極東貿易 Research Memo(2):経営危機をバネに、経営舵取りと企業構造を大きく転換
1. 沿革
極東貿易<8093>は2017年11月に設立70周年を迎える。第2次世界大戦の終戦後、三井物産<8031>は財閥解体となったが、同機械部門(営業課及び貿易課)が主体となり独立して同社が設立された。したがって、機械商社としての源流はここにある。その後、海外の最先端の建設・鉱山機械や製造装置などを国内の基幹産業(建設、製鉄、化学プラント、電力、繊維、エレクトロニクス)へ輸入販売して、日本の経済復興に貢献し、日本の高度経済成長とともに同社も成長と発展をしてきた。同社は、国内の大手一流企業から厚い信頼とロイヤリティを得ながら、基幹産業界の中で一定の地位を確保してきた。
その後、航空・防衛産業向け電子機器や自動車産業向け樹脂・塗料など、事業領域の幅が広がった。特に航空・防衛関連事業は、かなりのボリュームを取り扱うようになり、同社の事業の大きな柱となっていった。1987年に東京証券取引所に上場した頃には、産業用機械(製鉄所、電力など)、産業素材、航空・防衛関連が中核事業であった。2000年頃には年商千億円を突破、順調に企業成長・拡大していった。光通信用半導体も取り扱ったが、市場が不透明・不確実かつボラティリティ(市場価格が1/100まで下落)が高く、事業マネジメントが難しい局面もあったが、そのような難局も乗り越え、同社は小粒でありながらも多種多様な事業を展開して、今の“総合商社的な”事業構造の原型をつくり上げてきた。
ところが、2008年1月に同社を揺るがす大事件が起きた。防衛省への過大請求事案である。当時の新聞で取り扱われ、この事案解決まで約2年間を要した。当然このような不祥事を起こすと、輸入元の米国メーカーとの契約取消・解除となり、また、ペナルティーとして過大請求分の返納などで大損失となり、業績を大きく悪化させることとなった。結果として、航空・防衛関連は壊滅的状態となり、中核事業の一角を失うことになる。
当時、会計制度(売上計上法の変更)見直しの影響もあり、同社の単体売上高千億円超は半分以下までに縮小してしまった。
同社では、「企業変革と再生」に取り組み、手持ち資金の取り崩しやコストカットなどあらゆるリストラを断行した結果、“最悪の事態”は回避された。
この経営危機を機に大きく経営の舵を切った。中核事業の一角(航空・防衛関連)を失った事業構造を立て直すべく、新たな事業をM&Aで取り込むこととした。幸い、不祥事対策やリストラ対策などに手持ち資金を一部充当したが、M&Aを実行するぐらいの資金は手元にあった。
2011年1月の株式会社ゼットアールシー・ジャパンを皮切りに、この5年間で立て続けに5案件のM&Aを仕掛け、実施した。結果的にはすべて成功(いずれの案件も売上総利益率は全社平均売上総利益率を上回る)している。最も成功しているM&Aは2015年9月に完全子会社化したヱトーである。ヱトーは自動車部品、建設機械、住宅設備、家電機器部品などの特注品ねじなどを取り扱っており、全社営業利益1,190百万円のうち588百万円(構成比49%)を稼ぐ儲け頭事業となった。それ以外でも、サンコースプリング(株)は他社がまねできない「定荷重ばね」を開発して、世界トップシェア製品やOnly One製品を数多く輩出し、高付加価値・高収益(営業利益率7.2%)で貢献している。
同社では、創立時から技術商社(現在はエンジニアリング商社と称している)として
1)経営理念:「必要な技術を、必要な企業へ」
2)社是:「人と技術と信頼と」
を掲げ、「顧客からどんな高度な要求をされても、それに応えられる商社でありたい。そのためには、単にモノを提供するだけでなく、技術サポートを行い、ベストな商品を企業に提供する。」ことを重視している。
2. 事業概要
大手商社に比べると企業体力で劣る中堅商社は、得意分野に絞り込み「専門商社」として事業展開するケースが一般的である。同社は会社設立70年の歴史の中で、基幹産業からインフラ、そして、炭素繊維やメタンハイドレートなど先端分野まで幅広い業種を対象としてきた。
事業ポートフォリオの観点から見ても、同社の事業構造は景気に左右されにくい収益構造である。高い成長性は見込めないが安定受注・収益に寄与する重電、鉄鋼、化学プラント向け基幹産業事業、特定車種に採用が決まれば、3~5年間安定的に受注できる自動車関連事業(樹脂・塗料など)、そして、航空機や太陽光発電、半導体製造装置などハイテク先端分野で事業展開している。具体的に言うと、火力発電所向け計装システムは、“3.11東日本大震災”以降、更新需要も含め好調に推移している。一方、今後原子力発電所(高浜など)の再稼働が加速すれば、同社の地震計(電子機器事業)の受注増となり、火力発電所稼働率低下による計装システム事業の受注低減をカバーすることになり、エネルギー市場変動リスクを事業間で補い合う関係となる。個々の事業での需給変動や価格変動など各種ビジネスリスクを吸収して事業の好不調を補い合って、安定的かつバランスのとれた事業運営となっていることも同社のアドバンテージである。
