カブール陥落が問いかけるもの−同盟の在り方−【実業之日本フォーラム】
翌16日、バイデン大統領は、20年にも及ぶ戦争は国造りのためではなく、「アフガニスタンを、アルカイダが米国本土攻撃のために使えないようにする」ためであり、「アフガニスタン軍が戦おうとしない戦争に米国民を巻き込むわけにはいかない」と米軍の撤退を正当化している。
バイデン大統領の言葉にも拘わらず、アメリカが主導し、NATOや日本を巻き込んだアフガニスタンの民主国家づくりが失敗したのは明白である。8月18日付の中国解放軍報は、「カブールの陥落は米国覇権滅亡の前兆である」、との社説を掲載している。アメリカ及びNATOが底なし沼にはまったとしつつも、アメリカの介入により、アフガニスタン市民3万人以上が命を失い、6万人以上が傷つき、約1,100万人が難民となったと主張し、米国の覇権主義は「悲劇」しかもたらさなかったと批判、新型コロナウィルス蔓延による財政危機も相まって、アメリカの覇権が衰えつつあることは明白であると結論付けている。
中国は最近、バイデン政権の、同じ価値観を持つ国と協力するという「価値観外交」に対し、アメリカの価値観が独善的で、不幸を巻き散らしているという主張を繰り広げている。(「七つの大罪−中国の世論戦−」(2021.8.10)参照)カブール陥落に関しても、中国は同様の主張を繰り広げてくるであろう。
8月19日付の、米国の権威ある外交・軍事・安全保障専門紙であるThe National Interestは、同紙社長シメス氏の「危険な幻想」という論説を掲載している。同氏は「米国と欧州の指導者は、民主主義を世界的に広げることを使命と捉え、そうしなければ、権威主義的国家の影響力が拡大してしまうとの幻想に取りつかれている」とし、「民主主義は本質的に、繁栄と安全を提供するということを前提とすべきではない」と主張している。そして、中露との対立は「民主主義」対「権威主義」という見方をすべきではなく、「民主主義」を他国に押し付けることは誤りであるとしている。民主主義の拡大に否定的な意見が主流を占め、アメリカ外交のインセンティブが低下、それに伴いアメリカの国際社会における指導力に陰りがさすことが危惧される。
カブールの陥落をベトナム戦争における「サイゴン陥落」になぞらえる報道も散見される。加えて、アメリカがアフガニスタンを見捨てたとし、アメリカが支援する国を見捨てるのは初めてではないとの論調も目立つ。確かに、1940年代の中国国民党、1970年代の南ベトナム、そして近々ではイスラム国との戦いにおけるクルド人等、アメリカが見捨てたと言われても仕方のない例があることは否定できない。台湾や韓国においても、米国から見捨てられる可能性について言及する者もいる。
日米同盟はどうであろうか。今のところ今回のカブール陥落を見て、日米同盟に対し疑問を呈する意見は目にしない。しかしながら、同盟には常に「見捨てられる懸念」と「巻き込まれる懸念」が存在する。日米安保条約を締結した当初は「巻き込まれ論」が主流となり、1960年の改定に係る国会審議への抗議集会が暴徒化し、国会を取り囲んだことがあった。当時は、米ソ冷戦が厳しさを増していた時期であり、ソ連に対する橋頭保として日本の役割は大きく、「見捨てられる」ことよりも「巻き込まれる」ことに対する懸念のほうが大きかったと言えよう。
しかし、最近では状況が変わりつつある。中国の尖閣諸島に対する主張及び公船等の活動から、中国が尖閣諸島を軍事的に占拠した場合、米国は行動を起こしてくれないのではないか、という「見捨てられる懸念」が拡大している。歴代自民党政権が、尖閣諸島は日米安保の対象という言質を米国から得たことを強調するのは、日本国内にある「見捨てられる懸念」を少しでも払しょくしようとするものであろう。
カブール陥落は、日本にとって「アメリカから見捨てられないためにはどうしたらいいか」という点で教訓を示している。アフガニスタンからの撤退を正当化するバイデン大統領の言葉から、尖閣防衛について、日本として注目しなければならないことは二点である。
