オンコリスバイ Research Memo(5):CTC検査薬に加えてPTC検査薬としての開発を進めていく
2. テロメスキャン
(1) 概要
テロメスキャンは、アデノウイルスの基本構造を持ったテロメライシンにクラゲのGFPを組み込んだ遺伝子改変型アデノウイルスとなる。テロメラーゼ陽性細胞(がん細胞、炎症細胞など)に感染することでGFPが発現し蛍光発光する作用を利用して、がん転移のプロセスに深く関与するCTCを高感度に検出する。
これまでPET検査などでは検出が難しかった直径5mm以下のがん細胞の早期発見や、転移・再発がんの早期発見などに応用する可能性が期待されるほか、検出したCTCを遺伝子解析することによって最適な治療法を選択する「コンパニオン診断」※のツールとしての利用も視野にいれている。当面は転移・再発がんの早期発見用検査薬としての事業化を目指している。なお、検査方法としては、患者の血液を採取し、赤血球の溶血・除去を行ってからテロメスキャンを添加しウイルスを感染させる。感染により蛍光発光したGFP陽性細胞を検出、CTCの採取といった流れとなる。また、必要に応じて採取したCTCの遺伝子解析も行っている。
※患者によって個人差がある医薬品の効果や副作用を投薬前に予測するために行なわれる臨床検査のこと。薬剤に対する患者個人の反応性を遺伝子解析によって判別し、最適な治療法を選択できるようにする。新薬の臨床開発段階でも用いられる。
また、テロメスキャンF35はテロメスキャンに違う型のアデノウイルス遺伝子を組込み、感染率の向上とがん特異性を高めた改良型のテロメスキャンとなる。それぞれの特性には一長一短があり、テロメスキャンは蛍光体の輝度が高く検出がしやすいものの、白血球にも反応し若干発光するため、前段階で白血球を取り除く工程が必要となる。一方、テロメスキャンF35はがん細胞のみを発光させるため、白血球を取り除く工程は不要となるが、発光輝度が若干弱いといった難点がある。
(2) 開発状況
テロメスキャンに関しては、2012年より国内で研究目的での受託検査サービスを行っているが、2017年は事業化に向けての開発を進めていく予定だ。具体的には、胃がん患者のPTC※検査薬としての開発を進めていく予定で、2017年中の臨床試験開始を目指している。従来、腹腔洗浄細胞診では顕微鏡等で調べる病理検査が行われてきたが、病理検査で陰性であってもテロメスキャンで検査してがん細胞が発見されるケースがあり、再発の早期発見につながる効果が期待される。胃がんで実績ができれば膵臓がんにも展開していく予定となっている。膵臓がんは発見が難しく、進行や転移スピードも早いため、PTC検査薬としての需要は大きいと見られる。
※PTC(Peritoneal Tumor Cell)・・・腹腔洗浄液から検出されるがん細胞
また、2016年10月にDNAチップ研究所<2397>と、前立腺がん治療薬のコンパニオン診断薬としての共同研究契約を締結している。前立腺がんの標準的な治療薬となっているアステラス製薬<4503>のイクスタンジ等のAR阻害薬が、患者に効果があるかどうかを事前に診断する検査薬として用いる。前立腺がん細胞のなかにAR-V7と呼ばれる遺伝子を持つ患者には、AR阻害薬の効果がないことが明らかになっており、AR-V7の検出用としてテロメスキャンを活用する。既に、前立腺がん由来細胞株からはAR-V7を検出できることが確認されており、2017年中に臨床で証明していく予定となっている。
一方、海外ではライセンス契約締結先であるLiquid Biotechが米国で510(k)※による承認申請(2〜3年後を目標)に向けた臨床研究を進めている。Liquid Biotechとの契約内容は、北米でのテロメスキャンを用いたがん検査の事業化権の許諾と、契約締結から一定期間経過後に、テロメスキャンをLiquid Biotechに有償販売するものとなっている。このため、今後は開発の進捗に応じたマイルストーン収入及び、テロメスキャンの販売額が売上高に計上されることになる。
※米国食品医薬局が既に市販されている先発機器との実質同等性の有無を判断して、米国内での販売を許可する制度。
また、韓国においてWONIKがテロメスキャンF35の承認取得に向けた研究開発を開始している。2014年12月にライセンス契約を締結し、2016年5月には韓国内での製造権許諾契約も締結した。韓国内でウイルスによるがん検査薬の製造は初めての取り組みで時間が掛かっているものの、2017年中には臨床試験申請届けを提出できる見通しだ。
(3) 競合状況
テロメスキャンのターゲット市場となるCTCの検査市場では、現在米VeridexのCellSearchシステムが唯一欧米市場で販売承認を受けており、既に乳がん・大腸がん・前立腺がんのCTC検出において使用されている。また、同業他社もCTC検査機器の開発にしのぎを削っており、開発競争が激しい領域となっている。しかし、これらの検査システムはEpCAM(上皮細胞接着分子)と呼ばれる細胞表面マーカーを検出する方法を用いており、その細胞表面マーカーの発現が低いと言われている肺がん細胞等の検出が困難であるという欠点を持っている。
一方、同社のテロメスキャンでは肺がん細胞を始めとするほとんどのがん種において、CTCの検出が可能なほか、生きているCTCや悪性度の高い間葉系がん細胞を捕捉することが可能で、がん転移後のCTCを分析することで最適な治療法を選択できるといった長所を持つ。米ペンシルバニア大学で実施したCTCの検出率比較においても、7種のがん疾患のうち5種において検出率に顕著な優位差が出ているとの調査結果が発表されている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<TN>
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