自転車通学者に対して義務化・推奨項目質問
中高生の自転車事故における違反の割合
中高生のルール・マナー浸透度調査
【自転車事故の都道府県別件数(中学生・高校生)】
今回は、当委員会メンバーでもある三井住友トラスト基礎研究所 研究理事 古倉 宗治氏と、公益財団法人交通事故総合分析センターITARDA協力の元、中高生の自転車事故実態について調査いたしましたので、ご報告いたします。
各調査の結果、自転車事故が比較的多いイメージを持たれているシニア層と比べ、中学生及び高校生の事故頻度が約4~5倍高いことがわかりました。また、調査の結果、そのうちの約7割が自転車側の法令違反によるものだというデータも明らかとなり、免許の取得での交通知識獲得や、講習などで交通ルールやマナーについて知識を得る機会のある成人層と異なり、学校等での交通ルール・マナーの講習などを充実する必要があるという結果となりました。(なお、中高生については、通学時の自転車事故に係る数値をもとにしています。)
各調査の詳細につきましては以下をご覧ください。
【調査トピックス】
自転車事故の割合が高いのは“シニア”ではなく“中高生”!!
ルール・マナー違反での事故が約7割
●中学生及び高校生の事故頻度はシニア層と比べ約4~5倍
●法令違反による事故は中学生で72.0%、高校生で68.9%と全体に比べても高い傾向
高校生の事故率は全体の3.3倍!
中高生の自転車事故率は大都市圏よりも地方都市で多い傾向に
●中学生の部ワースト1位 群馬、2位 佐賀、3位 香川
●高校生の部ワースト1位 群馬、2位 静岡、3位 宮崎
<参考資料>
自転車の義務・推奨項目は「自転車保険加入」(35.0%)などのソフト面が優勢。
「BAAマーク」(7.3%)など、自転車自体の安全性への意識はまだまだ低め!
●優先義務・推奨項目は「自転車保険加入」(35.0%)「ヘルメット着用」(27.7%)「ハンドルの形状」(26.3%)
●「両立型スタンド」(16.0%)「リアキャリア」(15.0%)「大きなかご」(8.3%)など中高生ならではの項目も!
【自転車事故実態調査】
調査元 :公益財団法人交通事故総合分析センターITARDA※
調査時期:2015年11月
※ 交通事故と人間、道路交通環境及び車両に関する総合的な調査・分析・研究並びにその成果の提供等を通じて、交通事故の防止と交通事故による被害の軽減を図ることにより、安全、円滑かつ秩序ある交通社会の実現に寄与することを目的とする団体。
自転車事故の割合が高いのは“シニア”ではなく“中高生”!!
ルール・マナー違反での事故が約7割
●中学生及び高校生の事故頻度はシニア層と比べ約4~5倍
●法令違反による事故は中学生で72.0%、高校生で68.9%と全体に比べても高い傾向
各年代別の自転車事故割合について交通事故総合分析センターの資料によると、次のようになっています。
中学生及び高校生の事故頻度がシニア層(55歳以上)に比べ、約4~5倍と高いことがわかりました。また、そのうちの約7割が自転車側の法令違反によるものだというデータも明らかとなっています。
【年齢層別の千人当たりの自転車事故頻度】
出典:公益財団法人交通事故総合分析センター イタルダインフォメーションNo78 「その自転車の運転では事故になります」
年齢層別千人当たりの事故頻度は、最も高頻度だった年齢層が5.6%の16~18歳(高校生の年代)、続いて4.1%の13~15歳(中学生の年代)、2.4%の7~12歳(小学生高学年の年代)と、比較的若年層の事故割合が高い傾向が明らかとなりました。一方、高齢運転者が関与する交通事故の割合が高まっているものの(警視庁交通総務課統計調べ)55歳以上の事故率については、55~64歳(1.2%)、65~74歳(1.4%)と中高生に比べると低い値となっています。
【自転車事故における違反の割合】
https://www.atpress.ne.jp/releases/86319/img_86319_2.png
また、調査の結果、これらの事故のうち、約7割が法令違反を原因とした事故だということも明らかとなりました。
2015年6月の道路交通法が改正以降、「信号無視」「路側帯通行時の歩行者通行妨害」「歩行者用道路徐行違反」「通行区分違反」など14項目の違反者に対して、安全運転を行わせるため講習の受講が義務づけられました。しかし、この年代は免許取得などでの交通ルール知識を理解する機会が少ないため、学校等で行われている講習の充実等が必要かもしれません。
