
図1

図2

図3
本研究は、学術誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載されました。
■研究概要
アルマ望遠鏡によってサブミリ・ミリ波(つまり電波)で検出された形成中の惑星は、このPDS70cのみです。この電波は、ガスを集積中の惑星の周囲にできる「周惑星円盤」に含まれるダストが放つ「熱放射」とされています。しかし、ごく最近の多波長観測の結果は、「光学的に厚い」、すなわち円盤の反対側を見通せないほどダストが存在していることを示唆していました。一方で、従来の理論モデルは、ダストは惑星に落下してしまい、周惑星円盤はダストに乏しいと予測しています。
本研究では、従来の周惑星円盤とダストの理論モデルでは観測結果の説明が難しいことを改めて示し、一方で、周惑星円盤内に光学的に厚い「ダストリング」の存在を仮定すれば説明可能であることを示しました。このダストリングは、「衛星形成論」の文脈では、材料となるダストの欠乏を回避する方法としてこれまでも検討されてきたものです。さらに、観測から示唆されるダストリングが、実際に衛星誕生の場となりうることも示しました。本研究は、謎の多い惑星のガス集積過程に制約を加えるだけでなく、衛星の形成過程にも重大な示唆を与えるものです。
■研究背景
私たちの住む地球、そして太陽系に存在する多様な惑星たち。これらがどのようにして作られたのか明らかにすることは、天文学・惑星科学の大きな目標の一つです。この「惑星形成論」は、約30年前に初めて発見されて以来6,000個も見つかっている、太陽以外の恒星を周回する惑星「系外惑星」の観測により、大きく進展しました。しかし、発見された系外惑星のほとんどは、太陽系の惑星と同じくすでに出来上がった惑星であり、惑星形成過程そのものを観測することは、つい最近までできていませんでした。
若いTタウリ型星(つまり形成途中の恒星)PDS70は、二つの惑星、PDS70bとPDS70cを持ちます。この二つの惑星はいずれも、これまでに10例ほどしか発見されていない、形成途中の系外惑星です。この二つの惑星は、太陽系の木星や土星と同じように、固体でできたコアの周囲に多量の大気を纏った「ガス惑星」であると考えられ、今まさにこのガスを周囲の「原始惑星系円盤」(注1)から集積している途中です。特に惑星PDS70cは、 サブミリ・ミリ波(電波)でも検出された、唯一の系外惑星です。この電波は、ガス集積中の惑星周囲にできる小さなガス円盤「周惑星円盤」に含まれるダスト(塵)の熱放射(注2)だと考えられています。
近年、南米チリのアタカマ砂漠にあるアルマ望遠鏡(注3)によって、このPDS70cが複数の波長で検出されました。その結果、周惑星円盤がサブミリ・ミリ波帯で光学的に厚いことが示唆されました(図1)。光学的に厚いとは、簡単に言えば、周惑星円盤内に反対側が見通せないほど大量のダストが存在することを意味します。これは、驚くべき観測結果です。なぜなら、周惑星円盤内のダストは、円盤のガス抵抗を受けて角運動量を失い、惑星に向かって螺旋状に落下し(ドリフトと呼びます)、結果として周惑星円盤は光学的に薄くなる、と予測されていたからです。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/626941/LL_img_626941_1.jpg
図1
図1.理論モデルによるPDS70cのアルマ望遠鏡多波長観測の再現。紫の四角は、アルマ望遠鏡で検出された各波長でのPDS70cのフラックス密度(注4)を示す。周惑星円盤はアルマ望遠鏡のビームサイズ(注5)より小さいため、円盤全体の総フラックス密度しか観測できない。緑の逆三角は、非検出の観測のノイズの大きさ(3σ)を示し、円盤の放射がこれより小さいことを示す。バンド7から3の幅広い波長帯で、スペクトル指数(傾きの逆数) α=2に沿っており、円盤が光学的に厚いことを示唆している。橙と青の曲線は、典型的なパラメーターでの、従来のドリフトモデルと新しいリングモデルによる放射の予測。ドリフトモデルではα=2は再現できないが、リングモデルでは再現可能とわかる。
Zbaseは円盤のリングでない部分のダスト/ガス面密度比で、リングのピーク面密度比Zpeakは1で固定している。したがって、Zbaseが小さいほど、リング内外のダスト面密度比の差が大きい明瞭なリング構造を意味する。Shibaike et al.(2026)より。
■研究内容・成果
