有機樹脂上のレーザー照射した箇所への銅形成が可能となった
さらに柔軟性を持つ素材への応用と小型化を目指す
今回の技術は、大気中で銅の処理を可能とし、数ミクロン幅の微小な配線形成が有機樹脂上に形成できるものです。従来はレーザー照射に耐えられるガラスなどの素材にしか形成できませんでしたが、これにより柔らかく耐熱性が低い有機樹脂への銅配線が可能となります。
近年、印刷技術を利用して集積回路やデバイスを作る技術(プリンタブルエレクトロニクス)が注目されていますが、未だその配線行程には、酸素が無い環境での大がかりな処理設備や複雑な作製プロセスを必要とし、結果的にコストや時間がかかる問題があります。本技術では、特別な環境下や機器を用いることなく有機樹脂上に銅配線形成を可能にするもので、ディスプレイやスマートフォンなどを容易かつ低コストに生産する技術として期待されます。
■背景
電子デバイスの配線材料をレーザー照射で生成するには、ある一定以上のエネルギー量(出力量)を必要とすることから、従来はガラスやセラミックスなど耐熱性のある基板が用いられ、レーザーによる配線が形成できる素材には限りがありました。
近年は、比較的高い性能を備え、安価な銅の活用が進んでいます。しかし銅は容易に酸化するため、高真空環境下で作業をする、複雑な工程を経る必要があるなど、結果的にコストや時間がかかってしまうことが課題となっていました。
■今回の成果
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/168623/LL_img_168623_1.jpg
有機樹脂上のレーザー照射した箇所への銅形成が可能となった
分解性をもつ銅錯体溶液を有機樹脂(ポリイミドフィルム)上に塗布し、レーザー照射することで銅錯体に化学反応を促し、連続的に照射することで銅を定着させることに成功。原料となる銅錯体の種類を複数組み合わせ、その比率を工夫することにより、低エネルギー量(低出力)で銅を析出する条件を発見しました。そのため、高エネルギー量で照射すると溶けてしまう有機樹脂上でも銅配線を形成することが可能となります。
また、この手法により、銅膜が均一化・緻密化し配線の表面がより滑らかになることで、導電性の高い銅配線が形成できます。そして従来必要であった特殊な設備が不要となるほか、銅めっき法との併用により、銅膜の厚さを増すことも可能。その際、通常の銅めっき法で使用される貴金属触媒(パラジウムなど)なども不要となるなど、大幅なプロセスの簡略化と低コスト化を実現した技術と言えます。
■今後の展開
今回の技術は、スマートフォン、フレキシブルディスプレイなどの普及にともない注目されている「フレキシブルプリント配線基板」のさらなる発展に寄与する可能性がある技術です。例えば、柔軟性を必要とする生体センサーや、設置場所を選ばない太陽電池への展開が想定されます。
大石教授は今後、銅錯体の組み合わせやレーザー光の波長を変えることで、さらに耐熱性の低い素材(PETフィルムなど)へ応用する工夫を重ね、より幅広い製品への実用化を目指していきます。また銅を析出させる配線幅を狭め、配線を微少領域に高集積化させることで小型デバイスへ利用することも継続して検討を行っていきます。
・さらに柔軟性を持つ素材への応用と小型化を目指す
https://www.atpress.ne.jp/releases/168623/img_168623_2.png