元統合幕僚長の岩崎氏、イージス・アショアの代替は固定概念を排して決定すべき[2]
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それでは、各案に対するコメントをしたい。その前に、これらの案は、どの案であろうと最善な方策ではない。もし最善のものがあれば、最初からその案になっている。どの案でも次善の策である。どの案であろうが、いいところと、そうでない所があると思われる。また、もともとのSPY-7レーダーは地上システムが前提で契約されている事から、洋上の運用であれば、何らかの設計変更が必要である。このことはこの三案で共通であると考えられる。
先ずは、(1)洋上リグである。明確にはなっていないものの、米軍で既に運用されているSB-X(Sea Based X-band radar:THAAD用のTPY-2レーダー(Xバンド周波数帯)を10階建ビルの様な巨大な構造物の台船上に乗せたものであり、遠方から見ると巨大なゴルフ・ボールに見える)の様なイメージであろう。より簡単な構造物であれば、オイル・リグ的な巨大な柱だけの構造物かもしれない。この構造物の中にレーダーや発射機、統制室等を兼ね備えたものが想定される。経費的には最も安価に出来そうである。要員養成に関しても、他案に比較し必ずしも困難性が大きくない。しかし、移動させる場合には曳航船が必要であり、かつ移動速度が遅く、標的になり易い欠点がある。
次に(2)大型専用船(商船)である。大型の船である事から、他案に比べ比較的揺れが少なく、かつ隊員の船内での勤務環境において広くスペースが取れそうであり、隊員の身体的な疲労も少ないと考える。しかし、移動速度に難がありそうであり、テロや攻撃の標的になり易く、自己防御性に多大な困難があるだろう。
最後は(3)護衛艦(SPY-7レーダー搭載)である。これは、SPY-7レーダーが成功し、他システムとの連接さえできれば、海自はイージス護衛艦の運用に慣れている事から、他案に比較し、移動や自己防御機能を考慮してもベストの案であろう。しかしながら、もともとの原因であった海自隊員の負担軽減等に難があり、経皮的に最も高くなる可能性がある。SPY-7レーダーではないものの、現在米海軍が目指しているDD-51のイージス艦(SPY-6レーダー搭載)であれば、我が国独自のSPY-7レーダー搭載艦に比べて経費を安く抑えることが可能かもしれない。
いずれにしても、各案にはメリットもある一方で、相当大きなデメリットも想定し得る。今後、防衛省はこの三案を基本に検討することとなるが、必ずしもこの三案に拘らず、白紙的にとまでは言わないが、いろいろな案を拒まず検討し、結論を出すべきと考える。今回のイージス・アショア導入中止の大きな理由は、「海自隊員の負担軽減」と「ブースターの落下を制御する為に、より長期の時間と経費が必要」との事であった。とすれば、このことが最大限に考慮された案でないといけない。その際に、重要な点は以下になる。
■これまでの既成概念、即ち、「海に浮かぶものは海自隊員が運用する」との概念ではなく、全自衛官の定員の自由なやりくりを可能にすべきである。■各案に対してネット・アセスメント(Net Assessment)手法で費用対効果を検証すべきすべきと考える。
ネット・アセスメントは、米国が冷戦時に用いた手法であり、これにより、当時のソ連を倒すことが出来たとも評価されている手法である。この評価の際には、単純にこの代替装備品のだけでなく、自衛隊全体の防衛能力評価が必要である。例えば、(3)案のイージス護衛艦であれば、相対的に高価ではあるものの、艦隊防空等の能力も極めて高く、総合評価からすれば、悪くない案かもしれない。海自隊員の負担については、自衛官全体の任務の再配分(例えば、陸上にある海空基地の基地警備や基地業務等は、其々の自衛隊が行っているが、陸自に担当させる等、既成概念に捉われない再配分)で対応可能となるかもしれない。これからは、自由な発想の下での効率性が求められる。そして、現状や将来の変化に適応できる、所謂、環境適応能力が問われることになる。
最後に、AEGIS(イージス)とはギリシャ神話の全能の神ゼウスが娘のアテナに与えたあらゆる邪悪を払う盾(アイギス:AIGIS)のことである。我々は、あらゆる脅威に対応し、我が国の国益を守り、国民の生命と財産を守らないといけない。今回の政府や防衛省の検討が、何かに捉われ、袋小路に入らず、堂々と王道としての案に落ち着くことを願って止まない。(令和2.10.8)
岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。
写真:つのだよしお/アフロ
<RS>
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