Q1食中毒を経験したことがありますか?
Q2家庭で鶏肉を調理する時、衛生上特に気を付けてることはありますか?
Q3新鮮な鶏肉でも食中毒の原因になる可能性があると思いますか?
Q4鶏肉に薬剤耐性菌がついている可能性があることを知っていますか?
AMR臨床リファレンスセンターでは、鶏肉を中心に食中毒と薬剤耐性菌について308名にアンケートを行いました。その結果、食中毒の正しい予防方法を知っている人が多いにも関わらず、食中毒を経験したことがある人が4割にもなることがわかりました。さらに新鮮な鶏肉にも食中毒の原因菌が付着している可能性は知っているものの、鶏肉に潜む薬剤耐性菌については知らないことがわかりました。
近年の健康ブームで注目される鶏肉は、安価で食べやすく家庭でも人気の食材です。安心して食べるために、薬剤耐性対策に関する正しい知識を一人ひとりが身につけることが大切です。
*1:食中毒はウイルスや化学物質も原因となりますが、ここでは細菌による食中毒について解説します
*2:CNN.鶏肉から多剤耐性サルモネラ菌、92人が感染 米CDC(2018年10月18日)
*3:平成29(2017)年度厚生労働科学研究 食品由来薬剤耐性菌の発生動向及び衛生対策に関する研究 より
― 調査 SUMMARY <サマリー> ―
・食中毒を経験したことがある人は4割 男女、年代問わず幅広く経験!
・新鮮な鶏肉でも食中毒になることを約9割が知っている
・鶏肉に薬剤耐性菌がついている可能性があることを知っているのは33.8%だけ!
・鶏肉の取り扱い方によっては薬剤耐性菌感染のリスクがある
・食中毒の予防は薬剤耐性菌感染のリスクも回避できる
サンプル:一般人 308名
男女 各50%、20代~60代 年代別にインターネット調査
調査期間:2019年8月
■流通している鶏肉の約半数から薬剤耐性菌が検出
鶏肉は体が小さいことから食肉加工の段階で腸の中にいる菌が食肉につきやすいとされています。食肉検査所などで約550体の鶏肉を検査したところ約半数の49%の鶏肉から薬剤耐性菌を検出したことが、厚生労働省研究班の調べで分かりました。病原性大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクターなど食中毒を起こす菌が薬剤耐性になってしまうと、体力がない病人や高齢者の場合、抗菌薬による治療が難しくなり、重症化する危険も伴います。さらに薬剤耐性菌の拡大にもつながるため、鶏肉の正しい扱い方法と薬剤耐性菌対策の正しい知識を持つことが重要です。
そこで、国立国際医療研究センター病院 具芳明(ぐ よしあき)先生に、調査結果の考察と食中毒や危険な薬剤耐性菌を身体に取り込まないようにするための対策について伺いました。
■4割が食中毒の経験者
食中毒を起こした経験がある人(病院で診断された場合だけでなく、自己判断も含む)は、男女ともに、年代も幅広く4割前後の方が「はい」と回答しました。それだけ、食中毒は身近であり、感染の危険性が常にあるということを表しています。
症状は下痢、腹痛、発熱、嘔吐などで、倦怠感、頭痛、めまい、筋肉痛が起こることもあります。食中毒は、時間が経てば症状が治まってしまうことも多いです。しかし、子ども、高齢者、病気の治療中など抵抗力が低下している場合は重症化のリスクがあり、油断は禁物です。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/192930/LL_img_192930_1.jpg
Q1食中毒を経験したことがありますか?
■衛生上の対策は広く知られている
今回の調査では、家庭内での衛生対策は、十分ではないものの、広く知られていることが分かりました。ただし、下記の項目の「酒をもみ込む」は間違った情報で、飲酒用のアルコール濃度では不十分です。食中毒の菌は高熱に弱く、カンピロバクターは75℃以上で1分以上加熱することで死滅することがわかっています。鶏肉は芯までしっかり火を通し、白くなっていることを確認しましょう。
肉類を扱う場合には、人の手やまな板などの調理器具を介して別の食材に菌が付着することがないようにすることが大切です。加熱前の食肉は、生で食べる野菜などと接触しないようにしましょう。
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/192930/img_192930_2.jpg
Q2家庭で鶏肉を調理する時、衛生上特に気を付けてることはありますか?
■約9割が新鮮な鶏肉でも食中毒の原因になることを自覚
病原性大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクターなど食中毒を起こす菌が食肉に付着していても、臭いや見た目の変化はありません。約9割が新鮮な鶏肉であっても食中毒を起こす可能性を自覚していることから、多くの人が正しい知識をもっていることと推測します。
調理方法に気をつければ、食中毒を過度に恐れることはありません。しかし、鶏肉を生で食する「鶏刺し」、中まで火が通っていない焼き鳥などは危険だと具先生は指摘します。カンピロバクターは、他の菌とくらべて少ない量でも発症します。鶏肉の生食は控えることが、食中毒、薬剤耐性菌の感染防止につながります。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/192930/img_192930_3.jpg
Q3新鮮な鶏肉でも食中毒の原因になる可能性があると思いますか?
