二式水戦(斜め上から)
二式水戦(正面)
二式水戦(操縦席)
戸村 裕行
■撮影成功に至った背景
現在のチューク州は、第二次世界大戦中、トラック島空襲などで撃沈された旧日本軍の沈船などを巡るダイビングのメッカとして有名なエリアですが、『二式水戦』は現在までその存在は知られておらず、2015年6月に地元民の作業中、偶然発見されたもので、その機体の正体が分からずに放置状態となっておりました。現地の人間にもまだその存在は知られておらず、発見地点は私有地の為に現在も許可なく潜ることが出来ないエリアとなっており、発見後、この場所で潜水をした人間はおりません。
今回、現地ダイビングショップ「トレジャーズ」協力のもと、土地所有者の許可を得て撮影を敢行。軍事専門誌「丸」(潮書房光人社)編集部に鑑定を依頼し、それが『二式水戦』という確定をいただいております。
『二式水戦』は地上に現存するものがなく、大変貴重なものとなります。
発見地点の水深は約29m。どういった経緯でこの海底に沈むことになったのかは定かではありませんが、恐らくは70年以上、誰にも知られることなくこの地に眠っていた機体となり、裏返った状態、中央部のフロートなどに破損はみられますが、ほぼ原型を保った状態での発見となります。
■チューク州(トラック諸島)について
かつてはトラック諸島と呼ばれていたチューク州までは、飛行機で成田からグアムまで3時間半、グアムで乗り換え、更に1時間半のフライトを要します。周囲は約200km、248もの島々からなる世界最大級の堡礁であり、第一次世界大戦終結後の国際連盟決議において大日本帝国の委任統治領となり南洋庁の支庁が置かれました。
地理的に戦略的重要性を持ち、環礁を含む泊地能力の高さから日本海軍の一大拠点が建設され整備されましたが、1944年2月17日~18日になされた米軍による航空攻撃(トラック島空襲・海軍丁事件)により多くの艦船、航空機を失いその能力は無効化となりました。現在は、その際に沈められた船などを潜るレック(沈船)ダイビングの世界的に有名なポイントとして、沈船だけでも30隻以上、その中には横浜に係留してある氷川丸の姉妹船・平安丸(特設潜水母艦)といった船や、映画の撮影に使われたという「富士川丸」、駆逐艦では文月などがあります。航空機では他に零戦をはじめ、艦上攻撃機・天山、一式陸上攻撃機(一式陸攻)、二式飛行艇(二式大艇)なども海中で見ることができます。
■二式水上戦闘機について
日本海軍の水上戦闘機(中島飛行機製)。略符号はA6M2-Nとなります。連合国コードネームは「Rufe」と付けられ、零式艦上戦闘機11型をベースに仮称一号水戦として試作されました。基本設計は零戦と同じで、水上機とするために胴体の補強、腐食対策が施されています。量産された機体は、戦線拡大により太平洋各地に展開した海軍航空隊に配備されました。総生産機数は327機、終戦時には24機が残存していたそうですが、これらの機体は戦後処分されて現存する機体はありません。よって、今回海底で見つかった機体は大変貴重なものとなります。
■トラック諸島と『二式水戦』
かつて、トラック諸島の島々には和名が付けられており、その中でも夏島と呼ばれていた島には水上機基地が整備され、第九〇二海軍航空隊が哨戒などに従事していました。昭和18年(1943年)10月に第八〇二海軍航空隊より二式水上戦闘機隊が移譲され、約10機程の水戦が配備されたという記録が残っています。
■今回見つかった『二式水戦』の今後
チューク州ではレックダイビングが盛んであり、パーミット(入海料)を支払うことで、海中に沈んでいる航空機や沈船などを見ることができます。また、海中で見つかった、いかなる物も引き上げることは禁止されています。
今回見つかった『二式水戦』の場所は私有地となる為に、パーミットを払ったとしても今の段階では潜ることはできません。今後、もしこのポイントが一般のダイバーも潜れるようになるかどうかというのは、土地所有者との相談となり、どうなるかは未定です。
■撮影者略歴
戸村 裕行(トムラ ヒロユキ)
1982年3月3日生まれ
埼玉県出身。独学で水中撮影をしていたが、写真を基礎から学ぶ為に専門学校に入学。卒業後に本格的に水中写真家としての道を歩み始める。現在は世界の水中生物、水中景観の撮影をしつつ、ダイビング誌を中心に作品を発表しながら、オリンパスなどのカメラメーカーの水中カタログなどの写真も担当している。
また、ライフワークとして世界の海中に眠る第二次世界大戦中の日本の沈船や航空機などの取材を続け、現在までに約50隻にのぼる沈船を撮影。その内容は瀬戸内海に眠る、戦艦「陸奥」なども含まれ、その範囲はミクロネシア、フィリピン、パラオ、インドネシアと多方面にわたる。それらは軍事専門誌「丸」(潮書房光人社)にて「海底のレクイエム」と題し、毎号、人気のコンテンツとして連載が続いている。