
1.市場概況
2024年は成長と失速が交差する年になった。
2024年の世界二輪車新車販売台数は前年比104.2%の5,990万9,000台で堅調に推移した。成長の主導役となったのはインドで、農村地域の需要拡大やGati Shakti計画など政府支出の加速によって前年比111.5%となる約1,954万台となり、世界最大市場の地位を確立している。インド以外にもパキスタン、ブラジルなども好調で、ASEANも輸出回復と内需回復などによって多くの国が堅調な推移をみせ、家計債務の急上昇でローン審査の厳格化が尾を引くタイ以外では前年比プラス成長を遂げている。
一方、2024年の電動二輪(EM:Electric Moped・EV:Electric Vehicle)の世界新車販売台数は2023年の615万1,000台から510万6,000台へと後退し、世界二輪車新車販売台数全体に占める電動比率は10.7%(2023年)から8.5%(2024年)に減少した。特に電動二輪の最大市場である中国の縮小で販売台数を大幅に減らしたことが主因であり、インドやインドネシアの伸長では相殺しきれなかった。
世界的なインフレや政情不安が続くなか、TCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)や個人の移動手段として二輪車の柔軟性が見直され、新興国における“庶民の足”としての再評価が進む中、電動二輪の有用性が再認識される段階に突入したと考える。
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2.注目トピック~電動二輪の普及のカギを握る、車電分離とSDV
電動二輪の普及において要所とされるのが「車電分離」型のバッテリー交換式モデルを軸とする事業モデルである。バッテリー交換ステーションは整備や運営に莫大なコストが必要とされ、その難しさも顕在化している。他方、電動二輪が宅配やシェアリングなど、稼働率が高く収益が見込める商業用途でニーズが活発化していることは、ボリュームが大きい個人向け用途とは違ったビジネスモデルを構築しなければならないことを示唆している。
また、四輪車で大きなトレンドとなっているSDV(Software-Defined Vehicle:ソフトウェア定義車両)も二輪車に影響を与えるものとみている。但し、SDVの中核的価値となる完全自動運転は二輪車では実現が難しく、搭載スペースやコストの制約も大きい。アーキテクチャ(システム設計や構造)に関してもECU(Electronic Control Unit)の数が少なく、マイコン(1つのチップにCPU・メモリ・入出力機能をまとめた小さなコンピュータ)中心の構成が基本の二輪車で大きなメリットが生まれにくいという指摘もある一方で、ハード構成がシンプルで安価であることから、四輪車よりは遅れるものの、その動向には注視が必要である。
3.将来展望
2030年まではインドをけん引役として、世界二輪車市場は安定成長が見込まれる。2035年までの長期展望において、インドを中心とした南アジア市場の成長がある程度の成熟期を迎える一方で、経済成長を背景にアフリカなどの新市場台頭が注目される。それらの国々で二輪車がモータリゼーションを担う可能性が高い。
一方で現下、電動二輪は欧州や台湾では補助金の縮小・終了が相次ぎ、電動二輪の価格優位性が薄れ、インドでは電池火災などへの安全性に対する懸念が高まった。ASEANを含めた広い地域で、電動二輪のリセール(再販)価格問題も認識され始め、価格重視のアジアでは、内燃機関の二輪車と比較して高価な電動二輪を手放しで受け入れる機運ではなくなった。こうした動きは、2020年代前半に見られた「電動化一辺倒」からの明確な転換点を示している。
また電動化の焦点の1つとなるのが、SDV(Software-Defined Vehicle)である。四輪車市場におけるSDVの潮流は二輪車にも波及しているが、使われ方やコスト、バックエンド領域(ITやソフトウェア開発において、ユーザーから直接見えない部分でシステムやサービスを支える処理を担う領域)など様々な課題からまだ具体像は描けていない。二輪車は四輪車とは異なる方法で、電動化の道を歩んでいくことが期待される。
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調査要綱
1.調査期間: 2025年4月~6月
2.調査対象: 二輪車メーカー、サプライヤー など
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話等によるヒアリング、ならびに文献調査併用
4.発刊日:2025年6月27日
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