
大学などで働く任期付き研究者らの雇い止めが相次いでいる問題で、京都大iPS細胞研究所の山中伸弥教授が毎日新聞のインタビューに応じた。山中教授は「研究現場を支える人たちが職を転々としなければならないような状況では、研究の基盤が揺らぐ」と述べ、特に研究を支援する立場にある人の雇用環境の改善を訴えた。
2013年の改正労働契約法施行で、雇用期間が通算5年を超えると期間の定めのない無期雇用に転換できるようになった。大学などの研究者らは特例でその期間が10年に延ばされたが、きっかけとなったのが、山中教授の働きかけだった。
山中教授は法改正前の段階で、有期雇用の「5年ルール」が研究現場に及ぼす影響を懸念していたという。当時、iPS細胞研究所の職員の9割は有期雇用。実験機器や知的財産の管理など、研究を補助する研究支援者が多かった。
だが無期転換のための財源確保が難しく、職員の多くが5年で契約を終了する状況に追い込まれることを危惧した。政府関係者や国会議員に対応を要請し、研究職については有期雇用の期間を10年に延長する特例の創設につながった。
しかし現状では、勤続10年を前にした雇い止めを誘発する格好になっている。文部科学省によると、23年4月1日に勤続10年を超える直前に契約を終了した研究者らは1995人、24年度調査でも757人に上っている。
「対策を考える時間ができたことはありがたかった。しかし同時にそれが『先延ばし』だということは誰にでも分かった。10年後には、事態が悪化する可能性も強く意識した」と山中教授は振り返る。マラソンで寄付を呼びかけ資金を集め、iPS細胞研究財団を設立し、研究支援者約100人の無期雇用につなげた。
一方、国立大学にとって人件費の原資となる運営費交付金は、04年の国立大学法人化以降、削減されたままで、雇い止めを誘発する構造的な問題は解決していない。
山中教授は「最前線の研究をする一部の研究者は競争原理が働くべきだと思うが、それを支える大多数の人は、今よりも安定した雇用環境であるべきだ」と指摘。「研究者の給与や待遇が欧米に比べて低く、競争を強いる割には見返りが少ない。このままでは、若い人たちがますます日本での研究の道を選ばなくなるのでは」と危機感を募らせた。【中村好見】