
カメムシの一種の脚にある「耳」だと思われていた器官が、特定の細菌を培養する器官であることが分かったと、産業技術総合研究所などの研究チームが17日発表した。菌を卵に植え付けることで、卵を寄生バチから守る「共生」の役割を果たしていた。
この種は、日本全土に分布する黒褐色のノコギリカメムシ。メスのみ後ろ脚に平たい器官を持つ。昆虫の多くは脚や腹に耳の働きをする平たい鼓膜器官がついており、これも耳だと考えられてきた。
しかし、産卵直後のメスが後ろ脚を卵にこすりつける行動をすることから、チームが調べたところ、この器官から分泌液が出ており、3種類の菌を培養していたことが判明。この菌が卵に付着し、卵を覆うように菌糸が成長していた。
ノコギリカメムシの天敵は、卵に自分の卵を産み付けて幼虫に食べさせる寄生バチだ。しかしこの菌は、ノコギリカメムシの卵にはダメージを与えない一方、菌糸が寄生バチを物理的に寄せ付けない働きをして、卵を守っていた。
チームによると、昆虫の器官が別の役割を持っていると判明するのは珍しい。1970年代の日本の研究で、ノコギリカメムシが脚を卵にこすりつける行動が分かっていたものの、その後は詳しく調べられていなかった。チームの深津武馬・産総研首席研究員は「想定外の発見で、共生の起源や進化を考える上で興味深い成果だ」とした。
成果は17日付の米科学誌サイエンス(https://doi.org/10.1126/science.adp6699)に掲載された。【酒造唯】
