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日本語の音響的特徴に基づいた補聴器の増幅理論 ― 日本語を母語とする補聴器ユーザーへ ― ~日本とデンマークの共同研究を学術雑誌「Auris Nasus Larynx」にて発表~



補聴器フィッティング イメージ画像


図1 各発話努力の日本語の長時間平均音声スペクトル(LTASS) 太線は4名の平均値を示す。(原論文 Fig.3より引用)


図2 日本語の各発話努力(「小声」「普通の声」「大声」)における増幅度の補正値 (原論文 Fig.4.(b)より引用)


図3 VACとVAC-Jの音声聴取比較実験の結果(原論文 Fig.5. (a)より引用)

110余年の歴史を持つ補聴器メーカー、オーティコン補聴器(本社:神奈川県川崎市、プレジデント:木下聡、以下 オーティコン)は、九州大学大学院芸術工学院教授(現、名誉教授)白石君男先生とOticon A/S(デンマーク本社)との共同研究で、2014年より日本語の音響的特徴を考慮した補聴器フィッティング理論の基となる基礎研究を実施してきましたが、この度、研究成果を論文「Amplification rationale for hearing aids based on characteristics of the Japanese language」として発表いたしました。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/264378/LL_img_264378_1.jpg
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【ポイント】
●九州大学大学院芸術工学院教授(現、名誉教授)白石君男先生とオーティコン補聴器(デンマーク本社と日本法人)は、2014年から日本語に基づく補聴器の増幅理論を構築するために、日本語の音響的特徴に関する共同研究を開始しました。
●われわれが調べた限りでは、日本で初めて、日本語で3種類の発話努力(「小声」「普通の声」「大声」)におけるLTASS(長時間平均音声スペクトル)の測定と分析を実施し、日本語の音響的特徴を報告しました。
●「普通の声」の大きさで日本語を話した際のLTASSと欧米言語のLTASSでは差異が見られ、日本語LTASSは欧米言語LTASSよりも低周波数レベルは大きく、高周波数レベルは小さくなっていることが示されました。また「小声」と「大声」のLTASSは、「普通の声」に比較してそのレベルと周波数範囲が若干異なっていました。
●この研究成果により、欧米言語をベースに開発された補聴器フィッティング理論を、日本語を母語とする難聴者向けに補正できるようになり、日本語の音響的特徴を考慮した補聴器フィッティングが可能となりました。この日本語仕様の補聴器増幅理論は、欧米言語に基づいた増幅理論と同程度の音声了解度を示しながら、ソフトで自然な聴覚的印象の日本語の再現に貢献することが明らかとなりました。


【概要】
九州大学大学院芸術工学院教授(現、名誉教授)の白石君男先生とオーティコン補聴器(デンマーク本社と日本法人)は、2014年より日本語の音響的特徴を考慮した補聴器フィッティング理論の基となる基礎研究を共同で実施し、その研究成果を米国のElsevier(エルゼビア)社が発行する学術雑誌「Auris Nasus Larynx」(日本耳鼻咽喉科学会の英文誌)に投稿し、2021年5月16日にオンライン掲載されました。過去に多言語の音声的特徴を調べた先行研究(Byrneら、1994年)がありましたが、日本語で3種類の発話努力(「小声」「普通の声」「大声」)におけるLTASS(長時間平均音声スペクトル)の測定と分析を実施し、日本語の音響的特徴をもとに補正された補聴器の増幅理論は、調べた限りでは我が国では初めてとなります。
今回の研究成果に基づいて、欧米言語をベースに開発された補聴器フィッティング理論を、日本語を母語とする難聴者向けに補正できるようになり、日本語の音響的特徴を考慮した補聴器フィッティングが可能となりました。


【研究背景】
現在、世界的に普及している補聴器は主に欧米で開発、製造されている製品が多く、補聴器フィッティング理論は日本語が含まれない諸言語のLTASS(長時間平均音声スペクトル)を元に開発されています。日本語と英語を比較すると、日本語はモーラ単位で高低アクセント、英語は音節単位で強弱アクセントというように、音声学上の違いがあります。実際、汎用の補聴器フィッティング理論(例えばNALやDSL)やオーティコン独自の補聴器フィッティング理論であるボイスアライメント・コンプレッション(Voice Alignment Compression、以下 VAC)も欧米言語をもとに開発されています。しかし日本語は欧米言語とは異なる音響的特徴を持っていることから、本研究で再度詳細に日本語の音響的特徴の分析を実施しました。


