『友だち幻想』書影
『友だち幻想』収録イメージ1 イラスト:箸井地図
『友だち幻想』収録イメージ2 イラスト:箸井地図
刊行当時は月平均100冊程度でじわじわと売れていましたが、2017年に入ってから突然、約3倍を売り上げるようになりました。若者を中心に読まれてきた本が、より複雑となった人間関係の中で生きる現代において、世代を超えて共感を呼び、2017年5月~2018年4月の1年間だけで14万6,000部の重版がかかっています。
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『友だち幻想』書影
■『友だち幻想』とは
『友だち幻想』は筑摩書房の中高生向けシリーズ「ちくまプリマー新書」から2008年3月に刊行されました。社会学を専門とする著者が、人間関係で初めてつまずきを感じる多感な年頃の中・高校生に向けて書いた実用的社会学の本です。2016年に亡くなった著者の菅野仁さんは執筆時、人付き合いが苦手な小学生の長女が「なんでみんなと一緒に遊ばないの?」と、クラスになじむよう学校で何度も注意されていた様子を見て、自分は娘に一体何をしてやれるんだろうか?と考えたことが、本書刊行のきっかけの一つとなりました。
・人と人との距離感を見つめ直すことが重要。今後は気の合わない人とでも一緒にいる作法が重要だ。
・相手が他者であるという本質的な性質を理解するところから真の親しさは生まれる。
・「親しさか敵対か」の二者択一ではなく、態度保留という真ん中の道を選ぶことが大事。
友だちは大切。でも、なぜこんなに友だちとの関係で傷つき、悩むのか? このような疑問を抱く人は、時代を問わず少なくないと思います。本書では、「みんな仲良く」という理念や「私を丸ごと受け入れてくれる人がきっといる」という考えは幻想であり、その幻想の中から真の親しさは得られない、と語ります。さらに、人と人との距離感覚をみがいて上手に“つながり”を築けるようにするためには、人付き合いのルールを知り、ほんの少しの作法を身に付ける必要がある。そうすれば、複雑な人間関係の中で必要以上に傷つかず、しなやかに生きられるようになる、と説いています。
このように「人付き合い」に悩む方への処方箋として長く読まれているとともに、初学者向けに社会学を紹介するテキストとしても定評を得て、中学から大学の課題図書や入試問題文としても繰り返し使われています。
■10年前の本になぜいま脚光が?
「人づきあいは大切だけれど、時に疲れや重苦しさを感じてしまう」という、世代を超えた悩みについて論じた本書。中高生向けシリーズのため「友だち」という言葉が全面に出ていますが、家族、恋人、職場関係、ママ友パパ友……といった、自分以外の身近な「他者」すべてとの関係をどうとり結ぶかが主題となっています。
SNSなどコミュニケーションツールの発達により、他者とのつながりがより複雑に、プレッシャーにもなっていると感じる人も多い現代。「メールの即レス」で愛情が測定されたり、浮くのが怖くて周りに意見を合わせたりと、親しくともとかく心が休まらない状況が起きやすくなっているのではないでしょうか。また一方で、インターネットを駆使し、人と会わずに一人でも生きていける時代でもあります。この難しい現代社会の〈つながり〉について、本書は丁寧に解きほぐしていきます。
現代社会で求められている「親しさ」をとらえ直すための格好の指南書として、本書が今、大人、子どもを問わず人付き合いに悩むすべての人に求められていると言えます。
■「世界一受けたい授業」で芥川賞作家・又吉直樹氏が紹介!
2018年4月14日(土)に放送された人気番組・日本テレビ「世界一受けたい授業」では、芥川賞作家・又吉直樹さんによって本書が紹介されました。苦手な人づきあいに悩んだ時に本書に共感したという又吉さん自身によって、若者から再評価されている理由や、「友だちは生のあじわいでもあり、脅威でもある」「他者との正しい距離の取り方」といった本書のポイントを番組内で読み解いていきました。
4月から新しい環境や人間関係での生活をスタートした人も多いこの時期、より多くの人の心に寄り添うテーマとなり、放送後、ますます反響の輪が広がっています。
■反響の声
「お互いを縛る、窮屈な友だち関係になっていませんか? 自分たちの「関係」を見つめなおす視点を、菅野さんは鮮やかに提示してくれます。」――哲学者 西研
「近しい関係こそ大切だと思っているから、十分気をつかっていたつもりなのに、うまくいかないのはなぜだろう。この本を読んで、その理由がわかった。」―― 一般読者
「冷静なまなざしは残しつつ、こんな風に自分の身の上話を交えながら読者に優しく語りかけてくれる社会学者に初めて出会った。読みながら心の底のモヤモヤが晴れていく。「人づき合いは苦手だ。でも、一歩踏み出してみよう」そんな勇気が湧いてくる1冊に出会えた。」―― 一般読者
■目次
はじめに――「友人重視指向」の日本の高校生
第1章 人は一人では生きられない?
