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工学院大学ら、生まれたてのジェットとガス雲が衝突する瞬間の撮影に成功



日韓合同VLBI観測網(KaVA)イメージと参加7局の電波望遠鏡


左:ホットスポットの位置変化。右:3C84ジェット全体の電波画像。


2012年7月から2020年1月の3C84電波ローブとホットスポットの時間変化。

工学院大学(学長:伊藤 慎一郎、所在地:東京都新宿区/八王子市)の紀 基樹客員研究員(教育推進機構)を中心とした、山口大学、呉工業高等専門学校、国立天文台、イタリア国立天体物理学研究所、韓国天文研究院、ハーバード大学からなる国際研究チームは、日韓合同VLBI観測網(KaVA:KVN and VERA Array)を用いた詳細な電波観測を行い、超巨大ブラックホールから吹き出して間もない活動銀河核ジェットが高密度ガス雲に衝突してせき止められるという劇的な現象を捉えることに初めて成功しました。


宇宙に存在する多くの銀河の中心には、太陽の数100万倍から数100億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールが潜んでいます。とりわけ、銀河の中心部で激しい現象を示す活動銀河では、ブラックホールが駆動する細く絞られた高速ガスジェットが銀河サイズを超える領域にまで吹き出す現象が観測されています。
3C84は、地球から約2億3千万光年離れたペルセウス座銀河団の中心部にある活動銀河です。2005年には、3C84中心部で新たなジェット噴射が起こり、それに伴う電波ローブ(*)が誕生する瞬間が発見されて注目を集めています。この電波ローブは人でいう年齢16歳に相当しますが、人間よりはるかに長寿命な電波ローブとしては、まさに生まれたての年齢です。図中の1ミリ秒角は、およそ1.1光年の距離に対応します。


工学院大学の紀 基樹客員研究員(教育推進機構)を中心とする国際研究チームは、日韓合同VLBI観測網(KaVA)の43ギガヘルツ(GHz)周波数帯を用いて、3C84銀河中心核の超巨大ブラックホールからわずか4光年の距離にある生まれたての電波ローブの詳細な観測を行いました。KaVAは、日韓の計7台の電波望遠鏡が連携して高い空間解像度を実現する超長基線干渉計(VLBI)装置で、天体の細かな構造の観測に威力を発揮します(図1)。研究チームはさらに、アメリカ国立電波天文台のVery Long Baseline Array(VLBA)による観測データアーカイブも補間的に用いて観測精度を高めました。
観測の結果、南下運動を続けていたホットスポット(*補足1)が、2016年後半から2017年末までのおよそ1年間、突然動きを止めて同じ場所に停滞するという驚くべき現象を発見しました(図2)。この停滞現象は、ホットスポットが高密度ガス雲と激しく衝突してせき止められていた証拠と考えられます。
2018年以降、電波ローブは再び南へと動き始めました。さらに驚くべきことに、一連の電波画像は、ホットスポットが消え、電波ローブの形状が歪んで暗くなる様子を捉えています(図3,動画1)。今回発見された現象は、高速ジェットと高密度ガス雲の激しい衝突が、電波ローブの成長過程に大きな影響を与えたことを示しています。

*:電波ローブとホットスポット
電波ローブとは、活動銀河の両側に電波で観測される二つ目玉の構造で、活動銀河中心核から放出されるジェット噴出流の「吹き溜まり」です。ホットスポットとは、電波ローブの中の明るく輝く部分です。ホットスポットは、高速ジェット噴流の先端に発生します。3C84の電波ローブは生まれたてでサイズが小さいため、北側の電波ローブからの放射光は、核周円盤に覆い隠されてほぼ見えなくなっています。


■研究者コメント
紀 基樹(工学院大学教育推進機構 客員研究員)
ホットスポットがおよそ1年間も動きを止めている観測データを目の当たりにし、まるで宇宙における交通事故の現場を目撃したようで、とても驚きました。活動銀河中心核では、これまで考えてられていたよりも多くの高密度ガス雲が浮遊していて若いジェットと激しい衝突を起こしているのかもしれません。

新沼 浩太郎(山口大学大学院創成科学研究科 教授)
今後はさらに、東アジア全域とイタリアの電波望遠鏡群による地球サイズ規模のVLBI観測網で、この天体の数奇な成長過程を詳細に観察し、活動銀河核の謎の解明に迫りたいです。


■研究詳細
タイトル:Morphological transition of the compact radio lobe in 3C84 via the strong jet-cloud collision
著者名:紀 基樹(工学院大学/国立天文台)、新沼 浩太郎(山口大学)、川勝 望(呉工業高等専門学校)、永井 洋(国立天文台)、G.Giovannini(INAF/Univ.Bologna)、M.Orienti(INAF)、輪島 清昭(韓国天文研究院)、F.D'Ammando(INAF)、秦 和弘(国立天文台)、M.Giroletti(INAF)、M.Gurwell(CfA/Harvard)
研究成果掲載:米国科学誌「The Astrophysical Journal Letters(アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ)」
2021年10月11日(現地時間)


■図1:

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/279782/LL_img_279782_1.jpg
日韓合同VLBI観測網(KaVA)イメージと参加7局の電波望遠鏡

日韓合同VLBI観測網(KaVA)は、日本のVERA電波望遠鏡と韓国のKorean VLBI Networkとの同時合同観測プロジェクトです。下は参加局の電波望遠鏡の写真で、左からヨンセイ局(ソウル)、ウルサン局、タムナ局(済州)、水沢局、入来局、小笠原局、石垣局です。


■図2:

画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/279782/LL_img_279782_2.jpg
左:ホットスポットの位置変化。右:3C84ジェット全体の電波画像。

左図:ホットスポットの位置変化。ホットスポットは、およそ1年間、狭い領域に停滞しながら反時計回りに変化する軌跡を描きました(赤点)。2018年以降は、再び南に向かって伝播を始めましました(青点)

右図:3C84ジェット全体の電波画像。C1と呼ばれる成分は、ジェットを駆動する巨大質量ブラックホールを含むジェット根元部分に相当します。ジェット根元からおよそ4光年の距離にあるホットスポットは、電波ローブの中の明るく輝く部分で、ジェット噴流の先端に位置しています。


■図3:

画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/279782/LL_img_279782_3.jpg
2012年7月から2020年1月の3C84電波ローブとホットスポットの時間変化。

2012年7月から2020年1月の3C84電波ローブとホットスポットの時間変化。電波ローブとホットスポットは2016年半ばまでは南方向に向かって伝播し続けていました(上段の白破線)が、驚くべきことに、2016年半ばから2017年後半にかけて、ホットスポットの伝播が止まって停滞する現象が発見されました(下段の赤破線)。さらに2018年以降には、ホットスポットが消えて、電波ローブの形が歪んで暗くなる現象が発見されました。


■動画1: https://youtu.be/ut8mhk_uvfA (国立天文台・水沢VLBI観測所 秦 和弘)
3C84の電波ローブの時間変化を示す動画。図2に示されている通り、2016年半ばから2017年後半にかけて、ホットスポットの伝播が止まって停滞し、さらに2018年以降には、ホットスポットが消えて、電波ローブの形が歪んで暗くなる様子が撮影されています。
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