エネクス Research Memo(3):戦略構築と事業展開の一体化・迅速化を図るため組織改編を実施
伊藤忠エネクス<8133>は2015年4月に2ヶ年中期経営計画『Moving2016「動く!」~明日にタネを蒔け!~』をスタートし、今期は2年目(最終年)に当たる。今2017年3月期は、期初において事業部門の組織改編を行い、ホームライフ部門と電力・ユーティリティ部門から成る「電力・ガス事業グループ」と、カーライフ部門とエネルギーイノベーション部門から成る「エネルギー・流通事業グループ」の2事業グループ4部門体制でスタートした。この組織変更の狙いは、厳しさを増す事業環境(恒常的石油需要減退、電力・ガスの全面自由化による競争環境の激化など)のなかで、関連する事業分野を大きく集約することで戦略構築と事業展開の一体化・迅速化を図ることにある。
組織変更も含めて今中期経営計画全体の評価は、究極的には業績によって測定されることになる。その業績は、前述のようにこれまでのところ、極めて順調に進捗している。4つの事業部門のいずれにおいても、“タネは蒔かれた”というのが弊社の理解だ。各事業部門の業績面での濃淡は、収穫のタイミングの問題だと考えている。
(1)ホームライフ部門
ホームライフ部門の業績は売上高37,137百万円(前年同期比16.0%減)、営業活動に係る利益692百万円(同22.7%減)と減収減益で着地した。営業活動に係る利益の通期予想に対する進捗率は13.8%にとどまった。
売上高が減収となった要因はLPガスの販売数量が前年同期比1.8%減少したことが影響した。この背景にはオートガス(タクシー用燃料)の需要減退や特に西日本で気温が高めに推移したことがある。利益面では営業活動にかかる利益が減益となったのは機器販売が振るわなかったことが影響した。なお、ホームライフ部門では持分法適用会社の損益が最終利益に影響を与える。この点、2017年3月期第2四半期は持分法適用会社の損益改善により、当社株主に帰属する四半期純損失が前年同期の293百万円から今第2四半期は58百万円へと改善した。
ホームライフ部門の中核事業はLPガスの販売事業だ。同社は販売子会社を通じて、一般家庭向けに約35万世帯に直接販売しているほか、全国の約1,900の販売代理店経由でも販売し、合計約108万世帯に販売している。この事業の特徴は、販売価格と原料価格(コントラクトプライス、CPと略)との差(同社にとっての利幅)が燃料費調整制度によって一定に保たれる点だ。したがって、販売数量の確保が収益には重要なポイントとなるが、前述のように今第2四半期は気温の影響もあって減少した。また、LPガスの国内全需要の15%~20%をタクシー燃料のオートガスが占めている。この分野ではハイブリット車や電気自動車への代替も進んでいるため、需要は減少傾向にある。この点も業績に影響を及ぼした。
ホームライフ事業では在庫を多く抱えるため、在庫評価額の変動が収益に影響を及ぼす。この在庫影響額はCPの変動によって引き起こされる。今第2四半期は、期初(2016年3月末)のCPが290ドル/トン(プロパンのケース)、期末(2016年9月末)が295ドル/トンとほぼ横ばいとなったものの為替レートの急速な円高進行で、円建て価格が下落し、在庫影響額がマイナスで発生した。ただし前年同期比較ではマイナス影響額は縮小し、増益要因として働いた。
今第2四半期に特徴的だったのは、新エネルギー機器の販売が振るわず、これが減益要因となったことだ。機器販売は事業部門利益へのインパクトが大きいが、通常は比較的安定している。今第2四半期に販売が振るわなかった要因は特別なものはないとされており、下期以降の巻き返しが期待されるところだ。
ホームライフ部門は電力・ユーティリティ部門とともに電力・ガス事業グループを形成しているが、その具体的なシナジーの1つとして2016年4月からの電力全面自由化を受けた家庭向け電力小売りがある。ホームライフ部門のLPガス販社である伊藤忠エネクスホームライフ関東(株)と(株)エコアが先陣を切り、8月以降は北海道・東北・中部・関西・西日本の各グループ会社も参入して電力小売りを行っている。今第2四半期末までの契約獲得数は約16,000件に達した。今期末時点での契約数の目標が30,000件とされているため、順調な進捗と評価できるだろう。
今中期経営計画におけるホームライフ部門での“タネ蒔き”として海外展開が挙げられる。2016年5月にフィリピンにおけるLPガス販売事業に参画・出資した。これは伊藤忠商事が現地パートナーと運営するIsla Petroleum & Gas Corporation(IP&G)に出資(間接出資)するものだ。IP&Gは既に軌道に乗っており、投資リスクは小さく、2017年3月期にも持分法投資損益でリターンが取り込める見通しだ。また、同社はインドネシアの工業ガス事業に進出した。現地法人が2016年9月に本社及びガス充てん施設を竣工し、今下期からは現地日系企業を中心に工業ガスの販売拡大を目指すことになっている。この案件はグリーンフィールドからの立ち上げのため利益貢献にまだ時間がかかる見通しだが、リスクを抑えながら着実に拡大させていく方針とみられる。
(2)電力・ユーティリティ部門
電力・ユーティリティ部門の業績は売上高29,873百万円(前年同期比41.2%増)、営業活動に係る利益3,434百万円(同30.0%増)となった。利益の通期予想に対する進捗率は88.1%に達し、極めて順調な推移となった。
