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コラム【新潮流2.0】:資本主義を思う季節(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)


◆【新潮流】を毎日書いていた7年前、その年の今頃に「詩は10月の午後」という一文を書いた。田村隆一の「西武園所感」という詩の一節からである。

『詩は十月の午後/詩は一本の草 一つの石/みみっちく淋しい日本の資本主義/ぼくらに倒すべきグラン・ブルジョアがないものか』

そこではこう述べた。<「ブルジョア」とは本来、中産階級の市民を指す言葉であった。それが近代の共産主義、社会主義的な思想のなかでプロレタリアート(労働者階級)と相対する資本家階級を指す言葉へと転化した>。

◆岸田首相は「ブルジョア」=資本家階級を倒すつもりだろうか。金融所得課税の見直しには当面触れないと取り下げたものの、格差是正は首相の掲げる主要な政策課題だ。あまりに「分配」や「格差是正」を謳い過ぎると、どうしても共産主義、社会主義的な匂いが立つ。首相が目指す「新しい資本主義」の形を早くはっきり示してほしい。

◆気になるのは首相の所信表明演説での発言だ。企業が、株主だけではなく、従業員も、取引先も恩恵を受けられる「三方良し」の経営を行うことが重要だと述べたのだ。株主至上主義からすべてのステークホルダーへの配慮は米国の経済団体、ビジネス・ラウンドテーブルの宣言に追随するものだろう。 しかし、英米企業はあまりにも株主至上主義が行き過ぎていたので、その修正が必要だというのはわかる。翻って日本の場合は、反対にあまりにも株主が軽視されてきた。コーポレートガバナンス改革などでようやく株主重視の経営回帰が緒に着いたばかりである。英米企業の方針転換で、「それ見たことか」と日本流の古い「共産主義的」ガバナンス体制に戻ることがあっては困る。

◆「新しい資本主義実現本部」の設置が決まった。実現会議のメンバーを見ると、錚々たる顔ぶれだ。有益な議論を期待したい。ぜひとも「みみっちく淋しい日本の資本主義」をぶっ飛ばしてもらいたい。そうは言っても、資本主義は資本主義だ。どれだけ変われるだろうか。イギリスの元首相、ウィンストン・チャーチルはこう言った。「民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば。」そっくりそのまま「資本主義」にも当てはまる。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆
(出所:10/18配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)


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