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我々は念ずるのみならず行動すべき時、ロシアによるウクライナ侵攻が示唆するもの(元統合幕僚長の岩崎氏)2


「我々は念ずるのみならず行動すべき時、ロシアによるウクライナ侵攻が示唆するもの(元統合幕僚長の岩崎氏)1」の続き。

2.我が国の向かうべき方向
我が国は、現在、丁度「国家安全保障戦略(NSS)」、「防衛計画の大綱(NDPG)」、そして次期の陸海空自衛隊の体制・態勢や装備品等の導入計画を定める「中期防衛力整備計画(MTDP)」の三文章の見直し中である。政府としては、今年末までに新NSS・NDPG・MTDPを策定したい考えである。我が国の現在のNSSは2013年12月に閣議決定された。今年末で9年になる。我が国の同盟国である米国は昨年1月、バイデン大統領が就任し、今年になり漸く、新NSSが出された。今後、これまでどおりだとすれば、新NSSを受け「国家防衛戦略(NDS)」、「国家軍事戦略(NMS)」、「核態勢見直し」、「弾道弾態勢見直し」等々の各種戦略・構想等の発出が予期される。この様な時期にウクライナ侵攻が生起した。我が国は、米国と同盟国であり、今後、米国の動向を見極めつつ、我が国の三文章策定の検討を深めていく必要がある。

a.我が国の国策(「安全保障基本政策」)の幅広な議論
私は、ウクライナのゼレンスキー大統領の事を多く知っている訳でない。我が国を含む西側の多くの国では、政治経験のない大統領の出現にやや違和感や懸念を持っている報道が多かったが、駐ウクライナ日本大使館勤務の方々やウクライナ駐在の企業の方々から、彼の人となりを伺ったことがある。彼は、「芸人」又は「俳優」であったものの、大統領就任以降、ウクライナの国民とのふれ合いを大切にし、各地で国民との対話を行っていたとの事だ。また、国防軍の各部隊をこまめに訪問し、最先端で任務に就いているウクライナ軍人達を激励し、士気を鼓舞していたとも聞いている。この様な地道な努力があったからこそ、今回の事態になり、この軍人達が、ゼレンスキー大統領の「演説」を聞いて、大いに励まされ、ロシア軍に屈することなく戦おうとしているのである。ウクライナ国民も同じである。素晴らしいことである。

開戦して間もない時期に、我が国のTVには、ウクライナで、これ以上の民間人の犠牲者を出さないため、抵抗をやめた方がいいと、あるコメンテーターが発言された。市民の犠牲者を減らす事だけを考えての発言とは思うが、結構な影響力をお持ちの方であり、残念な発言であった。それだけ、我が国は平和であり、自国防衛の為に戦うという意識を持つ機会も必要もなく、仕方ない事なのかもしれないが、危機管理や国自体の成り立ちを考えれば如何であろうか。国を失うことの悲惨さを考えれば、あり得ない事である。

また、昨年の米軍のアフガン撤退作戦の際、バイデン大統領が「自国を守ろうとしない人達の為に、どうして米軍人が血を流さないといけないのか」と発言された。当然のことである。この当たり前のこと(自分達で自国を守ること)を我が国では、幸か不幸かこれまで国を挙げて議論したことがなかった。国の安全保障は、国の成り立ちの根本的な事であり、全ての事に優先すべき政策・方針であるべきである。

我が国は、「専守防衛」、「非核三原則」、「軍事大国にならない」等々の安全保障に係る国家としての方針を有している。私は、今回のウクライナ侵攻を捉え、この様な我が国の重要な政策・方針を徹底的に議論すべきと考えている。私の議論の目的は、我が国の政策・方針を変更することではない。寧ろ、多くの国民に我が国の現状を認識してもらうことが重要なのである。どんな政策を取ろうが、完璧はない。必ずリスクは伴う。そのリスクを認識してもらうことが重要なのである。戦争とは、軍のみで行うものではない。国民の強い意志が軍を支える。即ち、国家が一体とならないと戦争遂行が出来難い。我が国は、「専守防衛」を旨としている。この考え方は、極めて平和的であり、素晴らしい考え方である。

しかし、これには、前提がある。我が国が他国を犯さないと宣言すれば、どこの国も我が国を攻撃して来ない、との考え方であり、また、我が国に急迫不正な侵害が起こった際には国連軍が守ってくれる・排除してくれるとの認識の下、この様な方針を策定した。果して、この様な世界が実現できているのだろうか。残念ながら「否」である。現実を見れば、北朝鮮は、これまで何回か「東京を火の海にする」と我が国を脅迫し、中国は、「尖閣列島や沖縄は、昔から我が国のもの」と言い続けている。北方四島にはロシアが居座っており、最近では「北海道もロシアのもの」と主張するロシア国会議員や研究家もいる。我が国は、この様な国々に囲まれているのである。