【方法】
日本語LTASSの研究では、音声分析の素材として、『親密度FW03』と『音素バランス1000文』の2つのCDを用いました。はじめに、分析時間の長さや音声素材の違いによる影響を検証し、音声分析の素材としての妥当性を確認しました。次に、4人の日本語母語話者が3種類の発話努力(「小声」「普通の声」「大声」)で録音した日本語音声素材でLTASSを分析しました。実験で得られたLTASSとANSI S3.5を比較し、欧米言語LTASSをベースにしたフィッティング理論を日本語用に補正できる値を算出しました。補正値の効果を実際に調べるため、実験室内で補聴器装用下での音声聴取実験を実施し、欧米言語ベースの補聴器フィッティング(VAC)と日本語を母語とする難聴者用に補正された補聴器フィッティング(VAC-Japanese、以下 VAC-Jと略)を比較しました。
この実験では19名の軽度から中等度感音難聴の研究参加者を対象に、CI-2004を用いて、VACとVAC-Jでフィッティングした補聴器を装用した時の、騒音下で音声聴取の正答率を測定し比較しました。


【結果】
発話努力別(「小声」「普通の声」「大声」)における日本語のLTASSの分析結果を図1に示しています。声の大きさによって、LTASSが大きく異なることがわかります。具体的には、「普通の声」の大きさで日本語を話した際のLTASS(長時間平均音声スペクトル)は、欧米言語のLTASSよりも低周波数レベルは大きく、高周波数レベルは小さくなっていました。日本語を母語とする難聴者向けに換算するための補聴器利得の補正値は、「小声」の場合(補聴器に入力される音が小さい場合)は500Hzで+2 dB、2,000Hz以上では-2 dB、「普通の声」(補聴器に入力される音が普通の大きさの場合)では400-630Hzで+3 dB、2,500Hz以上では-2~3 dB、「大声」(補聴器に入力される音が大きい場合)では800と1,000Hzで+2 dB、3,150~4,000Hzで-4~5 dBと算出されました。(図2)。
難聴者19名を対象とした音声聴取実験では、VACとVAC-Jでフィッティングした補聴器を装用した際の音声聴取正答率には統計的有意差は認めませんでした(図3)。これは、VACとVAC-Jが同じ音声の聞こえを補償することを意味しています。また、Matsumotoら(2018)の日本人難聴者(22名)を対象とした臨床研究では、VACとVAC-Jの「好み」に関しては、VAC-Jの主観的評価が高く「音がソフトで自然」と報告されています。

画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/264378/LL_img_264378_2.jpg
図1 各発話努力の日本語の長時間平均音声スペクトル(LTASS) 太線は4名の平均値を示す。(原論文 Fig.3より引用)

画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/264378/LL_img_264378_3.jpg
図2 日本語の各発話努力(「小声」「普通の声」「大声」)における増幅度の補正値 (原論文 Fig.4.(b)より引用)

画像4: https://www.atpress.ne.jp/releases/264378/LL_img_264378_4.jpg
図3 VACとVAC-Jの音声聴取比較実験の結果(原論文 Fig.5. (a)より引用)


【今後の期待】
VAC-Jはオーティコン補聴器のフィッティングソフトであるGenie2に搭載されており、ベロックスシリーズ以降(モア、オープンS、オープンプレイ、エクシード(1と2のみ)、エクシードプレイ、オープン)の補聴器ユーザーは、日本語の音響的特徴を考慮したフィッティング理論(日本語仕様)を用いて調整した補聴器を装用することが可能です。これにより、フィッティング理論の選択肢が増え、日本国内の補聴器満足度の向上に貢献できる可能性も示唆されます。


【研究者からひとこと(白石君男先生)】
「世界には多数の言語があり、それぞれの言語に音素の違いがあるため、それによって補聴器の周波数レスポンスも変更すべきとの指摘が以前からありました(Chasin, 2011)。しかし、言語の違いによる補聴器の増幅方法については、これまでほとんど研究されてきていませんでした。今回の日本語の音響的特徴に基づいた補聴器の増幅理論と日本語を母語とする難聴者における聞こえに関する研究成果は、補聴器ユーザーに「欧米言語と同程度の聞こえと日本語の自然さ」をもたらすと考えます。このことは、他の国で欧米言語とは異なる言語を話す難聴者に対しても、その言語特有の補聴器の増幅理論を開発する根拠になる可能性があります。」


【オーティコン補聴器からひとこと(プレジデント木下聡)】
「白石先生のご協力を得て、長年の月日をかけて実施してきた共同研究の成果が、今回論文として正式発表されたことを大変嬉しく思っています。今後も難聴者の方の日々の生活にお役に立てるような活動に邁進していく所存です。」


【研究者】
白石君男(九州大学大学院芸術工学研究院)
和田牧子(デマント・ジャパン株式会社 オーティコン補聴器)
Thomas Ulrich Christiansen(Oticon A/S)
Thomas Behrens(Oticon A/S)


【研究費】
Oticon A/S、デマント・ジャパン株式会社 オーティコン補聴器


【原論文情報】
Amplification rationale for hearing aids based on characteristics of the Japanese language.
Shiraishi K, Wada M, Christiansen TU, Behrens T. Auris Nasus Larynx. 2021 May 15: S0385-8146(21)00134-6. doi: 10.1016/j.anl.2021.04.011. Online ahead of print. PMID: 34006406

論文共有リンク
https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0385814621001346


