
1. 市場概況
電力系統関連で用いられる定置用蓄電池(Energy Storage System、以下ESS)の2024年の世界市場規模は、メーカー出荷容量ベースで254,498MWhに達したと推計する。主要国での再生可能エネルギー(以下、再エネ)発電設備およびESS導入に対する支援制度の強化や、再エネ発電コスト低下による売電利益の改善などが、ESSの出荷拡大を後押しした。国・地域別では北米・中国・欧州を中心に電力系統関連のESSの市場が急拡大しており、これら3地域で世界の出荷容量の8割以上を占めている。
地球温暖化に伴う異常気象への対応策として、世界各国でカーボンニュートラル実現に向けた脱石炭・脱原発の取り組みや、再エネ発電設備の導入拡大が進められている。再エネ発電設備にはESSを併設することで、電力出力の平準化や最大負荷の管理が可能となり、電力品質の向上およびエネルギー利用効率の改善が期待される。また、再エネで発電された電力をESSに蓄電し、電力需要のピーク時間帯に活用することで、発電所や送配電インフラの利用率向上にも寄与する。さらに、電力網の老朽化や自然災害時における停電リスクへの対応として、分散型電源としてESSが導入され、安定供給に向けた取り組みが進展している。
このような背景から、再エネ発電設備の増加に対応する形で2025年も電力系統関連で用いられるESS導入は引き続き増加する見込みである。2025年の電力系統関連のESS世界市場規模は前年比130.2%の331,403MWhに達すると見込む。米国では、再エネ導入が進むカリフォルニア州やテキサス州、ネバダ州を中心に、大規模な電力系統関連のESSの設置が急速に進展している。欧州では、ドイツやイタリア、フランス、イギリスの4カ国が主要導入国として市場成長を牽引する見込みである。
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2.注目トピック~NMX、LMFP、固体電池、NIBなどの新技術の開発が急速に展開
ESS用LiB(リチウムイオン電池)の正極材は2020年頃までNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)やNCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム)が多く採用されていたが、2021年からは中国系電池メーカーがLFP(リン酸鉄リチウム)を採用したESS用LiBの出荷が急増しており、LFPを正極材に採用したLiBがNCMやNCAを逆転している。2025年もこのような傾向が継続しており、ESS用LiBの正極材はLFPが9割を超える見込みである。また、LiBにおいては、正極材の材料組成としてコバルトフリーのNMXや高エネルギー密度のLMFP(リン酸マンガン鉄リチウム)などの開発が進められている。
その他でも新材料を使用した電池技術も次々と登場しており、これらの技術は将来的にLiBを凌駕する可能性があると期待されている。新素材電池としては、固体電池やナトリウムイオン電池(NIB)が注目されている。固体電池はLiBより安全性が高く、より高いエネルギー密度を持つとされている。ナトリウムイオン電池は原材料コストが低く、環境負荷が少ない点で優れており、特に持続可能なエネルギー社会を目指す中で注目されている。
3.将来展望
カーボンニュートラル実現に向けた世界各国の再エネ発電設備の導入拡大の動きは、今後さらに加速すると見込む。これに伴い、再エネ由来の電力供給における出力の変動性や余剰電力の有効活用への対応が一層求められることで、電力系統関連のESS世界市場は、今後も堅調な成長が続くと予測する。
加えて、主要各国では、ESS導入を促進するための補助金や税制優遇などの財政支援策を強化しており、これがユーザー企業の費用負担を軽減する要因となっている。一方で、ESS関連メーカー各社は材料特性の改善や設計手法の最適化により、性能の向上および製造コストの低減が図られている。こうした経済的ならびに技術的側面の進展により、ESSの導入メリットは今後さらに拡大する見通しである。
このような背景から、2033年の電力系統関連ESS世界市場規模は、メーカー出荷容量ベースで624,253MWhに達するものと予測する。特に、中国および北米が最大のシステム導入国として拡大を主導し、世界市場全体の成長を牽引する見込みである。
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調査要綱
1.調査期間:2024年12月~2025年6月
2.調査対象:日本及び海外の定置用蓄電池(ESS)関連メーカー
3.調査方法:当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用
4.発刊日: 2025年6月30日
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