本稿は「空母は生き残れるか−米原子力空母が震える日(1)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」(※1)の続編となる。

米海軍は最適な艦隊編成に係る検討を継続的に実施しており、その中で空母機動部隊保有について疑問が呈されている。その理由の第一は建造費や維持費が膨大であることである。2017年に就役した最新鋭原子力空母フォードの建造費はニミッツ級の約2倍の約1兆4,000億円にのぼる。これは、「電磁式カタパルト」や新型着艦制動装置の開発費が予想よりも膨らんだためである。更には、搭載航空機であるF-35Cの1機の値段は100億円を超えるとされており、航空機を含む空母1隻の値段は優に2兆円を超す。米国会計検査院が1998年に算出した米原子力空母の建造費は約4,500億円、年間運用経費は約350億円と推定されていた。インフレを加味しても、著しい経費の増大と言える。米海軍は空母を11隻保有しているが、1隻でも失われると乗員等約5,000人に加え、膨大な資産を失うこととなる。

次に指摘されているのは、空母の脆弱性についてである。前述のとおり、米海軍原子力空母には複数の随伴艦がおり、空母の護衛任務にあたる。潜水艦の脅威が高い海域においては、原子力潜水艦が周辺の警戒を行うこともある。しかしながら、近年中国が開発、配備している対艦弾道ミサイルに対する防御は困難と言われている。対艦弾道ミサイルについては、広大な洋上を高速で移動する米原子力空母の位置を把握するのが困難と見られることから、「張り子の虎」ではないかとの指摘がある。しかしながら、本年1月13日に読売新聞が報じたところによれば、昨年8月に南シナ海において実施された対艦弾道ミサイル(DF-21及びDF-26)の発射試験で航行中の標的船に命中したことが伝えられている。前述のとおり、極めて高価な原子力空母を、少しでも危険な状況に置くことはできない。対艦弾道ミサイルの脅威がなくなるまでは、その射程外を行動する可能性がある。紛争の初期の段階で、米原子力空母の展開遅延は、紛争の帰趨に大きな影響を及ぼす。

これに加え、昨今指摘されているのは小型無人兵器の群れによる攻撃(SWARM)である。2020年9月に生起したナゴルノカラバフ紛争において、アゼルバイジャンが多数の無人航空機(ドローン)を使用し、アルメニアの戦車やロシア製防空システムS-300を無力化したと伝えられている。多数の小型無人航空機や潜水艇が協調行動をとり、洋上を航行する原子力空母に襲い掛かるという場面は、荒唐無稽な想像とは言えない。小型無人兵器の破壊力は限定的ではあるが、空母の甲板に穴を開けたり、推進器を損傷させたりすれば、浮いてはいても任務が不可能な状態、いわゆる「Mission Kill」状態となる。多数の無人機の協調行動要領や長期間行動させる電源(燃料)問題等解決すべき課題は多い。しかしながら、イナゴの大群のような小型無人兵器に、無敵を誇る米原子力空母が、手も足も出せない状況に陥る日が来るのはそう遠いことではない。

もちろん米軍も手をこまねいているばかりではない。電子攻撃により小型ドローンをコントロール不能状態にすることや、レーザー等により物理的に破壊する方法も検討されている。もちろん無人兵器もそれに対応する能力の検討を進めているであろう。ロボット工学や人工知能の発達により、無人航空機や無人潜水艇による過飽和攻撃を完全に防ぐことは難しい。10万トンを超える米原子力空母が与える安心感は大きいが、大型恐竜が滅びたように、いつまでも信頼できる兵力と考えるのは危険であろう。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

※1:https://web.fisco.jp/platform/selected-news/fisco_scenario/0009330020210113007

本稿は「空母は生き残れるか−米原子力空母が震える日(1)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」(※1)の続編となる。

米海軍は最適な艦隊編成に係る検討を継続的に実施しており、その中で空母機動部隊保有について疑問が呈されている。その理由の第一は建造費や維持費が膨大であることである。2017年に就役した最新鋭原子力空母フォードの建造費はニミッツ級の約2倍の約1兆4,000億円にのぼる。これは、「電磁式カタパルト」や新型着艦制動装置の開発費が予想よりも膨らんだためである。更には、搭載航空機であるF-35Cの1機の値段は100億円を超えるとされており、航空機を含む空母1隻の値段は優に2兆円を超す。米国会計検査院が1998年に算出した米原子力空母の建造費は約4,500億円、年間運用経費は約350億円と推定されていた。インフレを加味しても、著しい経費の増大と言える。米海軍は空母を11隻保有しているが、1隻でも失われると乗員等約5,000人に加え、膨大な資産を失うこととなる。

次に指摘されているのは、空母の脆弱性についてである。前述のとおり、米海軍原子力空母には複数の随伴艦がおり、空母の護衛任務にあたる。潜水艦の脅威が高い海域においては、原子力潜水艦が周辺の警戒を行うこともある。しかしながら、近年中国が開発、配備している対艦弾道ミサイルに対する防御は困難と言われている。対艦弾道ミサイルについては、広大な洋上を高速で移動する米原子力空母の位置を把握するのが困難と見られることから、「張り子の虎」ではないかとの指摘がある。しかしながら、本年1月13日に読売新聞が報じたところによれば、昨年8月に南シナ海において実施された対艦弾道ミサイル(DF-21及びDF-26)の発射試験で航行中の標的船に命中したことが伝えられている。前述のとおり、極めて高価な原子力空母を、少しでも危険な状況に置くことはできない。対艦弾道ミサイルの脅威がなくなるまでは、その射程外を行動する可能性がある。紛争の初期の段階で、米原子力空母の展開遅延は、紛争の帰趨に大きな影響を及ぼす。

これに加え、昨今指摘されているのは小型無人兵器の群れによる攻撃(SWARM)である。2020年9月に生起したナゴルノカラバフ紛争において、アゼルバイジャンが多数の無人航空機(ドローン)を使用し、アルメニアの戦車やロシア製防空システムS-300を無力化したと伝えられている。多数の小型無人航空機や潜水艇が協調行動をとり、洋上を航行する原子力空母に襲い掛かるという場面は、荒唐無稽な想像とは言えない。小型無人兵器の破壊力は限定的ではあるが、空母の甲板に穴を開けたり、推進器を損傷させたりすれば、浮いてはいても任務が不可能な状態、いわゆる「Mission Kill」状態となる。多数の無人機の協調行動要領や長期間行動させる電源(燃料)問題等解決すべき課題は多い。しかしながら、イナゴの大群のような小型無人兵器に、無敵を誇る米原子力空母が、手も足も出せない状況に陥る日が来るのはそう遠いことではない。

もちろん米軍も手をこまねいているばかりではない。電子攻撃により小型ドローンをコントロール不能状態にすることや、レーザー等により物理的に破壊する方法も検討されている。もちろん無人兵器もそれに対応する能力の検討を進めているであろう。ロボット工学や人工知能の発達により、無人航空機や無人潜水艇による過飽和攻撃を完全に防ぐことは難しい。10万トンを超える米原子力空母が与える安心感は大きいが、大型恐竜が滅びたように、いつまでも信頼できる兵力と考えるのは危険であろう。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

※1:https://web.fisco.jp/platform/selected-news/fisco_scenario/0009330020210113007

<RS>

情報提供元:FISCO
記事名:「空母は生き残れるか−米原子力空母が震える日(2)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】