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先行き不透明なバイデン政権の中東政策【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】


2021年2月25日、BBCは、「米政府は、イラク国内の米国や連合軍施設への攻撃に対抗するため、イランが支援する『カタイブ・ヒズボラ』と『カタイブ・サイード・アル・シュハダ』の2つの戦闘集団の施設を標的に空爆を実施した」と報じた。2月26日、米国のジェン・サキ大統領報道官は「空爆の後であるが、米国は、イランの核合意復帰について対話を行う用意がある」と発表し、対話継続によりイランの核合意復帰を促すとともに、「現在、英・仏・独が核合意をめぐる対話にイランを招いている状況で、返事待ちである」と述べた。一方、イラン外務省の報道官は、2月25日の米国の空爆に関し、「シリアへの侵犯であり、地域の不安定性を高めるものだ」と強く非難した。

2018年5月、トランプ前政権は、「イラン核合意からの離脱と米国独自の最高水準の制裁を行う」と宣言した。イランはこの制裁により大きな経済的打撃を受けており、米国に対する憎悪と国際協定を一方的に反故にする米国政治への不信感をつのらせている。イランでは、2020年12月、保守強硬派が主導して、米国の制裁に対抗して「ウラン濃縮度を、イラン核合意が認める3.67%を大幅に上回る20%に引き上げることを政府に義務付ける法案」を成立させた。2021年6月に行われる大統領選挙で、法案を成立させた保守強硬派か、穏健な現ロウハニ大統領派か、いずれの政権が誕生するのかが注目される状況だ。一方、バイデン政権には、トニー・ブリンケン国務長官、ジェーク・サリバン大統領補佐官というオバマ政権でイラン核合意が成立した際の立役者が揃っているものの、当時と情勢は大きく異なっていることから、今後「イラン核合意」は、混迷を深めそうだ。

2021年2月26日、米政府はサウジアラビアのジャマル・カショギ記者殺害事件について「サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子がカショギ記者殺害作戦を承認した」とする報告書を公表した。そして、「事件関係者に対するビザ発給制限や殺害に関与したサウジアラビアの元情報機関幹部らの米国内の資産凍結措置を課す」と発表した。これに対し、サウジアラビア外務省は、「米国側の報告書の内容は完全に否定する」と、強く反発しており、トランプ前政権で構築された米国とサウジアラビア間の信頼関係の悪化は避けられない情勢だ。また、米国は2月16日にイランが支援するイエメンの反体制武装勢力「フーシ」に対し、「テロ組織」指定の解除を行った。さらに、イエメンに軍事介入しているサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)への武器売却も凍結する方針を発表している。

トランプ前政権は、イランと深い外交関係にあるカタールに対しては、湾岸4カ国(サウジアラビア、UAE、エジプト、バーレーン)との国交回復を支援し、イランの敵であるイスラエルに対しては、中東、北アフリカ4カ国(UAE、バーレーン、スーダン、モロッコ)との国交回復を画策した。いずれもイランを包囲する勢力関係を築くことが目的である。UAEが、米国の方針に従ってカタール、イスラエルと国交回復したのは、「見返り」として米国の最新鋭ステルス戦闘機F-35が売却されることを期待したためであったが、当てが外れたことから、米国への不満に発展する可能性がある。

米国の制裁により、経済的に追い込まれたイランについて、2020年7月のニューヨークタイムズは「イランは、中国の一帯一路の重要拠点として巨額の経済投資や軍事技術の供与を受ける協定を締結した」と報じた。一方、2020年9月、AFPは「イランは、ロシアの南部軍管区大演習『カフカス2020』に参加するとともに、ロシアの軍事技術の提供を受けている」と報じた。今後、サウジアラビアが「米国不信、米国離れ」になり中国、ロシアと外交関係の親密度を増すようなことになると、中東は新たな火種を抱えることになる。イランとサウジアラビアという中東の大国との外交において、バイデン政権の舵取りから目が離せない状況だ。


サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。

写真:ロイター/アフロ

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