
50代からの「一括投入」に潜む時間の猶予とリスク
資産形成で、早期にまとまった資金を投入する「一括投入」は、複利効果を生かせる合理的な手法の1つです。20代や30代のように、定年までに数十年と十分な時間がある世代であれば、途中で大きな暴落が起きても、相場が回復するまでじっくり待つことができます。
一方、50代からの投資では「時間の猶予」が限られているという決定的な違いがあります。
600万円を一括投入し、世界的な株高に乗って5年で1000万円超まで増えても、定年直前の暴落によってわずか数ヶ月で200万円も資産が目減りしてしまうと、現役時代のように回復を気長に待つ精神的・時間的余裕がなくなるでしょう。
老後資金として使う時期が迫っているなかで暴落を迎えることこそが、50代でまとまった資金を一括投入する際の大きなリスクです。
暴落時の焦った「全額売却」が危険な理由
1000万円あった資産が一気に800万円まで減ると、「これ以上減る前にすべて売却して現金に戻さなければ」という心理的なパニック(狼狽売り:ろうばいうり)に陥りがちです。
しかし、ここで冷静になり、現状把握することが重要です。1000万円まで増えた資産が800万円に減っても、スタート時の元本である600万円と比較すれば、依然として「200万円の含み益」があります。
最高値の1000万円という数字からの減少幅にとらわれて、「200万円損をした」と感じてしまいますが、元本に対してはプラスであることを認識してください。焦って全額を売却すると、その後に市場が回復した際の上昇局面に乗ることができず、損失を確定させた状態で終わってしまう可能性があります。
日常の生活費を補う「生活防衛資金」が預貯金として別に確保されているのであれば、暴落時こそ冷静な判断が大切です。
実際に、世界の株式市場では2020年の「コロナショック」により1ヶ月で30%以上下落したことがありますが、約半年で暴落前の水準まで回復しています。
定年前から始める「段階売却(リスク資産の現金化)」の出口戦略
今回のケースで考えておきたい予防策が、定年(60歳や65歳)の数年前から始める「段階売却(リスク資産の現金化)」という出口戦略です。
投資の最高値(ピーク)を事前に予測しての全額一括売却は、プロの投資家であっても困難です。しかし、定年の3~5年前から、「毎年、保有資産の10~20%ずつを機械的に売却して現金口座へ移す」とルールを決めて実行していれば、相場が高い時期に利益を少しずつ確定させることができます。
例えば、1000万円まで増えた段階で、数百万円分を段階的に現金化しておけば、その後に暴落が起きても、すでに確定させた現金が手元にあるため、世帯全体の資産への影響を抑えられます。
一括で増やす「入口」だけでなく、定年に向けて少しずつリスクを下げていく「出口」の設計が、50代以降の資産運用では重要になってくるのです。
段階売却と冷静な資産管理で定年後の安心を守る
50代で貯金600万円をNISAへ一括投入し、1000万円超まで増えた資産が暴落で800万円に減ってしまうケースでは、定年前の運用期間(時間の猶予)の短さや、出口戦略を考えていなかったことがリスクにつながります。
暴落に直面した際は、最高値からの減少幅に惑わされず、最初の投資元本である600万円に対して依然として「200万円の含み益」がある現実に目を向け、焦って全額売却する「狼狽売り」を避けることが大切です。
そして、定年の数年前からは、暴落のショックを和らげるために、リスク資産を毎年少しずつ売却して現金比率を高める「段階売却」を検討し、着実に老後資金を守る環境を整えていきましょう。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
