テロ支援国家イランの悪事とジハーディスト国家、米下院共和党調査委員会の国家安全保障戦略報告書(その3:中東)
さらに、調査委員会は、イラン革命防衛隊(IRGC)について「数万人の民兵の戦闘員からなる世界的なテロ軍団を作り、各地でテロを支援・指揮してきた。彼らはアフガニスタンやパキスタンからやってきた民兵とともに、イランの民兵がテヘランからイラク、シリア、レバノンを経てイスラエルの国境までの領土を支配する「陸の架け橋」を作るためにテロ活動を行っている。イランは、イラクで宗派間の暴力を煽り、シリアとイエメンで悪質な内戦を引き起こし、多くの子供を含む無力な民間人に対するアサド政権の化学兵器使用を容認している。さらに、イエメンの過激派民兵「フーシ」に弾道ミサイルを供与し、サウジアラビアの攻撃に使用させている」とその悪辣ぶりを分析している。
トランプ大統領は2018年5月、イランの核開発に一定の制限を課し、一部の経済制裁を解除する包括的共同作業計画(JCPOA)(国連安保理常任理事国+ドイツで構成される)から離脱し、米国独自の経済制裁に踏み切った。一方、イランのローハニ大統領も2019年5月、「米国制裁の影響を受けている原油取引や金融決済の改善が保証されない場合、ウラン濃縮や重水貯蔵の制限を順守しない」と真っ向からの対決姿勢への方針転換を発表した。その後、両国の対立がさらにエスカレートし、2019年6月にペルシャ湾での米軍無人機撃墜、同月にオマーン湾での日本タンカー攻撃、同年9月にサウジアラビア石油施設攻撃が行われた。これに対し、トランプ大統領は2020年1月、イランの英雄である革命防衛隊ソレイマニ司令官を殺害し、双方の報復合戦を経て、対立が激化したまま現在に至っている。調査委員会は、JCPOAの「スナップバック・メカニズム」による法的根拠のある国連制裁の発動を強く勧告している。
イラン以外のジハーディスト国家にも言及されている。米国はレバノン軍に年間1億6,000万ドルの支援を行っていた。支援の目的は、「ヒズボラを含む非国家主体から内外の脅威を軽減するためレバノン軍を専門化するため」であったが、この1億6,000万ドルの資金提供の一部がヒズボラのテロ活動資金に回されていることが判明した。米国政府は2019年11月、レバノン軍への軍事支援を凍結するとともに、2014年に制定していた『ヒズボラ国際金融防止法』、2018年の『ヒズボラ国際金融防止修正法』の制裁措置を強化した。これらの制裁は、組織が使える資金、特にレバノンの銀行からの資金を枯渇させることで、組織の活動に影響を与えてきた。議会は、「抜け穴を塞ぐため、ヒズボラそのものへの制裁に加え、ヒズボラを支援している組織外の同盟者なども取り締まる法案」を提唱し、ヒズボラに対する圧力の強化に乗り出している。
議会は「シリアに対し、人権を尊重し、アサド政権とその支持者に厳しい制裁措置を講ずる2019年『シーザー・シリア市民保護法』」を可決した。議会はさらに踏み込んで、『自由で民主的なシリアを支持し、アサド政権の退陣、シリアのアル・カイーダであるシャーム解放軍の弱体化とシリア紛争の解決支援』を表明した。
調査委員会は、「イエメンのフーシを外国テロ組織として制裁し、イエメンを不安定化させている組織および国連安保理決議2216.412(2015.4.14「フーシによる侵略からイエメン及びイエメン国民の保護」)に違反している支援者への制裁の成文化」を提唱している。
調査委員会は、「中東地域で米国は、イランを中心としたテロや核開発活動への制裁や一部武力行使により、地域の安定や秩序の維持に努めている。しかし、宗派間の対立やIS等抑制が効かない多数のテロ組織の活動、さらには背後でロシア、中国による各種の影響力行使等、混とんとした状況が続いており、中東政策に手を焼いている」という認識だ。
中東石油依存度(88.2%:経産省石油統計2019年版)の高い我が国にとって中東地域は、経済活動の生命線であり、この地域の不安定化は我が国の死活問題に直結する。
昨年来のホルムズ海峡での緊張の高まりを受け、我が国関係船舶の安全確保のために、海自艦艇が派遣されている。我が国としては引き続き、この地域の平和と安全に何らかの形で貢献し、地域の動静を注意深く見守っていかなければならない。
なお、本原稿は、「ロシアは最も悪辣なアクター、米下院共和党調査委員会の国家安全保障戦略報告書(その2:ロシア)」の続きとなる。
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