ワコム Research Memo(3):ブランド製品事業は台数ベースで堅調な伸びを見せた製品や市場も
(1)ブランド製品事業
ワコム<6727>のブランド製品事業の今第2四半期累計決算は、売上高19,326百万円(前年同期比15.4%減)、営業利益2,051百万円(同43.7%減)と減収減益で着地した。詳細は後述するが、台数ベースでは堅調な伸びを見せた製品や市場もあったが、円高による手取り収入の減少、売上構成の悪化が大きく影響を及ぼした。製品群別では、高価格帯の“モバイル”が前年同期比52.4%減となり、収益の足を引っ張った。
同社のブランド製品事業の中心は、クリエイティブユーザーを対象とする“クリエイティブビジネス”だ。これを製品のタイプ別に、ペンタブレット、モバイル、ディスプレイの3つの製品群に分けて管理している。
ペンタブレットは電子ペンとノートに該当するタブレットと呼ぶ板で構成される最も基本的な入力デバイスだ。プロフェッショナル用からエントリーモデルまで幅広いラインアップとなっている。2017年3月第2四半期は前年同期比12.3%の減収となった。ハイスペック機は、台数は前年並みを確保したが円高で減収となった。主力のミドルゾーンのモデルも台数は維持したが、低価格モデルの販売構成比が増加した。市場別では中国・インド・南米で数量が大きく伸び、エントリーユーザー層の拡大が見られことから低価格モデルの構成比上昇につながった。
モバイルは上記のペンタブレットとタブレットPCが一体化した構成のものだ。他社のタブレットPCでのペン入力と使い方としては同じであり、それゆえに他社のタブレットPCとの競合にさらされるリスクがある。同社のモバイルの製品が他社のタブレットPCと異なるのは、トップクリエイター向けに、ペン入力の性能にこだわった専用機という点だ。今第2四半期は前年同期比52.4%減と大幅減収となったが、これはAppleやMicrosoftからペン入力機能を訴求した製品がリリースされたことが影響している。トップクリエイター用としては入力性能に歴然とした差があるため同社の優位性はまったく崩れていないが、ミドルユーザー層の一部を奪われたことが大幅減収につながった。また主力機種がモデルチェンジサイクル末期であることも影響したとみられる。
ディスプレイは、ペンタブレットと液晶画面が一体化したもので、液晶画面に描くという意味ではモバイルに近いが、OSや記憶装置を持たない入力デバイスであるという意味ではペンタブレットと同じ特性を有する製品だ。構成デバイスの陳腐化により買い替えサイクルが相対的に短いモバイルと異なり、接続するPCシステム等とのフレキシブルな組み合わせで、より長く使えるというメリットがある。今第2四半期は前年同期比4.2%減と、円高のなかでは健闘した。台数はディスプレイ全体で前年同期比20%近い増加となったことが貢献した。トップクリエイター層からの根強い支持に加えて、小型機がアジア圏で台数を大きく伸ばしたことが背景にある。台数は順調に伸びたが、ここでも地域的・モデル的に低価格品シフトが起きたことがうかがえる。
コンシューマビジネスは他社(提携関係等のない第三者)のタブレット等で利用可能な電子ペン(“Bamboo”シリーズ)や、手書きノートをデジタル化できるスマートパッド(“Bamboo Spark”等)がその内容だ。今第2四半期は前年同期比31.4%の減収となった。スマートパッドは第1世代の“Bamboo Spark”が貢献したが、iPad用スタイラスペンが市場環境変化やモデルチェンジサイクル末期であることが原因となって大幅に減少したことが響いた。
ビジネスソリューションは業務用途のペンタブレットだ。典型的にはクレジットカードのサイン(電子サイン)の端末や金融機関での口座開設、宿泊施設の宿帳、教育医療分野での利用がある。今第2四半期の売上高は前年同期比14.4%減となった。国内やインドなどで一部機種が販売台数を伸ばしたが、売上全体の半分強を占める欧州市場の売上高が、景況感の悪化などによって減収となったことが響いた。
ブランド製品事業の2017年3月期通期業績は、売上高48,400百万円(前期比1.1%減)、営業利益7,300百万円(同9.2%減)と予想されている。下期だけを取り出すと、売上高29,073百万年(前年同期比11.5%増)、営業利益5,249百万円(同19.5%増)と前年同期比で増収増益となり、営業利益率は18.1%に上昇するという計画だ。
下期に回復を見込む最大の理由は、新製品効果だ。同社はクリエイティブビジネスの3分野で今下期に新製品をローンチする計画だ。前述のように、今第2四半期の売上高が不振だった要因の1つに、モデルチェンジサイクルの末期の製品が買い控えられたことがある。同社製品の愛用者はリピート客の割合も多く、新製品サイクル等についても熟知しているケースが多いとみられる。
