
航空自衛隊築城基地(福岡県築上町など)のF2戦闘機2機が27日、北九州市小倉南区・苅田町沖にある北九州空港の滑走路(2500メートル)で、タッチアンドゴー(連続離着陸訓練)を実施した。基地渉外室は訓練を行った時期について「関係機関と調整した結果」とのみ説明するが、訓練の狙いや背景に何があるのか。安全保障に詳しい沖縄国際大法学部の野添文彬教授(国際政治学)に聞いた。【聞き手・出来祥寿】
在日米軍と自衛隊は、仮に中国が台湾に侵攻する「台湾有事」になった場合、真っ先に在日米軍基地や自衛隊基地が攻撃されると想定している。米軍や自衛隊は自分たちが日常的に使っている基地が使えなくなることを懸念する。そのため民間施設を日ごろから使えるようにしておきたいというのが思惑だ。
特に米空軍は「機敏な戦力展開(ACE=アジャイル・コンバット・エンプロイメント)」のために、複数の空港に分散してそこから体勢を立て直し、反撃するという作戦計画を立てる。自衛隊による北九州空港での訓練は、まさにアメリカをまねた「自衛隊版のACE」と言える。
米軍も自衛隊も、仮に台湾有事が起こった場合、沖縄、南西諸島だけでなく、九州にも中国軍によるミサイル攻撃があるとみている。その前提で自衛隊は2023年11月の統合演習で大分空港(大分県国東市)なども使った。今回は北九州空港を訓練拠点に設定したということだろう。
自衛隊としては、訓練を既成事実化していく狙いがあると思う。その理由として三つの意図があると考えられる。一つは、日ごろの訓練で民間空港を使用することで、自衛隊パイロットの熟練度が上がり、より使いやすく有利な空港になる。二つ目は「民間の施設であってもこれからは自衛隊が使いますよ」ということを、地元の市民に慣れさせるという意味がある。三つ目は、中国に対してのメッセージで、自衛隊はミサイル攻撃に備えて民間空港も使えるんだということも示す意味合いがある。
こういう状況は今後、増えていくだろう。21年、米国の元インド太平洋軍司令官が「台湾有事の脅威が27年までに顕在化する可能性がある」と述べている。中国軍は近年、台湾周辺での軍事活動を強化しており、米軍や自衛隊が中国に対抗する必要性がどんどん高まっている。政府はそのために「特定利用空港・港湾」を指定している。自衛隊が民間空港で訓練をやる況はこれからも予想される。
特定利用空港・港湾
政府が防衛力強化の一環として、有事の際に自衛隊や海上保安庁の利用を想定して整備する空港、港湾。2024年4月に16カ所を指定した。同年8月に12カ所、25年4月の8カ所のに追加指定して全国の対象施設は11空港、25港湾の計36カ所となった。
空港は、戦闘機や輸送機の離着陸が可能となるよう滑走路延伸に加え、駐機場も整備。港湾は輸送艦や護衛艦などの大型艦の接岸に向けて海底の掘り下げなども行う。物流や観光への活用に加え、大規模災害時の輸送拠点となるため地元に恩恵がある一方、有事の際に攻撃目標とされるリスクもある。
【24年4月指定】
▽北海道=室蘭港、釧路港、留萌港、苫小牧港、石狩湾新港▽香川=高松港▽高知=高知港、須崎港、宿毛湾港▽福岡=北九州空港、博多港▽長崎=長崎空港、福江空港▽宮崎=宮崎空港▽沖縄=那覇空港、石垣港
【24年8月指定】
▽福井=敦賀港▽熊本=熊本空港、熊本港、八代港▽鹿児島=鹿児島空港、徳之島空港、川内港、鹿児島港、志布志港、西之表港、名瀬港、和泊港
【25年4月指定】
▽北海道=函館空港と函館港、白老港▽石川=金沢港▽和歌山=南紀白浜空港▽鳥取・島根=境港▽大分=大分空港▽沖縄=平良港