
藤井聡太名人(竜王・王位・棋聖・棋王・王将=23)が4連覇に向けて好スタートを切った。9日、東京都文京区にある「ホテル椿山荘東京」で行われた将棋の第84期名人戦7番勝負第1局で、初挑戦の糸谷哲郎八段(37)を下した。
8日午前9時からの2日制で同所で始まった対局は、藤井と初めてのタイトル戦となる先手糸谷が初手から1筋の歩を突くという、前例のないで出だしとなった。これに藤井が横歩取りで対抗。定跡にはない力戦の末に押し切り、先勝した。第2局は25、26日に青森市「ホテル青森」で行われる。
初めての名人戦で敗れはしたものの、見せ場たっぷりの「糸谷ワールド」がいきなり展開された。糸谷が初手から意表を突いた。1筋の歩をいきなり伸ばす。将棋界で最古の歴史と伝統を誇る名人戦の初手はこれまで角道を開けるか、飛車先の歩を突くがどちらかだった。
定跡にとらわれない「力戦派」。阪大文学部現役合格、阪大大学院卒という高学歴だけではなく、局面の解析能力に優れ、指し手がパッと思い浮かぶ「早見え早指し」タイプ。独創性を生かした指し回しで藤井を苦しめた。
シリーズ前、「斬新」と揮毫(きごう)した。トップ棋士10人の総当たり戦で挑戦権を争うA級順位戦について、「新しい将棋を指す」と考えて指してきた。言葉どおり、まさに「有言実行」した。
昨年6月、日本将棋連盟の理事に就任。運営に携わるため、研究時間が削られる。一方で、トップ棋士として結果を求められる。「二刀流」をこなしながら、たどり着いたのが「新しい将棋」だった。結果の1つとして、現役理事としては1986年(昭61)、第44期の大山康晴15世名人(故人)以来40年ぶりの名人戦挑戦権を獲得した。
しかも今月3日、シンガポールで行われた叡王戦5番勝負第1局(伊藤匠叡王対斎藤慎太郎八段戦)では担当理事として現地へ赴き、5日に帰国。7日に名人戦前夜祭という忙しさの中でシリーズを迎えた。
棋士になって20年。デビュー前から「末はタイトル獲得確実」「怪物」などと呼ばれてきた。今回も名人戦初登場で、規格外の行動と指し回しを見せた。
広島県出身の棋士としては、1971年(昭46)の升田幸三実力制第四代名人以来の名人戦登場。森信雄七段の門下としては、同県の先輩で98年に29歳の若さでなくなった「怪童」村山聖九段もなし得なかった挑戦を果たしている。話題に事欠かない挑戦者は第2局で八段昇段以来、250勝として九段昇段を決める。
