プリペアド・ピアノ
株式会社コルグ
NAUTILUS-61
NAUTILUS
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/235817/LL_img_235817_1.jpg
プリペアド・ピアノ
◯背景
本学とコルグの関係は、2009年よりインターンシップとして本学の学生を受け入れていただいたのを機に始まりました。インターンシップ時には、音素材の録音や編集の実習を行い、その成果はコルグの開発・販売戦略に沿って、その都度部分的に製品に搭載されてきました。
本学は、演奏・創作学科の中に作曲専修、コンピュータ音楽専修を擁し、授業や演奏会を通して先進的研究・教育を行っています。また、古今東西の楽器を収集、研究を行う「楽器学資料館」では、その研究成果をレクチャーコンサートや授業の一環として教育に還元し、世界のさまざまな地域、時代の楽器に触れ、演奏の幅、知見を広げる場として学生、教員が活用しています。
◯開発の経緯
ジョン・ケージ(1912-1992)が考案した「プリペアド・ピアノ」(注1)の録音に関して協力の提案があり、共同開発がスタートしました。学生にとって製品開発のプロセスを学ぶことのできる大変良い機会であること、また、本学にはピアノの特殊奏法や内部奏法といったプリペアド・ピアノ演奏をはじめとする近現代作品演奏の第一人者である教授の井上郷子をはじめ、コンピュータ音楽専修准教授の今井慎太郎などによる専門的知見や、楽器、スタジオなどの優れた環境を有し、製品開発を通して本学の研究教育活動を社会に還元できることなどから、演奏、録音といった面で全面的に協力を行ってまいりました。
また、同様に本学卒業生として専門的に活動する演奏家との連携により本学所有楽器を使用し「ファウンド・パーカッション」(注2)「フォルテピアノ」(注3)の録音も実現いたしました。
◯本学が開発協力した音源について
【プリペアド・ピアノ】
音源の録音にあたっては、本学教授の井上郷子が演奏、プレパレーション(注4)に携わりました。どのようにピアノをプレパレーションするか、どういった音が使われるのか、どのような音が興味を引くのかなどのアドバイスを行いつつ、収音が行われました。
井上の経験を最大限に生かしてセッティングの変更と耳での確認を繰り返し、試行錯誤を重ねて録音を行いました。本学卒業生でコルグの音色開発を担当する川原大樹氏はこの録音を振り返り、「音源化によって良くも悪くも安定性とコントロール性が付加され、音色の調整/切替、エフェクトの活用、アルペジエーターの活用など、生楽器では難しかった様々な表現が可能になったように思います。」と音の完成度と汎用性で類い稀なものであることをコメントしていました。
【ファウンド・パーカッション】
本学准教授の今井慎太郎との話し合いをきっかけに本企画は始動しました。今井が「本学には身近な音の録音素材から作曲する授業があります。能動的に聴いたりマイクを通すことで意外な音を発見できる、とても良い題材です。」と語るように、生活に密着した素材を使用しさまざまな音源が収録されました。収録には、本学卒業生で打楽器奏者の大橋エリ氏、曲淵俊介氏が携わり、本学の音楽資料課が所有する楽器も多数収録されました。収音は本学新1号館のN-226スタジオにて行われ、エンジニアは本学講師(当時)小林悟氏が従事、4人の学生もスタッフとして参加し、録音アシスタントやPro-toolsのオペレーションなどを担当しました。また後日、波形編集にも従事しています。
川原氏は「何をどのように録り、どのように見せるのか、といった方針決めに最も苦労しましたが、シンセに搭載することで新しい音の要素が見え、音色の再発見ができました。例えば、ホースを素材としたパッド音色では人の声のような質感を得られたり、コーヒーミルの音を重ね合わせて美しいヒットの音を作ることができました。」と話し、本学教員、在学生、卒業生、演奏者が一体となって生み出した、まさしく「ユニークな音」と言えるサウンドに仕上がりました。
【フォルテピアノ】
本学の楽器学資料館が所有するフォルテピアノの収音には、別科調律の講師(当時)池末隆氏(現在は3年次からの「ピアノ調律コース」に発展的解消)が全面的に協力しました。エンジニアには本学講師(当時)の小林悟氏が参加し、7名の学生が当日のスタッフとして録音アシスタントやPro-toolsのオペレーションなどを担当、後日波形編集にも従事しました。「フォルテピアノはクラシックな古楽器に類しますが、一般的なユーザーから見ると異色なピアノと捉えることもでき、ベーシックでもありユニークでもある興味深い音色です。」と川原氏が語るように、一般的になかなか触れることのできないサウンドが搭載され「NAUTILUS」の特徴を表現するひとつの音素材となっています。
◯終わりに
これまで述べてきた通り、本学とコルグの繋がりは深く、非常にクリエイティブな協力関係を築いてまいりました。「専門家の知識と技術、国立音楽大学の持つ高度な録音環境/設備無くして収録は不可能だった」とのコルグからの賛辞に甘んじることなく、本学はこれからも、新たな音、歴史的楽器の探求など、さまざまな取り組みを通し、世界の音楽文化の発展に寄与してまいります。
◯用語説明
1. プリペアド・ピアノ
弦の間の特定の場所にボルト、ねじ、ミュート、消しゴムなどの物を差し込むことによって、音の高さ、音色、音の強弱を変化させたピアノ。どのような音の変化が望まれるかは曲ごとに異なり、仕掛けに使用される物質の性質と位置によって音の変化のしかたも異なるため、楽譜に記入されている。
(出典:EDWIN M.RIPIN(白砂昭一)「プリペアド・ピアノ」Stanley Sadie [ほか] 編.『ニューグローヴ世界音楽大事典』第15巻. 東京,講談社,1994年,348ページ.)