本研究では、周惑星円盤内に光学的に厚いダストリングの存在を仮定することで、この謎を解くことに成功しました。図2は、アルマ望遠鏡によるPDS70系の観測画像に、私たちの理論モデルが予測する、PDS70c周囲のダストリングの、ngVLA望遠鏡(注6)による観測予想図を組み込んだものです。PDS70系は、原始惑星系円盤に大きなダストリングを保持しています。もし私たちの予想が正しければ、そのダストリングの中に位置する惑星PDS70cもまた、小さなダストリングを持つことになります。
私たちはまず、ダストリングの簡単なモデルを作成し、従来の「ドリフトモデル」と共に、典型的なパラメーターでの、周惑星円盤全体からのフラックス密度の波長依存性を調べました(図1)。すると、やはりドリフトモデルではアルマ望遠鏡の多波長観測は再現できませんが、一方でダストリングモデルでは再現可能とわかりました。
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/626941/LL_img_626941_2.jpg
図2
図2.左) アルマ望遠鏡によるPDS70系のダスト熱放射観測。観測波長はアルマのバンド7(855 μm)、空間解像度は約20ミリ秒角(左下の白色楕円がビームサイズ)である。明るい大きな「外側リング」と微かな「内側円盤」が映っており、その間のギャップにPDS70cの光点が見えている。この光点は周惑星円盤のダストの熱放射と考えられるが、ビームサイズが周惑星円盤より大きいため、周惑星円盤の解像はできていない。詳細は、Benisty et al.(2021)を参照。右) 私たちのダストリングモデルが予測するPDS70cの周惑星円盤のダスト熱放射強度マップ。将来、ngVLA望遠鏡で観測した場合を想定して、画像をスムージングした。観測波長はバンド6(3.22 mm)、空間解像度は5ミリ秒角を想定した。
私たちの予想するダストリングは、ngVLA望遠鏡によって明瞭に観測できると期待される。
次に、実際にはPDS70cの多くの物理量が不明であるため、各種パラメーターに幅広い値を与えて計算し、観測と比較しました(図3)。結果、ドリフトモデルでは、周惑星円盤が光学的に厚くなる条件が非常に厳しいことを示しました。すなわち、ダストがどんどん惑星に落下してしまう状況で円盤を光学的に厚くするには、大量のダストを周惑星円盤に供給し続ける必要があるのです(図3)。一方で、リングモデルでは、円盤全体にダストが充満するのでなく、円盤の一部にリング状にダストが集中し、その部分のみ光学的に厚くなれば良いため、円盤へのダスト供給量が少なくて済みます。
そして、アルマ望遠鏡では周惑星円盤を空間解像できないため、そのダストリングからの放射が十分に強ければ、円盤全体が光学的に厚いように「見える」のです。結果、ドリフトモデルよりも容易に達成可能な条件で、観測結果を再現できることを示しました(図3)。
では、このようなダストリングは、実際に存在しうるのでしょうか?実は、「衛星形成論」の文脈では、このダストリングはすでに予測されていました。木星や土星の周囲には、氷と岩石でできた巨大衛星が存在します。これらの衛星は、惑星が原始惑星系円盤の中でできるように、周惑星円盤内でダストが集まってできたとされています。しかし、惑星へのダスト落下は、この巨大衛星の形成過程でも障害となります。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/626941/LL_img_626941_3.jpg
図3
図3.パラメーターを幅広い値で変動させた場合の、ドリフト・リングモデルでのPDS70c観測の再現。横軸はアルマバンド7のフラックス密度、縦軸はアルマバンド4,7間でのスペクトル指数を表す。各点がモデル予測値、黒十字がアルマ望遠鏡による観測値を示す。左) ドリフトモデルによる観測値の再現。周惑星円盤に流入するダストガス質量フラックス比xが0.1以上という、極端な状況を仮定しないと、観測値が再現できない。右) リングモデルによる観測値の再現。多くの場合で観測値が再現され、ダストリングのダスト/ガス面密度比Zpeakが0.003以上であれば、観測再現の可能性がある。Shibaike et al. (2026) より。
そのため、研究者たちは、惑星に集積されるガスの流れを詳細に数値シミュレーションし、惑星から外に向かって流れるガス流や、周惑星円盤にできる溝が、ダスト落下を妨げ、結果としてダストリングが形成されると予測していたのです。逆に言えば、今回PDS70cの観測から示唆されたダストリングの存在は、これまでのガス集積過程の数値シミュレーション結果を支持します。さらに本研究では、観測を再現するようなダストリングは、その後の衛星形成に繋がるほど十分に、ダストを集めている可能性を示しました。