電力販売について、今第2四半期の電力販売量は1,490GWhで、前年同期の782GWhから91%の大幅増加となった。前述のように、電力小売り全面自由化で家庭用低圧分野の契約件数が約16,000件に達したほか、高圧分野の顧客も順調に拡大した。こうした小売り販売先の順調な拡大に対し、同社本体(電力は100%子会社のエネクス電力(株)で自社発電)、及び子会社の王子・伊藤忠エネクス電力販売(株)(同社が60%出資)がともに、順調に電力販売を伸ばしたことが収益拡大に寄与した。
同部門のもう1つの事業である熱供給事業も、今第2四半期は東日本の平均気温が前年同期を上回って推移したため冷房需要が伸長した。利益面でも燃料費調整制度による原料価格下落が寄与し、増益となった。
電力・ユーティリティ部門の今中期経営計画における“タネ蒔き”は、特に電力事業に関して数多く実施され、一部は既に収穫が始まっているものもある。“タネ蒔き”のタイミングについては必ずしも明確でないものもあるが、電力関連の諸施策を整理すると、以下のようになる。
これらのうち、ホームライフ部門のLPガス販売子会社との協業による低圧分野の顧客開拓は、今第2四半期で16,000件に達するなど、順調に進捗している。子会社7社のLPガス顧客は、前述のように、直販ベースで合計約35万世帯、代理店経由ベースも含めると合計約108万世帯となっている。当面は直販顧客を主体に一段の電力契約獲得を目指すとみられる。また、電力販売面における王子・伊藤忠エネクス電力販売も順調だ。今第2四半期の電力販売量増加は、同子会社の寄与が大きい。仙台パワーステーションは2018年3月期下期から収穫に入る見通しとなっている。
電力小売販売に関するバランシンググループに関しては、グループ外メンバーが現状は2社にとどまっており、今後はこの部分の新規開拓が課題になると弊社ではみている。ただし、事業面ではグループ7社が前述のように直販ベースで約35万世帯、代理店経由を含めた合計約108万世帯の顧客を抱えているため、これらを着実に電力の顧客とすることができれば、当面の事業計画は達成されるものとみられる。
(3)カーライフ部門
カーライフ部門の業績は売上高232,810百万円(前年同期比15.2%減)、営業活動に係る利益1,538百万円(同7.3%増)と減収増益となった。利益の通期予想に対する進捗率は32.0%だった。
売上高の面では、ガソリン等燃料油に対する需要減少の流れは止まらずガソリン販売数量は前年同期比0.3%減となった。一方、ガソリン価格は2016年2月を底に回復を見せたが、今第2四半期の平均価格が前年同期対比で約13%の下落となった。これが主たる原因となって、カーライフ部門の売上高の前期比15.2%減につながった。
利益面では不採算CS(カーライフステーション)の削減(2016年3月末比で36ヶ所の純減)が寄与したほか、日産大阪販売(株)の寄与により、前年同期比で増益を達成した。日産大阪販売は、三菱自動車工業<7211>の不正問題の影響で軽自動車販売が大きな影響を受けたが、他車種の販売強化と経費削減、及び新型「セレナ」の拡販によりカバーし、増益を達成した。
カーライフ部門における“タネ蒔き”には、事業&サービスの新ブランド『カーライフスタジアム』の展開がある。同社が展開する1,937ヶ所(2016年9月末現在)のCSはいわゆるガソリンスタンドのブランドはバラバラな状態となっている。そこで燃料油販売以外のサービスにおける統一ブランドを導入し、マーケティング効率を高める狙いだ。また、レンタカーや車検、鈑金など車関連6事業の強化や新POS導入など、店舗の収益力を高める仕組みづくりを急いだ。
これらの中では、レンタカー事業においてカースタレンタカー(専門店舗)の運営などへと発展するケースも出てきている。また洗車についても、洗車ビジネスポータルサイト『日本洗車連盟』の加盟店を9月末までに2,118店舗にまで拡大させ、一般ユーザー向け『洗車専科』の利用促進につなげている。さらにはCS店頭における大型モニターやタブレット端末を活用したコミュニケーションサービス『ドラチャン(ドライバー×チャンネル)』の取扱いを開始し、機能面での差別化を推進している。
(4)エネルギーイノベーション部門
エネルギーイノベーション部門の業績は売上高166,493百万円(前年同期比25.8%減)、営業活動に係る利益1,494百万円(同19.8%減)と減収減益で着地した。利益の通期予想に対する進捗は39.3%となった。
売上高の大幅減収については 原油価格の低迷の影響に加えて、非効率取引の見直しを進めた結果であり、減収幅の大きさがそのまま利益をヒットする構図にはなっていない。この点は前期からの動きと同様だ。実体的な面では同社が国内シェア20%超を有するアスファルトの販売量が前年同期比0.9%増となった。また、国内20ヶ所の供給拠点を擁するアドブルーや、国内取扱量トップの国内船舶燃料も順調に収益を伸ばした。
エネルギーイノベーション部門における“タネ蒔き”は、全体像として「ポートフォリオ経営」構想の打ち出しがある。アスファルトやアドブルー、国内外の船舶燃料など既存事業は、現有の事業拠点や輸送船舶や陸上ローリー等を生かして流通機能強化と資産最適化を図り事業基盤の強化を目指す。それと同時に様々な新事業を展開して、分散の利いたポートフォリオを構築するというものだ。今中期経営計画においてスタートした新規事業に、スロップ(タンク洗浄廃液)やスラッジ(未燃焼の船舶燃料)から再生油を取り出す事業や、石炭火力発電所で発生する灰をセメント原料に加工する事業(フライアッシュ)などがある。また、小倉興産ロジサービス(株)を設立して燃料油の小口販売サービスに進出した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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