第一点は、尖閣防衛がアメリカの国益に直結するという共通理解を持つことである。アフガニスタンからの撤退は、「アフガニスタンが米国本土へのテロ攻撃に活用される可能性がなくなった」ことが理由として挙げられた。将来的なリスクは別にして、現時点ではこれを否定できない。同様に、尖閣諸島に関し、中国の領土であってもアメリカの国益に影響はないという考えが米政府にある場合、いざというときに「日米安保の対象」という言質は簡単に反古にされるであろう。米国政府に、中国の尖閣軍事侵攻事態において、尖閣を見捨てるようなことがあれば、日米安保は崩壊し、アメリカは「中国との戦略的な競争」に敗れることとなることを十分に理解させる必要がある。
二点目は、日本自らの防衛努力である。バイデン大統領は「アフガニスタン軍が戦う意志がないのに、なぜ米軍人が命を懸ける必要があるのか」と述べている。8月16日、バイデン大統領は、アフガニスタン政権の崩壊とタリバンによる奪回が予想より早かったことを認めている。「予想より早かった」ということは、政権の崩壊は折り込み済みであったことを意味する。アメリカが、当初からアフガニスタン政権を信頼していなかったという証左である。日本は尖閣防衛に関し、アフガニスタン政府と同じ轍を踏むわけにはいかない。尖閣防衛は自らが主体的に行うという覚悟と所要の防衛力整備、そしてそれらに対する米国の理解を得ておくことが肝要である。
崩壊したアフガニスタン政府は、20年間にわたり米国の関与を受けていたとはいえ、選挙で選ばれた民主的な政権であったと言える。当該政権が崩壊し、タリバン政権が発足することを予想した上で軍の撤退を決めたバイデン政権は、アフガニスタンにおける民主主義防護を放棄したことを意味する。今回の米軍撤退は、バイデン政権が自ら進める「価値観外交」に大きな打撃となることを覚悟した上での決断であった。
冷徹な国際関係の観点からは、「価値観」は決して「国益」の上位とはならない。今年4月にワシントンで行われた日米首脳会談の共同声明において、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値が日米両国を結び付けていることが確認されている。しかしながら、同盟を維持するのは「共通の価値観」だけではなく、両国それぞれの国益のために、何かを一緒に成し遂げようという「同じ戦略目的」である。カブール陥落は、共通の価値観を持つ同盟国であっても、同じ戦略的目的を持つことがいかに重要かを、白日の下にさらしたと言えよう。
アメリカのアフガニスタンにおける民主化政策は、現時点では完全に失敗したかに見える。しかしながら、20年間にわたりアフガニスタン国民が享受したタリバン政権とは異なる生活様式が、今後のアフガニスタンにどのような影響を与えるかが注目される。事実、最近アフガニスタン国内で、女性の人権を守るよう訴える集会が開かれているとの報道がある。今後タリバン政権が従来のような、独自解釈に基づく厳格なイスラム統治に回帰するならば、一定程度民主主義の果実を味わった国民が反タリバン運動を起こすことも考えられる。その際、アメリカを中心とする民主主義国家がどのように関与していくかが問われることになるだろう。
カブール陥落との共通性が指摘される1975年のサイゴン陥落であるが、その後ベトナムは1986年に「ドイモイ」政策を導入、資本主義経済、国際協調、社会主義政策の緩和等を打ち出し、著しい経済発展とアメリカを含む民主主義国家との良好な関係を保っている。アフガニスタンがベトナムと同じ道を歩むのか、かつてのような不安定国家となるのか、現時点で予測するのは極めて困難である。
サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。
写真:Abaca/アフロ
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