以上のように、本研究は、周惑星円盤内にダストリングが存在することを仮定することで、アルマ望遠鏡によるPDS70cの多波長観測の結果を再現することに成功しました。これは、惑星形成論において重要な惑星の「ガス集積」過程に制約を加えるだけでなく、その後の周惑星円盤内での衛星形成の可能性も示唆する、とても重要な研究成果です。
本研究をまとめた論文はThe Astrophysical Journal Lettersより出版され、同雑誌などを出版するアメリカ天文学会(AAS)からハイライト論文に選出されました。
■掲載誌情報
【発表雑誌】The Astrophysical Journal Letters
【論文名】Interpreting ALMA Multiwavelength Continuum Observations of PDS 70c: An Optically Thick Dust Ring in the Circumplanetary Disk
【著者】Yuhito Shibaike, Satoshi Okuzumi, Takahiro Ueda, Kiyoaki Doi, and Misato Fukagawa
【掲載URL】 https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ae86f5
【AASハイライト論文紹介記事 URL】 https://aasnova.org/2026/08/19/probing-dust-in-the-disk-of-a-growing-giant-planet-pds-70c/
■用語解説
注1)原始惑星系円盤
恒星(原始星)がガスを集積して形成される際に、その周囲にできる円盤。質量の1%程度のダストを含み、それがやがて惑星やガス惑星のコアになる。近年のアルマ望遠鏡による観測により、詳細な構造が明らかになった。
注2)熱放射
物体が持つ熱エネルギーが電磁波となって放射される現象。温度によって強いエネルギーの出る波長が異なる。たとえば6000Kの太陽は可視光を放射し、原始惑星系円盤や周惑星円盤内のダストは数十Kとごく低温なので、電波を発する。
注3)アルマ望遠鏡
標高約5000mのチリのアタカマ砂漠にある電波望遠鏡で、正式名称はAtacama Large Millimeter/submillimeter Array (アタカマミリ波サブミリ波干渉計)。合計66台のパラボラアンテナを結合させることで、1つの巨大な電波望遠鏡を作り出している。東アジア、北米、ヨーロッパ、そしてチリの国際共同プロジェクト。
注4)フラックス密度
単位時間に単位面積を通過する電磁波の、単位振動数あたりのエネルギー。ここで「密度」は「単位振動数あたり」を意味し、いわゆる「質量/体積」ではないことに注意。また、業界によっては別の物理量を意味することもある。
注5)ビームサイズ
その望遠鏡が、光(電磁波)を取り込むことができる、指向性の広がり(角度)。逆にいうと、このサイズよりも小さな構造から放射される光は混ざり合ってしまって空間分解できないため、望遠鏡の空間解像度の目安となる。
注6)ngVLA望遠鏡
合計263台のパラボラアンテナを北米全域に分散させて設置し、最大で口径が約9000キロメートルに相当する巨大な電波望遠鏡を実現しようという、次世代の大型電波望遠鏡計画。正式名称はnext generation Very Large Array (次世代大型電波干渉計)。2040年代からの本格運用を予定しており、日本もプロジェクトへの参画を検討している。
■謝辞
本研究は、日本学術振興会JSPS科研費JP22H01274及びJP24K22907の支援を受けて行われたものです。
【鹿児島大学について】
鹿児島大学は、9つの学部と9つの大学院研究科を擁する、南九州における最高学府です。南九州から南西諸島など南北600キロに及ぶ県土を本学のキャンパスとして、そこにある自然・歴史・風土・産業を土台に活動しています。地域とともにある大学として「知」と「智」の力をもって、“進取の精神で、地域と世界の未来に挑む教育研究拠点”となることを目指して進んでまいります。
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