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歴史の転換点となるであろう日米首脳会談の意義(元統合幕僚長の岩崎氏)


2021年1月20日、米国のバイデン新政権がスタートした。バイデン大統領は就任直後から積極的な外交を展開している。各国との電話会談、主要国との閣僚会議や懇談、Webによる会議の主催等々、出だしは極めて好調である。

我が国との間では、1月の菅総理との電話会談、3月の外務・防衛相会議(2+2)、そして4月にはワシントンでの対面形式による日米首脳会議、そして米国主催の気候変動に関する各国首脳とのWeb会議への参加、そして今月5月の英国でのG7外相会議への参加等々が行われている。

バイデン政権では、トランプ大統領の4年間で崩れた同盟国との関係改善に重点を置き、特に日本を頼りにしている感がある。大変好ましい事ではあるものの、これにはかなりの覚悟が必要である。

先ずは、バイデン政権の就任100日の総括をすれば、大変順調な滑り出しであるというのは既に述べた。就任に当たっての決意は、4月28日(米国時間)の上下両院合同会議での演説に集約されている。この演説は、就任後初の施政方針演説である。この中には、国内問題である「格差是正や底辺の底上げ、雇用創出、中間層を中心とした経済成長」が含まれ、対外政策では「21世紀を勝ち抜くための競争」を強調し、「インド・太平洋地域を重視」することを述べた。大変素晴らしい演説である。

若干の余談であるが、素晴らしい演説で有名なのは、やはりオバマ大統領である。彼は、就任間もない時期にプラハで素晴らしい演説を行った。なんと「核廃絶」を唱えたのである。オバマ大統領は、この演説で「ノーベル平和賞」を受賞したとも言われたほどである。そして、彼はプラハ演説から7年後に広島を訪ね、再度、「世界平和」、「核廃絶」を唱えた。

しかし、彼は、プラハ演説から広島の演説までに、彼主導で核爆弾を破棄したことは一度も無く、破棄しようとした気配も見られなかった。責任を問われない市民運動家であれば仕方ない。しかし、彼は政治家である。しかも世界をリードする米国の大統領である。昔、我が国には「武士に二言はない」と言われていた事がある。政治家は、武士である必要こそないものの、行動力が問われる。口先だけでは「真の政治家」ではない。私は、バイデン大統領の演説を本物だと信じている。

さて、今回の本題は日米首脳会議の評価である。いろいろな評価が出されているが、私は「成果大」だったと評価している。先ずは、バイデン大統領が、対面による最初の首脳会談として選んだのが菅総理であるということだ。バイデン大統領は、選挙期間中から同盟国との連携を重視するとの考えを明確にしていた。その同盟国の中から、最初に我が国を指名したのである。日米同盟関係の重要性を表したものであるといえよう。そして、会議の内容も広範に及び、様々な課題に日米が連携し、世界を主導することを確認した。安全保障を含む対外政策、5Gに代表されるテクノロジー政策、エネルギー問題そして気候変動である。

安全保障問題では、対中国問題を中心に議論が交わされた。バイデン大統領は、既にこれまでに電話会談や外務・防衛会議(2+2)で明らかにしている尖閣諸島に関しての「安保五条適用」についての再確認、中国軍の南シナ海や東シナ海等での「力による現状変更」対応、台湾海峡の「両岸の平和解決」、深刻な新疆ウイグルでの人権問題・香港問題等々が話され、会議終了後の記者会見において菅総理は、我が国の「防衛力強化」に言及された。中国に対する大変有効な警鐘となった。

また、先進技術政策に関しては「日米競争・強靭性パートナーシップ(Japan-US Competitive and Resilience Partnership;CoRe(コア) Partnership)」が締結された事は大変重要である。中国は予てから「千人計画」なる事を推進していた。科学技術に莫大な資金投入を行い、世界の技術者を集めている。米国でさえ一国では十分な予算が確保でき難い状況であるが、このコア・パートナーシップで日米の優れた技術的優位性を再度、取り戻すことが出来る可能性がある重要な協定である。

エナルギー問題、気候変動問題も、日米のみならず、地球規模での深刻な問題である。この問題にも日米が世界をリードして行くことが確認された。先日の米国主催の気候変動に関する各国首脳Web会議に習近平主席も参加した。中国も否応なしに巻き込まれている。

さらに、今月に入り、英国ロンドンで対面式によるG7外相会議が行われた。この会議は英国が議長ではあったものの、日米が中心となって会議をリードした感がある。

この様に我が国は、国際社会の中で大変重要な役割を担い始めている。我が国では、これまで何度か「日米同盟の再定義」等の議論が起こったことがある。安倍政権以降の我が国を取り巻く環境の激変(特に中国の急激な台頭)、そして国内環境の大きな変化(平和安全法制での集団的自衛権見直し)等から、そろそろ我が国の国際社会での在り様、日米同盟の意義・あり方等に関して真剣な議論が必要な時期に来ている。当然、この中には、我が国の基本である「憲法」の議論は勿論の事、国際社会での役割、日米同盟の役割分担等々も含んでいる。

菅総理は、「我が国の防衛力強化」を宣言された。南シナ海・東シナ海、台湾海峡等々の状況を考慮すれば、私たちに与えられた時間的猶予はそれほどない。早急に我が国の戦略体系(「国家安全保障戦略」、「防衛計画の大綱」、「中期防衛力整備計画」の見直しに着手するとともに、日米防衛協力指針(日米ガイドライン)の改定が必要である。今回の日米首脳会議において、米国は日本を頼りにしている事が明確になった。菅総理をオバマ大統領の様に口先だけの総理にしてはいけない。(令和3.5.10)

岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。

写真:ロイター/アフロ

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