多種多彩な事業の中でも、ねじ関連事業(2017年3月期売上高13,299百万円、売上総利益2,843百万円、売上総利益率21.4%)、自動車分野を中心とした樹脂・塗料事業(同12,742百万円、同1,249百万円、同9.8%)、重電設備事業(同12,498百万円、同891百万円、同7.1%)は百億円ビジネスの“3本柱事業”として、安定事業基盤を支えている。その中でも、2016年3月期より同社グループに入ったヱトーのねじ関連事業は利益面でも全体利益の過半を占めており、中核事業として同社の企業成長をけん引役となっている。
地域的には、世界各国へ現地法人や支店を13拠点配置している。また、2016年3月期に同社の子会社となったヱトーの現地法人、駐在員出張所10拠点を合わせると23拠点のグローバルネットワークとなり、世界各地に散らばるサプライヤー及びカスタマーに適時的確に質の高いビジネス情報を提供できるようになった。
3. 特長と強み
(1) 理系出身の営業職・技術営業職は7割以上を占める
通常、商社の営業現場では文化系出身者が多く、理系出身者はせいぜい2~3割程度であるが、同社では営業マンの7割以上は大学の理系出身者が占める。同社は人事政策上、理系出身者の採用を重視してきた。その背景には、技術営業から始まり導入・据付、そして、運用・保守までエンジニアリング全般を、同社営業マンが仕入れ先の海外メーカーにあまり頼らず、顧客に対して自主的に技術サポートできるようしてきたためである。具体的には、同社の営業マンが自ら簡単な機械設計(設計図)をして技術提案したり、顧客からの技術的問合せにクイックレスポンスで応えたり、また、納入した装置が一時停止や故障の際にはある程度のレベルまで点検・保守などフォローすることができるようになっている。顧客へ納入した装置が原因不明の停止や故障になった際にいちいち海外メーカーに問い合わせていたのではらちが明かないので、顧客から絶大なる信頼を得ているようである。更に、同社では点検・保守メンテナンスを適時的確に対応すべく、保守・メンテナンスの専門子会社(日本システム工業(株))を設立して運用している。
また、同社には資源掘削関連部門があるが、大学の地質工学や自然エネルギー資源の研究をしてきた学生を採用している。同関連部門の担当者は、海外の採掘メーカーの技術者とともに、海底資源探査船に約3ヶ月間乗り込み、採掘装置の動作試験や立会試験まで関わっている。
(2) 顧客に大手一流企業が多く、厚い信頼関係とロイヤリティを得ている
同社は沿革でもみたように、日本の基幹産業(建設、鉱山、製鉄所、化学プラント、電力、繊維、エレクトロニクス、自動車部品など)に深く関わってきたため、大手一流企業との取引が多く、大手製鉄メーカーなどでは創業以来の取引が継続しており、厚い信頼関係とロイヤリティを得ている。一方、欧米、アジアなど海外市場でも米国自動車Big3や独自動車メーカーとも取引がある。これは、同業技術商社と比較しても優良な顧客構造になっている。その根拠として、中堅商社の課題である「貸し倒れ」が、同社ではほとんど発生していないことが上げられる。
また、製鉄所や電力供給基地にはすべて出張所(室蘭、仙台、君津、千葉、知多、広畑、水島、広島、小倉、大分)を配置して、大手商社ではなかなか小回りが効かない、“痒いところに手が届く”営業サービスで差別化を図ってきた。高炉の特定プロセス分野の装置を含めたプロセスソリューションの役割を同社が担っていると言える。
(3) 「誠実さ」と「粘り強さ」で取引先から高い評価
大手一流企業から厚い信頼を得ている背景には、誠実で“くそ”がつくほどの真面目さが挙げられる。顧客との交渉シーンでも顧客から「この価格でお宅は商売になるの」と言われることもあるらしい。また、“粘り強い”人が多いとも言われる。だから、新商材・新規事業も途中で大きな壁にぶつかってもなかなか諦めない。その好例が、「軽量ケーブル」である。10年程前に航空電子営業部門が海外で見つけてきて、現在話題の国内小型航空機向けに粘り強く提案とフォローを繰り返してきた。同時に5年前から自動車ワイヤーハーネス市場へ提案営業を繰り返し、2016年にやっと採用までこぎつけた。そのような営業人材が多いことが技術商社にとって最大の強みである。これは、やはり理系出身者が多いということと関連があると言えるのではないだろうか。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水 啓司)
<MW>
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