<中高生の自転車ルール・マナーについての世間のイメージ>
当委員会が2015年9月に、高校生100名と見守る立場である主婦500名を対象に、中高生のルール・マナーの浸透イメージについて調査したところ下記のような結果となりました。
▼中高生のルール・マナー浸透度調査
https://www.atpress.ne.jp/releases/86319/img_86319_3.png
「とてもそう思う」「そう思う」と答えたのは2割にも満ない結果となりました。主婦では87.0%、高校生では83.0%が「ルール・マナーが浸透していない」と回答するなど、双方ともに学生の自転車事情についてネガティブな考えを持つ結果となっています。
調査方法:インターネットリサーチ
回答数 :合計600名 (主婦500名、高校生100名)
調査日 :2015年9月26日(土) ~ 2015年9月27日(日)
調査主体:自転車の安全利用促進委員会
注意 :図表の構成比は四捨五入しているため、
構成比の和が100%にならない場合があります。
高校生の事故率は全体の3.3倍!
中高生の自転車事故率は大都市圏よりも地方都市で多い傾向に
●中学生の部ワースト1位 群馬、2位 佐賀、3位 香川
●高校生の部ワースト1位 群馬、2位 静岡、3位 宮崎
全国の中高生の事故状況を調べるため、都道府県別の中高生の事故件数・生徒数をもとに、一万人当たりの事故率を算出しました。
その結果、中学生と高校生の両方で、群馬県が事故割合の高いことが明らかとなりました。一方大都市圏では交通事故件数が多いものの、通学に自転車を利用することが少ないこともあり、中高生の一万人当たりの事故数を考えると、比較的割合の低い結果となっています。
【自転車事故の都道府県別件数(中学生・高校生)】
https://www.atpress.ne.jp/releases/86319/img_86319_4.png
今回の調査では中学生と高校生の両方で、群馬県が最も高く、中学生で一万人あたり41.1人、高校生で97.7人という結果となりました。これは全国平均9.7人(中学生)及び28.0人(高校生)に比較すると、各4.2倍及び3.5倍となります。
当委員会メンバー古倉 宗治氏は、それぞれの理由について下記のように説明されています。
1. 群馬県(中学生1位、高校生1位)の理由
群馬県は、自家用乗用車数(千人当たり)が、673.8台と全国第1位です。また、道路実延長(総面積1km2当たり)も5.47kmと全国9位であり、全国平均3.24kmを相当に上回っています。すなわち、自動車交通が盛んである地域だと言えるのではないでしょうか(免許保有率も全国1位、群馬県警資料)。
また、このために自動車事故が多く交通事故発生件数人口10万人当たり全国5位です(891.2件)。自転車事故は、自動車との事故が84.4%(全国2014年)を占めます。このため自動車との事故がほとんどを占める自転車事故も多いと考えられるのでしょう。
また、人口1万人当たりの自転車事故件数も全国4位(12.94件2014年)であることから、自転車事故も多い地域です。このことから、中学生や高校生についても、多くなる傾向があると考えられます。
さらに、可住地100km2当たりの中学数及び高校数は、各7.65校(31位)及び3.56校(28位)と、学校の数は全国平均(各8.70校及び4.08校)よりも少なくなっています。このため、通学の距離が伸びて、その足を確保する必要上、中高生の自転車通学が盛んである地域であると考えられます。これらの理由で、自転車通学の事故が多いと考えられるのではないでしょうか。
2. 佐賀県(中学生2位、高校生4位)の理由
佐賀県は、人口10万人当たりの交通事故件数が全国1位(1114.8件2012年)であり、自動車との事故がほとんどを占める自転車事故(上述)も多いものと考えられます。
また、人口1万人当たりの自転車事故件数も全国9位(11.87件2014年)であることから、自転車事故も多いと言えます。このことから、中学生や高校生についても、多くなる傾向があると考えられます。
さらに、可住地100km2当たりの中学数及び高校数は、各7.43校(32位)及び3.38校(32位)と、学校の数は全国平均(各8.70校及び4.08校)よりも少ない数値です。このため、通学の距離が伸びて、その足を確保する必要上、中高生の自転車通学が盛んであることが要因となる自転車通学の事故が多いのではないかと考えられます。