2. ファウンド・パーカッション
ひび割れた骨、角、竹や木管などの自然素材、または空きビンや調理器具、錆びたボルトやブレーキドラム、板金の音など、本来別の目的のために作られた素材を用いたもの。Found instrumentとも称される。
(出典:Laurence Libin.“Found instrument”.Grove Music Online.
< https://doi.org/10.1093/omo/9781561592630.013.3000000080 >[参照 2020.11.6])
3. フォルテピアノ
18世紀から19世紀初めのピアノを、20世紀のピアノと区別するために便宜上用いる言葉。「ハンマークラヴィーア」や「ハンマーフリューゲル」とも言われる。6オクターブほどの音域で、現代のピアノに比べて音の持続は短く、軽いタッチが特徴。演奏者によって強弱をつけることができる。モーツァルト、ベートーヴェンに愛用された。
(出典:EDWIN M.RIPIN(関根敏子)「フォルテピアノ」Stanley Sadie [ほか] 編.『ニューグローヴ世界音楽大事典』第14巻.東京,講談社,1994年,580ページ.
筒井はる香『フォルテピアノ 19世紀ウィーンの製作家と音楽家たち』東京,アルテスパブリッシング,2020年.)
4. プレパレーション
ここでは、ピアノの弦に差し込む素材やその差し込み方、位置などにより生まれる無限とも言える音色をコントロールし、録音のために試行錯誤してプリペア(=準備)すること。
◯製品情報
製品名
NAUTILUS(2020年11月下旬発売予定)
ラインナップ
NAUTILUS-61:メーカー希望小売価格¥220,000(税抜)
NAUTILUS-73:メーカー希望小売価格¥260,000(税抜)
NAUTILUS-88:メーカー希望小売価格¥300,000(税抜)
製品ページURL:
https://www.korg.com/jp/products/synthesizers/nautilus/
◯国立音楽大学 概要
社名 : 国立音楽大学
学長 : 武田忠善
所在地 : 東京都立川市柏町5-5-1
創立 : 1926年(大正15年)
URL : https://www.kunitachi.ac.jp/
基本理念: 自由、自主、自律の精神を以て良識ある音楽家、教育家を育成し、
日本及び世界の文化の発展に寄与する
1926(大正15)年創立の「東京高等音楽学院」をルーツとし、1950(昭和25)年に新制大学として発足しました。以来半世紀超、音楽家や音楽教育家のみならず、マネージメントや音楽療法など幅広い分野で音楽文化を支え、発展を担う優秀な人材を数多く輩出しています。
現在は幼稚園から大学院博士課程までを備え、大学の音楽学部には演奏・創作学科(声楽、鍵盤楽器、弦管打楽器、ジャズ、作曲、コンピュータ音楽)、音楽文化教育学科(音楽教育、音楽療法、音楽情報、幼児音楽)を擁しています。
◯株式会社コルグ 概要
社名 : 株式会社コルグ
代表 : 代表取締役社長 加藤世紀
所在地 : 東京都稲城市矢野口4015-2
創立 : 1963(昭和38)年8月28日
事業内容: 電子ピアノ、シンセサイザーなど電子楽器の開発、製造、及び販売、
海外ブランド楽器などの輸入販売、音楽データ作成
URL : https://www.korg.com/jp/
株式会社コルグは、1963年の創業以来、一貫して電子楽器の製造に取り組み、日本でのシンセサイザー開発をいち早く手がけるほか、1975年には世界初の針式メーターを採用したコンパクト・チューナーを発表するなど、「KORG」ブランドの下に、独自の創造性と技術力を駆使した常に時代をリードする画期的な製品を世界各国で発表してまいりました。特にシンセサイザーにおいては、その高いサウンド・クオリティ、機能性で国内外のトップ・ミュージシャンをはじめ、多くの音楽ファンから支持を得ています。現在では、シンセサイザー、チューナーのみならず、DJ/ダンス関連製品、エフェクター、レコーダーから、デジタル・ピアノまで幅広いジャンルの製品を企画開発しています。