■薬剤耐性菌が鶏肉についていることを知っているのはわずか33.8%
新鮮な鶏肉にも食中毒の菌がついている可能性があることをほとんどが知っているのにも関わらず、薬剤耐性菌がついている可能性を知っているのは、わずか3分の1でした。3分の2は知らないということは、憂慮すべきことであると具先生は指摘します。食中毒を予防することが、薬剤耐性菌の感染や拡大の予防につながるため、対策を徹底することを促しています。
菌によっては食べた人の腸に留まり薬剤耐性菌が増える危険性や、そこから感染拡大につながることもあります。また膀胱炎など細菌による病気を発症した場合も、薬剤耐性菌によって抗菌薬が効かず治療が難航することもあります。
画像4: https://www.atpress.ne.jp/releases/192930/img_192930_4.jpg
Q4鶏肉に薬剤耐性菌がついている可能性があることを知っていますか?
■鶏肉による薬剤耐性菌感染の危険性
1.流通している鶏肉の約半数から薬剤耐性菌を検出
厚労省の調査で、流通している鶏肉の約半数から薬剤耐性菌を検出したことが判明。
海外からの輸入品よりも国産の方から多く検出されたこともわかった。
2.薬剤耐性菌による食中毒にかかると治療が難航する
食中毒の治療の基本は脱水を防ぎ症状が落ち着くのを待つこと。重症化している場合、
抗菌薬を使用することがあるが、薬剤耐性菌が原因だと治療が難航する可能性がある。
3.体内で薬剤耐性菌が増えると、抗菌薬が効かず感染の拡大や病気治療が困難に
大腸菌の薬剤耐性菌は拡大が危惧されている病原菌のひとつである。
例えば膀胱炎の原因となる大腸菌だが、薬剤耐性菌の場合、治療が難航する恐れがある。
■食中毒を予防することが、AMR(薬剤耐性)菌対策につながる
〈薬剤耐性(AMR)とは?〉
薬剤耐性のことをAMR (Antimicrobial Resistance)と呼ぶことがあります。
そもそも薬剤耐性とは何でしょうか? 細菌が増えるのを抑えたり壊したりする薬が抗菌薬(抗生物質)ですが、細菌はさまざまな手段を使って薬から逃げ延びようとします。その結果、抗菌薬が細菌に対して効かなくなることを「薬剤耐性」といいます。
〈国連が「2050年にはAMRで年1000万人が死亡する事態」と警告〉
国連は、このままでは2050年までにはAMRによって年に1000万人が死亡する事態となり、がんによる死亡者数を超え、 08~09年の金融危機に匹敵する破壊的ダメージを受ける恐れがあると警告しました。*1
食中毒の菌では、大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなどから薬剤耐性菌検出の報告があります。
*1 https://news.un.org/en/story/2019/04/1037471
No Time to Wait: Securing the future from drug-resistant infections
Report to the Secretary-General of the United Nations April 2019
〈ワンヘルスという考え方〉
鶏、牛、豚には病気を治療・予防したり、成長を促進するために抗菌薬が用いられています。家畜への抗菌薬の使用が食べ物を通じた薬剤耐性菌の広がりにつながっているとして、欧米を中心に、成長促進目的での抗菌薬使用をやめる動きが出ています。日本でも慎重に用いる方向で見直しが進められています。
人の健康を守るだけでなく、動物や環境にも目を配って取り組もうという考え方を「ワンヘルス」といい、畜産、水産、農業においてもこの考えのもと、世界各国で抗菌薬の使用を見直しています。
■食中毒予防は、薬剤耐性菌の感染も予防する
1.鶏肉は中心が白くなるまで加熱する
鶏肉に付いた薬剤耐性菌は加熱により死滅する。
中までしっかり白くなっているか確認することが重要。
2.鶏肉を調理したまな板や包丁から別の食材に菌を広げないよう注意する
調理器具にも薬剤耐性菌が付着している可能性がある。
3.鶏肉を触った手でサラダ用の野菜など生食のものを扱わない
鶏肉を触った手には薬剤耐性菌が付着している可能性があり、そのままサラダ用の野菜などを触らない。
4.新鮮な鶏肉でも生で食べない
鳥刺しなど、鶏肉は生で食べない。
どのような仕入れや調理法であってもリスクは避けられない。
5.調理したものは時間を置かずに食べる
加熱調理をしたものでも、原因菌がついていれば、時間とともに増えていきます。
加熱したからと安心せず、調理をしたら早めに食べる。
― お話しを伺った先生 ―
画像5: https://www.atpress.ne.jp/releases/192930/img_192930_5.jpg
具 芳明先生
具 芳明 (ぐ よしあき)先生
国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター
情報・教育支援室長 総合内科専門医、感染症専門医
薬剤耐性(AMR)対策を推進するための教育啓発活動や医療現場の支援に従事
経歴:佐久総合病院、静岡県立静岡がんセンター、国立感染症研究所、東北大学などを経て2017年より現職。