
6~7月に開催されたサッカー・ワールドカップ(W杯)北中米大会で、エジプトのサッカー史に新たな一ページが刻まれた。
W杯初出場から92年、エジプトの歴史にちなみ「ファラオズ」の愛称で親しまれてきたチームは、4大会目にして初めての勝利を手にし、勢いそのままに悲願のベスト16入りを果たしたのだ。
エジプトはこれまでアフリカ大陸の頂点を決めるアフリカ選手権(アフリカ・ネーションズカップ)で最多7回の優勝を経験しながら、W杯での戦績には苦しんできた。
それだけに今回の快進撃は国民にとって格別だったようだ。
鳴り響いたクラクション
首都カイロの街中には飲食店や路上のあちこちに即席のパブリック・ビューイング(PV)会場が用意され、店の前の通りは席を確保できなかった人たちであふれた。
テレビがない飲食店でもスマートフォンの中継に見入るグループの姿があり、まるで一つのテレビに多くの人が群がる昭和をほうふつとさせる光景だった。
得点が入るたびに大歓声が起こり、祝福を意味する車のクラクション音が鳴り響いた。
カイロの映画館で試合を観戦していた大手コンサル会社勤務の男性(29)は「あまりにも長く、長く待ちわびた勝利だった。勝利への安堵(あんど)と誇りを感じている」と興奮気味に語った。
苦難のガザ地区からも声援
この歴史的な勝利に沸いたのはエジプトだけではない。国境を接するパレスチナ自治区ガザ地区では、エジプトの支援団体がPVを企画。多くの住民ががれきの中で、同じアラブの隣国であるエジプトの試合に夢中になった。英紙によると、レバノンやリビアでもファンが声援を送ったという。
こうした中で、チームを率いたハサン監督の言動も注目の的となった。
オーストラリアに勝ってベスト16入りを決めた際にピッチ上でパレスチナ旗を掲げ、後日の記者会見では4分以上にわたってパレスチナへの思いを熱弁したからだ。
ハサン監督は「もし世界にパレスチナの人々に心を寄せない人がいれば、その人は人間ではない」と訴えた。
中東では2月末から始まった米国とイランの戦闘の影響が波及し、緊迫した情勢が続く。
エジプト代表の躍進は国内に熱狂と喜びをもたらしただけでなく、戦禍に苦しむ人々にとっても、つかの間の息抜きとなったに違いない。【カイロ古川幸奈】