一人でも生きていける社会だからこそ〈つながり〉が難しい
「親しさを求める作法が」、昔とは違う
第2章 幸せも苦しみも他者がもたらす
二種類の人と人とのつながり
人は一人でも生きていけるが、一人だけではなんとなく空しい
「自己充実」――幸福のモメントその一
「他者との交流」――幸福のモメントその二
(1)交流そのものの歓び
(2)他者から承認される歓び
他者=自分以外のすべての人間
「見知らぬ他者」と「身近な他者」
他者の二重性
(1)「脅威の源泉」としての他者
(2)「生のあじわいの源泉」としての他者
人は他者の二重性に振り回される
第3章 共同性の幻想――なぜ「友だち」のことで悩みは尽きないのか
なぜいない人の悪口を言うのか――スケープゴートの理論
心が休まらない「メール即レス」
同調圧力――友情が脅迫になる
ネオ共同性――現代の新たな圧力
同質性から並存性へ
「一年生になったら」──「同質的共同性」指向の原点
昔は「同質的共同性」だけでよかった
「やりすごす」という発想――無理に関わるから傷つけあう
「ルサンチマン」は誰の心にも生じることがある
適切な距離は人によって違う
第4章 「ルール関係」と「フィーリング共有関係」
「ルール関係」と「フィーリング共有関係」に分けて考えよう
「フィーリング共有関係」だけで考えるといじめはなくならない
「フィーリング共有関係」の負の部分
ルールは「自由のため」にある!
誰かをいじめると、自分がいじめられるリスクが生まれる
だから「気に入らない人とも並存する作法」が大切
ルールは必要最小限にしたほうが、ルール関係は築きやすい
第5章 熱心さゆえの教育幻想
先生は生徒の記憶に残らなくてもいい
「話せばわかる」も幻想
個性教育よりもまずやるべきこと
第6章 家族との関係と、大人になること
家族をとらえる二つのキーワード――「定位家族」と「生殖家族」
親の「包摂志向」と子どもの「自立志向」がぶつかりあう思春期
大人になるということ
君たちには無限の可能性もあるが、限界もある
第7章 「傷つきやすい私」と友だち幻想
目上の人との距離感
異質な他者とのつきあい
「傷つきやすい私」とのつきあい方
「友だち幻想」
恋愛こそ幻想を持ちやすい
第8章 言葉によって自分を作り変える
関係が深まらない「コミュニケーション阻害語」
(1)「ムカツク」と「うざい」
(2)「ていうか」
(3)「チョー」「カワイイ」「ヤバイ」
(4)キャラがかぶる、KY(空気読めない/空気読め)
言葉を得なければ、世界も自分もとらえられない
読書は対話能力を鍛える
苦しさを通して得られるもの
楽しても楽しくない
おわりに――「友だち幻想」を超えて
『友だち幻想』収録イメージ イラスト:箸井地図
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■著者プロフィール
1960年宮城県仙台市生まれ。89年東北大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程単位取得。東北大学文学部助手などを経て、96年宮城教育大学教育学部助教授、06年より同大学教授。16年より同大学副学長(学務担当)を兼任。専攻は社会学(社会学思想史・コミュニケーション論・地域社会論)。G.ジンメルやM.ウェーバーなど古典社会学の現代的な読み直しをベースとし、「“自分の問題"として〈社会〉について考えるための知的技法の追究」をテーマに、考察を続けている。
著書『18分集中法――時間の「質」を高める』(ちくま新書)、『ジンメル・つながりの哲学』(NHKブックス)、『愛の本――他者との〈つながり〉を持て余すあなたへ』(PHP研究所)、共著に『社会学にできること』(ちくまプリマー新書)、『コミュニケーションの社会学』(有斐閣)、『いまこの国で大人になるということ』(紀伊國屋書店)、『はじめての哲学史』(有斐閣)など。2016年、没。
■書籍情報
書名 : 『友だち幻想 ――人と人の〈つながり〉を考える』(ちくまプリマー新書)
著者 : 菅野仁
定価 : 本体740円+税/ISBN:978-4-480-68780-7/160ページ/新書判
刊行日 : 2008年3月10日
イラスト: 箸井地図
電子書籍版:希望小売価格650円
試し読み・特設サイト : http://www.chikumashobo.co.jp/special/friend_illusion/
本の要約サイトflier(フライヤー): https://flierinc.com/summary/1479