HGF遺伝子治療薬を血管が詰まっている部位周辺に注射投与することによって新たな血管を作り出し、血管新生による血流回復によって症状の改善を図る効果が期待されている。重症虚血肢の患者数は米国だけで推定50万人とみられ、このうち現在の治療法(血管内治療や外科的バイパス手術)の適応とならない患者、あるいはこれら治療法を行うリスクが高いと判断される患者数は10~20万人(国内では1~2万人)と推定されている。
国内では大阪大学医学部附属病院が主導となり、2014年10月より先進医療B制度を活用した医師主導型臨床研究を実施。2017年8月1日付で、予定症例6例すべての観察期間が終了したことを発表した。現在は、これらデータの解析・評価も終了し、PMDAと「条件及び期限付承認制度」を活用した承認申請に向け、最終的な協議を進めているものと思われる。当初は2017年秋の申請を目指すとしていたが、11月22日時点でまだ申請は行われておらず、若干ずれ込む可能性もある。医師主導型臨床研究の結果については、問題は見られなかったことからいずれ申請されるものと弊社では予想している。仮に申請が行われれば約1年で承認が下りる可能性がある。販売ライセンス契約先である田辺三菱製薬からのマイルストーン収入も承認取得後に入る見通しだが、金額については軽微なものと弊社では推定している。
一方、海外では2014年10月から実施してきた第3相のグローバル臨床試験を2016年6月に中止し、現在は米国市場での承認取得を目指すべく、協業先である米スタンフォード大学※と共同で過去の臨床試験データの解析を行い、同社において試験計画を策定している段階にある。同社では少ない症例数かつ短期間で終了するような治験デザインを検討しており、主要評価項目も国内と同様「痛みや潰瘍の改善」としてFDAと協議を進めていく方針となっている。まずは国内の条件及び期限付き申請を最優先に取り組んでいることから、FDAとの協議開始は2018年以降になると見ている。なお、治験施設はスタンフォード大学医学部を中心に限られた少数の施設で実施することを想定している。また、欧州市場については米国での治験開始にめどが立ったタイミングで、EMA(欧州医薬品庁)との協議を開始する意向となっている。
※スタンフォード大学医学部内にあるSLDDDRS(Stanford Laboratory for Drug, Device Development & Regulatory Science)と呼ばれる組織と協業している。SLDDDRSは、同大医学部のRonald G. Pearl教授が中心となり、革新的な医薬品・医療機器の開発戦略の構築、臨床試験に関する新たな手法の開発と推進、そのために必要なスタンフォード大他組織との連携などを手掛けている。
2. NF-κBデコイオリゴ
NF-κBデコイオリゴは、人工核酸により遺伝子の働きを制御する「核酸医薬」の一種で、生体内で免疫・炎症反応を担う「転写因子NF-κB」に対する特異的な阻害剤となる。主にNF-κBの活性化による過剰な免疫・炎症反応を原因とする疾患の治療薬として、研究開発を進めている。
(1) 椎間板性腰痛症(注射投与)
椎間板性腰痛症を適応症とした治療薬となり、患部に注射投与することによって、慢性腰痛に対する鎮痛効果とともに、椎間板変性に対しても進行抑制や修復を促す効果が期待できる新タイプの腰痛治療薬として、米国市場で開発が進められている。米国では患者数が多いだけでなく、椎間板内注射による治療法が一般的となっており、手技に習熟している医師が多いためだ。2017年4月にFDAから第1b相臨床試験計画の承認が下り、2017年後半からカリフォルニア州立大学サンディエゴ校等において開始する予定となっている。症例数は24症例で、観察期間は1年となっており、2019年前半には終了する見込みとなっている。現在は、被験者のスクリーニングを実施している段階で、条件に当てはまる被験者が見つかり次第、試験を開始することになる。同試験によってPOC※を取得できれば、ライセンスアウト交渉を進めていく方針としている。
※POC(Proof of Concept)臨床研究で予測された開発段階にある新薬の有効性をヒトで実証すること。
(2) アトピー性皮膚炎(軟膏剤)
アトピー性皮膚炎患者のうち、顔面に中等症以上の皮疹を有する患者を対象に第3相臨床試験を国内で実施してきたが、主要評価項目においてプラセボ群に対する統計学的有意差が得られなかったため2016年7月に承認申請を断念、現在は臨床試験のデータを解析し、今後の開発方針を検討している段階にある。
現状では、アトピー性皮膚炎患者の中でもある特定の症状の患者に対しては、薬効が認められるデータ結果が得られており、同症状に絞って開発を継続していく可能性もある。ただ、対象患者数は当初想定の8~9万人から数分の1程度に減少するため、仮に上市まで進んだとしても収益性の面で厳しくなる。一方、ステロイドよりも副作用が少ないといった長所を生かすことで、市場規模を拡大できる可能性もある。同社はこうした点を踏まえ、販売提携先である塩野義製薬の意向も確認しながら、今後の開発方針を決定することとしている。
(3) 改良型デコイ「キメラデコイ」の製品開発を開始
同社は2016年7月に、改良型デコイ「キメラデコイ」の基盤技術開発を完了し、製品開発を開始したと発表した。従来のNF-κBデコイオリゴと比較して、「STAT6」と「NF-κB」という炎症に関わる2つの重要な転写因子を同時に抑制する働きを持つため、従来のNF-κBデコイオリゴに比べ格段に高い炎症抑制効果を持つことが動物実験で明らかとなっている。また、生体内での安定性に優れるほか、NF-κBデコイオリゴよりも分子量が3〜4割少ないため生産コストも低くなるといった長所を持つ。
同社では具体的な対象疾患として、喘息、慢性関節リウマチ、変形性関節症、クローン病(炎症性腸疾患)などの炎症性疾患を想定している。なお、既に開発が進行中の椎間板性腰痛症については既存のNF-κBデコイオリゴで開発を継続するが、今後新たに開発するものに関しては基本的に「キメラデコイ」で進めていくことになる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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