サイネックス Research Memo(2):官民協働事業『暮らしの便利帳』発行を皮切りに地域行政情報誌の発行が拡大
(1)沿革と経営方針
サイネックス<2376>は1953年、三重県松阪市において電話帳及び各種名簿の作成事業を目的に、近畿電話通信社として創業した。1966年に法人へ改組し本社を大阪市に置いた。その後全国に支店網を広げて営業地盤の拡充を図り、電話帳『テレパル50』を軸に順調に業容を拡大させた。
転機は2000年代半ばに訪れた。電話帳作成の業務プロセスの本質は地域密着型の情報誌発行であり、同社はその知験を生かして地域行政情報誌の発行事業への進出を決定した。2006年に大阪府和泉市との間で官民協働事業『暮らしの便利帳』発行協定を締結し、2007年5月に初の『市民便利帳』を発行した。これを皮切りに地域行政情報誌の発行事業が急速に拡大し、『わが街事典』の統一ブランドを導入し、現在に至っている。
同社はまた、IT活用による地域支援を目指し、2012年にはeコマースサイト『わが街とくさんネット』の運営を開始し、また2013年にはふるさと納税支援のための『わが街ふるさと納税』をオープンした。2014年には茨城県笠間市との間で初のふるさと納税制度に関する一括業務代行協定を締結し現在に至っている。
こうした同社の沿革からもわかるように、同社は創業以来60年以上にわたり、地域別電話帳『テレパル50』の発行を通じて、常に地方とともに歩んできた。この間、日本では東京への一極集中が進む一方、地方の衰退が進行してきた。地方・地域とともに歩んできた同社は、地方に権限と財源を持たせて“独立自尊”の体制を確立することが重要であるとの信念を持つに至った。それが同社の“地方創生のプラットフォームを担う『社会貢献型企業』を目指すという経営理念へとつながっている。
その具体的なあり方として同社は「官民協働事業」の推進を掲げている。行政、企業、住民などが一体となり、地域を活性化させて公共を支えようという考え方だ。同社は官と民をつなぐ存在として貢献することを目指している。地方は、財政逼迫、人口減少、地域経済の衰退など、数多くの問題を抱えている。これらの解決には権限と財源について地方が主導権を有する地方分権体制が不可欠だが、その実現は簡単ではない。そうした現実の中で、地方が再生を果たす現実的方策として、官民の協働こそがカギになるというのが同社の実際の事業展開のベースとなっている。「PPP(Public-Private Partnership)」というスローガンのもと、自治体と民間企業である同社が協働で取り組むことで、官と民という異分子結合による化学反応で相乗効果を生み出そうという発想だ。
「官民協働事業の推進」という理念は、同社が手掛けるすべての事業において貫かれている。地方自治体との取引を収益源とする企業は数多いが、同社のように地方自治体の財政負担を伴うことなく自社の収益を確保し、自治体と住民の価値を高めて地方再生へつなげようというビジネスモデルの企業は非常に数が少ない。まして、そうした事業を全国展開している企業はさらに少数だ。同社の経営方針は、他に例を見ないユニークなもので、そこに同社の潜在成長性の源泉があると弊社では考えている。
(2)事業の概要
同社の事業は、出版事業、WEB・ソリューション事業、ロジスティクス事業の3部門からなっている。従来はプリントメディア事業、ITメディア事業、DM事業という構成だったが、2017年3月期から現在の形へと変更した。そもそも同社は「メディア事業」を手がける単一事業体制であったが、2015年10月に郵便発送代行事業を手掛ける(株)エルネットを連結子会社化したことで「メディア事業」と「その他事業」(エルネット事業)の2事業部体制となった。そして今回、各事業の実情に即して、一部の事業を組み替えるとともに、より分かりやすい名称へと変更した。したがって、各事業部門の中核的事業内容は大きくは変更されてはおらず、各事業の歴史を振り返るうえで、事業部門の業績数値の過去からの連関性、継続性はほぼ保たれている状況だ。
2017年3月期第2四半期実績ベースの各事業部門の売上高構成は、出版事業が58.2%、WEB・ソリューション事業が25.0%、ロジスティクス事業が16.8%となっている。一方、セグメント営業利益は、出版事業が715百万円、WEB・ソリューション事業が15百万円の営業損失、ロジスティクス事業が81百万円とセグメント間でばらつきがある。全国の地方自治体に浸透するとともにビジネスモデルを確立した出版事業が収益の中核であり、WEB・ソリューション事業は将来のポテンシャルは非常に大きいものの、足元は育成中の事業も多いため収益貢献度ではまだこれからという状況だ。ロジスティクス事業は、収益性は低いが安定した事業となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
<TN>
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