【用語解説】
●母語:第一言語のこと。
●発話努力:Vocal effortのことで、音声の大きさなどを増すこと。
●LTASS(長時間平均音声スペクトル):Long-term average speech spectrumの略で、音声の音圧レベルを長時間にわたって平均したもの(1/3オクターブバンドで測定)。
●補聴器フィッティング理論:補聴器を用いて音を増幅する増幅手法で、汎用や補聴器メーカー独自のものなど様々。難聴者が補聴器を装用してどのように音を増幅すればLTASSを聞くことが可能になるのかをベースにして考案。難聴の程度に合わせてどの周波数(ピッチ)をどのくらい増幅すれば良いかを定義。
●NAL:オーストラリアの国立音響研究所(National Acoustics Laboratories)で考案された汎用の補聴器フィッティング理論。
●DSL:カナダのオンタリオ大学で開発された、Desired Sensation Levelという汎用の補聴器フィッティング理論。
●モーラ:拍とも呼ばれ、日本語のリズムの基本となる単位で、音韻上の単位。例えば「聞こえ」は3モーラ。
●ボイスアライメント・コンプレッション(VAC):より自然な音質に近い適正な増幅を目指して開発されたオーティコン補聴器独自のフィッティング理論。
●VAC-Japanese(VAC-J):九州大学とオーティコンと共同研究の結果を取り入ることで、日本語の音響的特徴を考慮したオーティコン補聴器独自のフィッティング理論。
●ANSI S3.5:音声明瞭度指数を規定しているアメリカ国家標準化規格。
●CI-2004:音素、単語、文などを使用して日本語の聴取能を評価するために開発された人工内耳用の検査素材。
●利得:補聴器の利得とは出力レベルから入力レベルを引いたもので、音をどのくらい増幅するのかを表しており、単位はデシベル(dB)を用いる。


【参考文献】
Byrne D, Dillon H, Tran K, et al. An International comparison of long-term average speech spectra. J Acoust Soc Am 96: 2108-20, 1994.
Chasin M. Setting hearing aids differently for different languages. Seminars in Hearing 32:182-188, 2011.
Matsumoto N, Suzuki N, Iwasaki S, et al. language-specific strategy for programming hearing aids - a double-blind randomized controlled crossover study. Auris Nasus Larynx 45: 686-692, 2018.


■オーティコン補聴器について
補聴器業界におけるパイオニアであるオーティコン社(Oticon A/S)は、デンマークを本社とする世界的な企業で、16,000人以上の従業員を有するデマントグループの傘下にあります。 日本市場においては1973年より製品の製造・販売を行っています( https://www.oticon.co.jp )。オーティコンの新しい企業理念「Life-changing technology(ライフチェンジング テクノロジー)」とは、「難聴による制限のない世界、補聴器が難聴者の生活に溶け込み、難聴により引き起こされる健康リスクを抑えながら、その人らしく充実した人生を送る手助けとなれるよう、常に最も革新的な補聴器開発をおこなっていくこと」です。オーティコンは先進のノンリニア補聴器、フルデジタル補聴器および人工知能補聴器を開発し、革新的な技術を開拓してきました。
また、脳から聞こえを考える、「BrainHearing(TM)(ブレインヒアリング)」を補聴器開発の原点に置いています。先進技術とオーディオロジー(聴覚学)を研究するエリクスホルム研究センター(デンマーク)において、約13,000人以上のテストユーザーと世界中から参集した様々な分野の科学者と共に、軽度から高重度、子供用から大人用まで、あらゆる難聴に対応できるよう、常に最先端で革新的な補聴器の開発・製造を行っております。


■デマントグループについて
デマントは、115年前にデンマークのオデンセで補聴器の輸入商から始まり、のちに補聴器の製造や診断機器、人工内耳事業へと参入していきました。現在、聴覚ヘルスケアにおける全ての分野をカバーする世界唯一の企業として、世界130か国以上でビジネスを展開しています。ビジネス領域ごとの売り上げ比率では、補聴器事業が全体の87%を占めており、その他、人工内耳事業4%、診断機器事業が9%を占めています。中核となる補聴器事業ではオーティコン、フィリップス、バーナフォン、ソニックなど複数のブランドを展開しています。また、デマントはウィリアム・デマント財団が所有し、世界で唯一の慈善財団が所有する聴覚ヘルスケア企業です。
全デマントグループ16,000人の従業員とともに、聴覚ヘルスケアや聞こえの改善の研究、製品開発を行っています。


▼本リリース掲載サイト
https://www.oticon.co.jp/about/press/center/press-releases/2021/20210624

▼オーティコン補聴器ホームページ
https://www.oticon.co.jp/

▼オーティコン製品に関する資料請求・お問い合わせ
フリーダイヤル:0120-113321
営業時間 9:30~17:30(土、日、祝日を除く)


◆その他、詳細は当社ホームページ http://www.oticon.co.jp をご覧ください。
※文中に記載の名称は、各社の商標または登録商標です。
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