我が国の防衛政策の大きな柱は「専守防衛」である。この「専守防衛」とは、先ず、我が国に対する攻撃や侵略があってから、我が国の自衛隊が立ち上がるとの考え方である。自衛隊は遠征部隊(軍)ではない。自衛隊の主戦場は、我が国土及び周辺海・空域である。即ち、自衛隊、若しくは一般国民に被害が出た以降に自衛隊が反撃に出る。「専守防衛」政策とは、この様な漸弱性・弱点を孕んでいる政策なのである。今後も、この政策を続けるのであれば、この様なリスクを認識しておく必要がある。

他の特徴的な防衛政策が「非核三原則」である。我が国は唯一の被爆国であり、国民の間で「核」の議論することを躊躇う傾向がある。一方で、我が国は、核保有国に囲まれていることも冷徹な現状である。我が国では、これまで何度か議論しようとした国会議員や閣僚がおられたが、即座に口封じをされたり、更迭されたこと度々である。実際には「非核三原則」ではなく「非核四原則」になっていた感がしている。被爆国であり、この方針を大切にしないといけない事は重々承知の上である。しかし、議論を封じ込めてはいけない。

今回のロシアのウクライナ侵攻を機に、我が国の今後の安全保障基本政策・方針をどうすべきかを真剣に考え、議論すべき時が来ている。その上で、これまでどおりの政策を維持・継続するとなっても(そうなる可能性が大と思われるが)、国民から確りした支持を頂いた方が、自衛隊も持てる力を最大限に発揮できる。多いなる、幅広い議論を期待している。


(b)NSSは外交・防衛のみではない
今回、策定見直しを行う「国家安全保障戦略(NSS)」は、国家としての安全保障に係る基本的な考え方である。狭義の安全保障ではなく、広義の安全保障である。このNSS策定後は、国家の安全保障に関する各種分野の戦略や構想が必要である。外交分野では「インド・太平洋構想」が打ち出されている。また、昨年来、「経済安全保障」を司る大臣を新設し、基本法を国会で議論中である。今回の軍事侵攻直後に、世界の多くに国々がロシアに対する経済制裁を即座に決定した。しかし、中にはロシアに石油や天然ガスを依存している国もあり一丸となれない部分もある。この様なことを考えれば、エネルギー安全保障も必要であり、食糧や、サイバーや宇宙分野の基本的な方針が必要である。今回のコロナウイルスの拡大では、当初、マスクが不足した。パンデミック対策も必要である。策定されるNSSを受けて、広義の意味での安全保障に係る「各種戦略」や「構想」等を平時から策定しておくべきである。

(c)NDPG/MTDPについて
我が国は、自衛隊創設以降、1-4次防衛力整備計画に従って漸次、防衛力を整備してきた。1976年(昭和51年)10月、ポスト4次防を経て、「防衛計画の大綱(NDPG)」に移行した。その後、1995年(平成7年)、2004年(平成16年)、2009年(平成22年)、2013年(平成25年)、2018年(平成30年)の見直しを経て現在に至っている。私は、今回の三文章見直しでは、抜本的な見直しが必要と考えている。基本的には、諸外国を参考にしつつ、我が国なりのNSS及びそれ以下の戦略を持つべきであると考えている。同盟国である米国等はNSSを受け「国家防衛戦略(NDS)」、「軍事戦略(NMS)」等々の戦略体系を有している。我が国も、NDPGに変えNDSを導入し、新戦略体系にすべきと考えている。各国では、これらの戦略の承認権者は必ずしも同じではないが、多くの国ではNSSに対して大統領・首相が決定権を持ち、NDSは国防大臣、そしてNMSは制服組のトップの参謀総長(米国は統合参謀本部議長)が策定権者となっている。私は、我が国が仮にこの戦略体系を導入する場合でも、NSS、NDS、この戦略を受けた「防衛力整備計画(現在よりもより長期期間の計画)」は、これまでどおり閣議決定が望ましいと考えている。「統合運用戦略」であれば、防衛大臣が相応しいと考えている。この戦略体系の平仄を米国と合わせることは、同盟国としてより一層の相互理解増進に繋がるものと考えている。今回の見直しを機に是非、三文章の新体系に踏み切ってもらいたいと考えている。また、その際、各国は、各文章の全ては広報していない。即ち、「秘」の部分が含まれている。当然であろう。我が国も新戦略には、この考え方が必要と考える。

我が国の防衛力整備上、優先的に行うべき事については、次回に譲る。(令和4.4.19)

岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

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