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より高精度にがん細胞を見分ける原理を発見 ~がん細胞の診断を支援する新たな細胞診断技術~



図1 研究概要


図2 細胞から計測された光散乱スペクトルの機械学習解析によるがん細胞診断



画像 : https://newscast.jp/attachments/mI16byFGRqGSqAGY6CHf.png
図1 研究概要



【概要】

奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科附属メディルクス研究センターの細川陽一郎教授、釣優香助教、データ駆動型サイエンス創造センターの藤井幹也教授と、近畿大学(学長:松村到)医学部の伊藤彰彦主任教授、武内風香助教、大阪工業大学(学長:井上晋)工学部の安國良平准教授らの研究グループは、がん診断の専門医である病理医でも顕微鏡観察だけでは識別が難しい、がん細胞と正常細胞を高精度に分類できる新たな原理を発見しました。

病理医は、顕微鏡で細胞の形や核の特徴を観察して診断します。しかし、形状が正常細胞とよく似たがん細胞は、顕微鏡観察だけで見分けることが難しい場合があります。がん化に伴って、細胞の形状変化だけでなく、細胞内部にはさまざまな変化が生じますが、その多くは顕微鏡では観察できず、診断に活用することは困難でした。

本研究グループは、細胞に光を照射した際に生じる散乱光に、通常の顕微鏡では捉えられない細胞内部の情報が含まれることに着目しました。この散乱光の解析に機械学習を適用することで、顕微鏡観察だけでは識別が難しいがん細胞と正常細胞の違いを高精度に分類できることを発見しました(図1)。さらに、本手法が複数の種類のがん細胞に応用できることを実証しました。

本研究成果は、病理医による細胞診断を支援し、診断精度の向上や診断の効率化につながる新たな診断技術として期待されます。

本研究成果は、Springer Nature社刊行の学術誌Scientific Reportsに2026年8月3日に公開されました(DOI:10.1038/s41598-026-64056-z)。

【背景と目的】

細胞診は、患者から採取した細胞を顕微鏡で観察し、がん細胞の有無や種類を判定する検査法です。身体への負担が少ないことから、がんの早期発見や診断に広く利用されています。病理医は、細胞や核の大きさや形、細胞の並び方などを総合的に観察して診断します。しかし、細胞ががん化すると細胞の形だけでなく、細胞内部にもさまざまな変化が生じますが、その多くは顕微鏡では観察できないため、細胞診断には医師の熟練や技量に強く依存しています。

本研究グループは、細胞に白色光を照射した際に生じる光散乱スペクトル(注1)が、顕微鏡では観察できない細胞内部の微細構造の変化を反映することに着目しました。従来、光散乱スペクトルには、顕微鏡では観察できない細胞内部の情報が含まれることが知られていました。しかし、そのスペクトルには、あらゆる細胞内部の情報が複雑に含まれており、単純な現象として解釈することが難しく、さらに細胞間のスペクトルの違いが曖昧であり、その利用は困難と考えられていました。

【研究の内容】

本研究グループは、細胞診標本に白色光を照射し、細胞の光散乱スペクトルを測定して、機械学習を用いて解析することにより、がん細胞を高精度に分類できることを発見しました(図2)。これまでに類似の研究例はなく、この発見は特許登録にも至っています。本研究では、がん細胞かどうかの識別が非常に難しい悪性中皮腫(注2)を対象として、病理医でも識別が難しいがん細胞と正常細胞を高い精度で識別できることを実証しました。また、異なる医療機関で作製された細胞診標本でも高い分類性能を示し、本手法が施設の違いに左右されにくいことも確認されています。さらに悪性中皮腫だけでなく、肺腺がん、小細胞肺がん、胃腺がん、尿路上皮がんなどの多種多様ながん細胞にも適用できることも示され、幅広い細胞診断へ応用できる可能性が示されています。



画像 : https://newscast.jp/attachments/m1R70S07dRaO2z90yvss.png
図2 細胞から計測された光散乱スペクトルの機械学習解析によるがん細胞診断



【今後の展開】

今後は、より多くの患者から採取した細胞を用いて本手法の有効性を検証するとともに、機械学習手法のさらなる高度化により、細胞を分類する性能の向上を目指します。さらに顕微鏡システムとの統合や測定・解析の自動化を進めることで、実際の医療現場で利用しやすい細胞診断支援システムの実現を目指します。本研究成果が実用化されれば、病理医の診断を支援するとともに、細胞診断の精度向上や効率化を通じて、より質の高いがん診断への貢献が期待されます。

【用語解説】

注1 光散乱スペクトル:細胞に光を当てた際に散乱した光を、波長ごとの強さとして記録したものです。光散乱スペクトルには、細胞内部の微細構造の違いが反映されており、顕微鏡観察では得られない情報が含まれています。

注2 悪性中皮腫:胸膜や腹膜などの中皮に発生する悪性腫瘍で、アスベスト(石綿)への曝露との関連が知られています。細胞診では、反応性中皮細胞と形態がよく似ているため、病理医でも識別が難しい場合があります。本研究では、このような識別が難しい細胞を対象として、本手法の有効性を検証しました。

【掲載論文】

タイトル:Accurate Tumor Cell Identification via AI analysis of White Light Scattering Spectra in Cytology

著者:Yuka Tsuri, Fuka Takeuchi, Hayata Tsutsui, Wataru Nakata, Risa Onishi, Tomoko Wakasa, Junko Nakamura, Seiichi Hirota, Mikiya Fujii, Ryohei Yasukuni, Akihiko Ito, Yoichiroh Hosokawa

掲載誌:Scientific Reports

DOI:10.1038/s41598-026-64056-z

【関連リンク】

医学部 医学科 教授 伊藤彰彦(イトウアキヒコ)

https://www.kindai.ac.jp/meikan/825-itou-akihiko.html

医学部 近畿大学奈良病院 教授 若狹朋子(ワカサトモコ)

https://www.kindai.ac.jp/meikan/1884-wakasa-tomoko.html

医学部

https://www.kindai.ac.jp/medicine/





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