
2024年7月に千葉県長生村で、重度の知的障害がある次男(当時44歳)を介護していた父親が殺害した事件で、転居前に家族が住んでいた神奈川県小田原市が、父親の行為を二度にわたって身体的虐待と認定していたことが判明した。一方、関係機関は次男の支援をほぼ家庭任せにしており、家族が孤立に追い込まれた状況が浮き彫りになった。
次男は1998年から神奈川県立知的障害者施設「中井やまゆり園」を主に短期入所で利用し、2020年には長期入所の順番待ちをしていた。このため、県は24年8月に検証チームを設置し、今年6月30日に最終報告書を公表した。
記者会見した座長の佐藤彰一・国学院大名誉教授によると、父親は13年に次男の首を絞め、20年には頭をたたいて通報された。小田原市は障害者虐待防止法に基づき、それぞれの行為を身体的虐待と認定したという。
報告書によると、次男への虐待を疑わせる情報は事件前からたびたびあった。さらに父親は19年には「そろそろ無理だと思っている」「精神的に持たない」と訴え、20年には相談支援事業所との面談で「本人を殺して自分が懲役に服することで解決する」とも発言していた。だが中井やまゆり園やその近隣では入所施設に空きなどがなく、家族は24年5月に千葉県長生村へ転居。事件はその2カ月後に起きた。
障害者虐待防止法などは、虐待で障害者の生命や身体に重大な危険が生じている場合、市長村が保護できると定めている。佐藤座長は「(小田原市が)首を絞められる虐待を認定をしているのに自宅に戻しており、行政的なあり方がおかしい。仮に自宅に戻すのなら家庭への支援が必要だが、結局はできていなかった。重大な反省材料だ」と指摘した。
小田原市の担当者は「家族が大変な思いをしているとは思っていたが、命の危険があるとまでは認識してなかった」と説明した。
千葉地裁は今年3月、殺人罪に問われた父親に懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。判決理由では「殺害という選択は非難されるべき」と指摘された一方、「十分な福祉的支援を受けられず、被告だけを責めるのは酷だ」とされた。【蓬田正志】