「花瓶の花」ヤン・ダービッツ・デヘーム 1670年頃 マウリッツハウス王立美術館蔵
マウリッツハウス王立美術館外観
これらの花の絵画はとても華やかで且つ繊細、そして、花に付いた虫に至るまで精密に描かれています。
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「花瓶の花」ヤン・ダービッツ・デヘーム 1670年頃 マウリッツハウス王立美術館蔵
■想像の世界
花の静物画は1600年代に突然出現した独立した絵画のジャンルです。16世紀頃からオランダでは東インド会社による海外貿易で持ち込まれたエキゾチックな植物への関心が高まり、1594年にはオランダ初の植物園「ホルタス・ボタニカス」がライデンに創立され多くの学者が植物の研究に携わるようになりました。最初に花の静物画に特化した絵画を描いたのは、アンブロシウス・ボッサールです。1618年頃の作品とされる「窓辺の花瓶の花」に描かれた花は写実的に描かれていますが、同じ季節に咲く花ではなく、また、花が全て正面を向いていることや、あり得ないほどの長さの花もあることから、想像しながら描かれたということが分かります。
■奥が深い物語
1600-1630年代、多くの画家が想像の世界からなる花の絵画を描きました。花の種類が多いほど、また花の希少価値が高いほど持て囃されました。1630年代以降は正面を向いたシンメトリックなスタイルから、より現実に近い花を描くようになりました。1639年にハンス・ボロンジエールが描いた花の絵は、彼の先達の画家たちのそれに比べるといささか「乱れた」印象を与えます(「フローラル・スティルライフ」国立美術館所蔵)。後ろ側に見える花は影になっており、絵に奥行きを与えています。17世紀のオランダの黄金時代がもたらした経済的な豊かさにより、このような絵画は一般庶民の間でも人気が高まっていきました。
生花の人気は高く、とりわけ、チューリップのような当時は珍しかった花は投機の対象ともなり、球根1個と運河沿いの家1軒が取引されたと言われています。1637年に起きたチューリップバブルは恐慌を引き起こし、多くの人々を破産に追い込んだのです。「花車のバカたち」という素描作品では、花車の後ろから海に落ちていく人々の様子を風刺しています。
■花のスペクタクル
17世紀後半には、花の静物画はさらに進化します。色も形も様々なチューリップは、キャベージローズ、ゲルダーローズ、オピウムポピーなどとともに描かれ、まるで、花火のような鮮やかで派手なブーケが描かれるようになりました。ウィレム・ファン・アルストやダービッツ・デヘームは花の静物画をより、生き生きとしたスペクタクルに変化させたのです。全てのディテールはビジュアルとして魅力的でないといけません。隠れた花の部分、散りばめられている虫たち、光の効果、色とりどりの色彩、そして、美しい花瓶。アブラハム・ミニョンの作品にもこれらの要素が存分に使われています。1700年代にはまた流行が変わり、今までの派手さが少しずつ消えていきます。
花の静物画のジャンルで成功した女性画家のレイチェル・ロイシュが1700年に描いた作品では、花の頭の部分が切り落とされていたり、枯れたりしています。自然界の中での短い花の生命を象徴しているとも言えるでしょう。
■サステイナブルなデザイン
「イン・フル・ブルーム」特別展の内装を担当したのは、アムステルダムのデザイン事務所トム・ポストマ・デザイン。特別展会場の壁には、球根産業から排出された廃材資源を活用したサステイナブルで高性能のオーガニックラミネートを使用しています。使われている素材の一つはレンブラントチューリップで、花の染料が壁に美しい彩りを与えています。花や葉っぱ自体も押し花のように使われています。特別展終了後はこれらのパネルは家具として再加工され、一般販売されます。このように、特別展で使われるマテリアルの95%はサステイナブルな製品を使っています。
■「イン・フル・ブルーム」
2022年2月10日~6月6日
<同時開催>
■あり得ないブーケ The Impossible Bouquet
2022年2月8日から
花の静物画に描かれている花のブーケは、さまざまな季節に咲く花々が一つの花瓶に生けられている、現実にはあり得ない花の絵です。「花の絵画展 In Full Bloom」の開幕に合わせ、美術館の外壁がお花の飾りで彩られます。毎週、違う種類のお花が加えられ、最後には美術館の建物自体が1670年に描かれたヤン・ダービッツ・デへームの「花の静物画」にインスパイアされた「あり得ないブーケ」になるという趣向です。美術館の前庭にも多くの花の鉢が飾られ、より一層の華やかさを演出します。
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マウリッツハウス王立美術館外観
■マウリッツハウス王立美術館
オランダ・ハーグ市
URL: https://www.mauritshuis.nl/jp/