3. 香川県(中学生3位、高校生5位)の理由
香川県は、瀬戸内式の雨量の少ない天候に恵まれて、自転車利用が盛んであり、自転車のみの通勤通学の比率は13.75%と全国6位(2010年国勢調査)とかなり高い割合になっています。
また、人口10万人当たりの交通事故発生件数も、佐賀県に次いで全国第2位(1025.5件)であり、交通事故のきわめて多い土地柄です。このため自動車との事故がほとんどを占める自転車事故も多いと考えられます(上述)。
さらに、人口1万人当たりの自転車事故件数も、大阪府に次いで、全国第2位(13.91件)となっています。自転車事故の多い土地柄であることから、中高生にも自転車事故が多いと考えられるのはないでしょうか。(なお、可住地100km2当たりの中学校及び高校の数は全国平均とほぼ同じ(24位と19位)であり、特に少ないわけではありません。)
4. 徳島県(中学生4位、高校生14位)の理由
徳島県の自転車のみの通勤通学の比率は13.74%と全国7位(2010年国勢調査)の香川県とほぼ同じで、全国的に見てもかなり高い割合になっています。
また、人口10万人当たりの交通事故発生件数は、香川県ほどではないものの、全国第9位(623.4件)であり、かなり高水準です。このため自動車との事故がほとんどを占める自転車事故も多いと考えられるのではないでしょうか(上述)。
さらに、人口1万人当たりの自転車事故件数も、全国第12位(9.67件)で、決して低い水準ではありません。
これらのことから、中高生についても、自転車事故が多いものと考えられます。なお、中学生のほうが高順位ですが、交通網が未発達又は居住地が分散している等のために、中学生の自転車通学比率が高く、このため、中学生の自転車通学の事故も多いものと思われます。
5. 静岡県(中学生11位、高校生2位)の理由
静岡県は、気候が温暖で、自転車通勤通学には向いている土地柄と考えられます。自転車のみの通勤通学の比率は10.78%と全国16位(2010年国勢調査)と相対的に高い割合となっています。
また、人口10万人当たりの交通事故発生件数も、佐賀県、香川県に次いで全国第3位(946.1件)であり、交通事故のきわめて多い土地柄です。このため自動車との事故がほとんどを占める自転車事故も多いと考えられます(上述)。
さらに、人口1万人当たりの自転車事故件数も、全国第8位(12.27件)で、高い水準です。高校生の自転車通学の事故が多いのは、静岡県は、比較的地域の公共交通の発達と都市化の率が高い市町村が多く、高校に比較して中学校は居住地から近距離にあるため、中学生の通学は自転車にあまり頼る必要が少ないことで高校生が相対的に自転車通学の事故が多い原因の一つではないかと思われます。
6. 宮崎県(中学生6位、高校生3位)の理由
人口10万人当たりの交通事故発生件数は、佐賀県、香川県及び静岡県に次いで全国第4位(933.8件)であり、交通事故のきわめて多い土地柄です。このため自動車との事故がほとんどを占める自転車事故も多いと考えられます(上述)。
また、人口1万人当たりの自転車事故件数も、全国第11位(10.57件)で、比較的高い水準です。
さらに、可住地100km2当たりの中学数及び高校数は、各7.86校(28位)及び2.87校(37位)と、全国平均(各8.70校及び4.08校)よりも少なく、特に高校数の順位が低いことが目立ちます。このため、通学の距離が伸びて、その足を確保する必要上、中高生特に高校生の自転車通学が盛んとなり、相対的に高校生の自転車通学の事故が多いと思われます。
古倉 宗治(こくら むねはる) 三井住友トラスト基礎研究所
東京大学法学部卒業。建設省、東京工業大学助教授、(財)民間都市開発推進機構都市研究センター、(財)土地総合研究所等を経て、2008年から(株)三井住友トラスト基礎研究所研究理事を勤める。自転車施策の第一人者として、講演会の他、複数の大学で教鞭を取るなど活躍中。
▼自転車事故の都道府県別件数(中学生・高校生)全ランキング
https://www.atpress.ne.jp/releases/86319/img_86319_5.png
<参考資料>
自転車の義務・推奨項目は「自転車保険加入」(35.0%)などのソフト面が優勢。
「BAAマーク」(7.3%)など、自転車自体の安全性への意識はまだまだ低め!