2017年3月期第2四半期決算で特に落ち込み幅が大きかったモバイルは、11月初旬に新製品がリリースされた。販売状況等のデータはまだ入ってきていないが、この事業における同社の最優先の課題は、実質的シェア100%とみられるトップクリエイター/ヘビーユーザー層の市場を堅守することだ。その対応として今回の新製品では、3D対応とカラーマネジメント強化を行った。ペンタブレットについては2017年初めに新製品をローンチ予定だ。ディスプレイは新製品の開発が当初計画から遅れて、2017年3月期中での発売の見通しだ。
コンシューマビジネスは、スマートパッドの次世代機が今下期に市場に投入されてくることで一段の売上拡大が期待されることや、年末商戦などの季節性によって、下期は第2四半期に比べて収益が拡大すると想定している。
ビジネスソリューションも、今下期は第2四半期実績対比で収益拡大を予想している。これは、アジアなど成長地域での拡大や季節性などを考慮したためだ。一方で競争環境の激化や欧州における販売不振の長期化なども織り込み、下期及び通期見通しは期初予想対比では大きく引き下げている。
利益面では、今下期予想における営業利益の回復が急激であるように見えるが、売上高がこの計画どおりに伸長すれば、まったく不思議ではない。販管費は固定費的色彩が強く、売上高が増加しても販管費にはほとんど変化がないためだ。売上増に伴う売上総利益の増加分は、そのまま営業利益として残ることになり、それが営業利益率を押し上げることになる。
(2)テクノロジーソリューション事業
テクノロジーソリューション事業の2017年3月期第2四半期決算は、売上高14,141百万円(前年同期比10.4%減)、営業利益1,788百万円(同15.4%減)と減収減益で着地した。詳細は後述するが、この事業セグメントで大きなウエイトを占めるスマートフォン向けが順調に推移したほか、タブレットPC向けも伸長した。円高の影響で減収となったが、実体的には計画線で推移したとみられる。
スマートフォン向け売上高は、現状はサムスン電子のGalaxy Noteシリーズ向けがすべてを占めている。今第2四半期は、4月−6月期に中に新モデルのGalaxy Note 7向けの量産出荷が順調にスタートし、7月−9月期に入って拡大した。旧モデルのGalaxy Note 5向け生産も継続され、数量面では極めて順調であった。ただし、円高の影響は避けられず、前年同期比では10.5%の減収となった。
タブレットPC向けは、AES方式の電子ペンの量産が拡大した。Hewlett-Packard、Dell、東芝<6502>、富士通<6702>といった従来からの顧客に加え、中国・ファーウェイ向けの売上高も拡大した。ノートPCから2 in 1タイプのタブレットPCへの需要シフトが継続していることも、同社にとっては市場拡大を意味して追い風となった。これらの結果、円高やトルコ政府向け特需の反動減といった減収要因を吸収し、前年同期比0.2%の増収となった。
タブレットPCの中で注目すべき点として、LenovoのYoga Bookなど電子ペン搭載モデルで新規ヒット商品が出てきていることがある。タブレットPCで電子ペン搭載がより一般化してくれば、その動きがスマートフォン向けにも拡大していくことが期待され、スマートフォン向け市場でのサムスン電子への1社依存体制からの脱却につながると期待される。
ノートPC向けは、前年同期比55.3%減の大幅減収となった。これはノートPCからタブレットPCへの需要シフトによるもので、前述のタブレットPC向け売上高の増収と裏腹の関係にあるものだ。全体金額も既にタブレットPC向けの10分の1近くになっており、影響は徐々に小さくなってきている状況だ。
テクノロジーソリューション事業の2017年3月期通期の業績は、売上高21,200百万円(前期比24.2%減)、営業利益900百万円(同71.2%減)と予想されている。下期だけを取り出すと、売上高は7,058百万円、営業損失888百万円と、前年同期比較はもちろん、第2四半期との比較でも大幅に収益が悪化する見通しだ。
この原因はひとえに、スマートフォン向け売上高が、サムスン電子のGalaxy Note 7の生産中止により急減することにある。第2四半期に8,435百万円だったスマートフォン向け売上高は、今下期は2,065百万円になると予想されている。この内容はGalaxy Note 5向け部品の継続生産分とGalaxy Note 7向け部品の残材清算分だ。
タブレットPC向けは引き続きAES電子ペン搭載モデルが好調を持続すると期待されている。ノートPC向けは第2四半期同様、タブレットPCへの需要シフトで減収の流れが続く見通しだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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