
「南海トラフ地震臨時情報」が初めて発表された2024年8月の日向灘地震の発生前、震源に隣接するプレート境界で規則的に起きてきた「スロースリップ」の発生間隔がほぼ半減していたことを観測で確認したと、国土地理院のチームが26日付の米科学誌サイエンスに発表した。シミュレーションによる推計と合致しており、大地震の予測研究にとって重要な成果という。
国土地理院が世界初観測
日向灘では、フィリピン海プレートが陸のプレートの下に年4~6センチの速さで沈み込んでおり、20~30年ごとにマグニチュード(M)7級の地震を繰り返してきた。昨年8月の地震(M7・1)もその一つだ。
震源と隣接したプレート境界の深部(深さ約40キロ)には、スロースリップの発生域がある。国土地理院の観測網による過去約30年のデータによると、スロースリップは約2年ごとに約1年続く周期を繰り返してきた。ところが、昨年の地震前のスロースリップは23年11月から始まっており、前回の発生から約1年しか間隔が空いていなかったという。
コンピューターを使ったシミュレーションではこれまで、地震の直前に隣接エリアでスロースリップの発生間隔が急激に短くなることが報告されていたが、実際の現象が観測されたのは世界で初めてという。
スロースリップの発生間隔が短くなるのは、同じプレート境界にある、地震を起こす場所の固着が弱まっている影響と考えられ、この現象は地震のシグナルと捉えられる可能性があるという。
チームの小沢慎三郎・主任指導官は「地道な観測の成果。他の地域の事例も蓄積することで、スロースリップと大地震の関係の理解を深め、地震の危険度予測につながれば」と話した。【垂水友里香】
スロースリップ
通常の地震はプレートの沈み込みなどに伴って蓄積したひずみエネルギーを、断層が高速でずれ動くことで解放するが、スロースリップは断層がゆっくり滑って解放する。地殻変動の観測網が整備された1990年代半ばごろから観測され始めた。2011年の東日本大震災では、2日前の前震後に発生して本震の引き金になったことが知られている。