●優先義務・推奨項目は「自転車保険加入」(35.0%)「ヘルメット着用」(27.7%)「ハンドルの形状」(26.3%)
●「両立型スタンド」(16.0%)「リアキャリア」(15.0%)「大きなかご」(8.3%)など中高生ならでは項目も!
各中学校・高等学校の自転車利用における「義務化・推奨」項目について、アンケートを実施いたしました。
Q:自転車通学者に対して義務化・推奨している項目で該当するものはどれですか?(複数回答)
※全国の中学高校教職者向けアンケート n=300
https://www.atpress.ne.jp/releases/86319/img_86319_1.png
調査の結果、昨今耳にする機会の多い自転車の高額賠償問題や自治体の取り組みの影響を受け「自転車保険の加入」(35.0%)や「ヘルメットの着用」(27.7%)などの事故発生状況を想定した項目が重要視されている中、自転車の安全性を担保するBAAマーク(7.3%)やメンテナンス関連のTSマーク(14.0%)などの自転車事故そのものの原因をなくすための項目については、まだまだ浸透していないことが明らかとなりました。
「自転車保険の加入」(35.0%)や「ヘルメットの着用」(27.7%)などで多く「義務化・推奨」実績があることがわかる結果となりました。万が一事故が発生した際の対策としてこれらの項目が重要視されているようです。
特に「自転車保険の加入」(35.0%)については、当時小学校5年生だった少年(11)が乗った自転車と歩行者との衝突事故をめぐる損害賠償訴訟で、神戸地裁が少年の母親に約9,500万円という高額賠償を命じたケース(2013年)や、男子高校生が対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突し、男性に重大な障害が残ってしまい約9,300万円の賠償責任を負わなければいけなくなってしまったケース(2008年)などの影響を受け、加入が進んでいるようです。また、これらを背景に兵庫県をはじめ自転車保険の加入を義務化している自治体もあります。
万が一事故が発生した際の対策としてこれらの項目が重要視される、自転車安全整備士により、メンテナンス(点検・整備)を受けたことを示す「TSマーク」(14.0%)や、約90項目の検査項目をクリアした自転車のみに貼付される「BAAマーク」(7.3%)など、自転車自体の安全性を示す項目について低い値となりました。
【全国の中学高校教職者向けアンケート】
調査方法:FAXリサーチ
回答数 :合計300校
調査時期:2015年11月
<自転車の製品欠陥・メンテナンス不備で引き起こされる自転車事故>
https://www.atpress.ne.jp/releases/86319/img_86319_6.png
NITE(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)では2004~2013年で製品欠陥が原因で発生した事故が367件に及ぶという調査結果を発表しています。「強度不足」(106件)「取り付け不備」(58件)「加工不良」(32件)などそもそもの製品欠陥がキッカケとなり、運転中に自転車が壊れ事故化、症状が重症化しているケースも見られます。
これらの大きな欠陥による事故だけでなく、「ブレーキが利かない」「ペダルが回らない」「ハンドルが切れない」などが要因となった事故についても見逃すことができません。ブレーキの状況を1つ取っても、整備の行き届いたものと、そうでないものでは、ブレーキをかけてから停車するまでの距離に大きな差が出るという検証結果もあります(委員会調べ)。自転車購入時により安全性の高い自転車を購入する、また、自転車店でのプロメンテナンスやセルフメンテナンスもこれらの事故を減らすためには必要です。