
国民民主党が夏の参院選比例代表で、山尾志桜里・元衆院議員の公認を見送った。
「有権者から十分な理解と信頼が得られないと判断した」(玉木雄一郎代表)ためというが、一度は擁立を決めながらの見送りには疑問や批判の声も相次ぐ。
異例の事態をどう考えるべきか。政治アナリストの伊藤惇夫さん(76)に話を聞いた。【聞き手・金志尚】
政党としての資質問われる
――山尾氏は6月10日に開いた記者会見で過去の不倫疑惑を釈明しつつ、立候補を表明しました。公認見送りは、その翌日です。国民民主党の判断をどう見ますか。
◆極めて拙劣な対応だというのが第一印象です。山尾さんの過去の疑惑は別として、山尾さんの人格をものすごく傷つける結果になりましたよね。
――見送りを受け、山尾氏は「統治能力に深刻な疑問を抱いている」などと党執行部を批判するコメントを発表しました。コメントでは、4月23日に党から公認決定の連絡を受けたものの、「SNS等での批判の沈静化」などを理由に、発表が度々先送りされていたことにも触れています。
◆コメントの中には、(山尾氏が6月10日の会見に代表と幹事長の同席を希望しながら)「辞退会見であれば同席するとのお答え」だったと書かれていました。
事実だとすれば、党執行部からはトラブルから逃げようという姿勢がうかがえます。これは政党としての資質が問われる事態だと思います。
――いったんは擁立を決めながらの見送りです。
◆国民民主は昨秋の衆院選以降、非常に注目を集めてきました。したがって、問題を抱えた候補であっても、大きなマイナスにはならないと判断したのだろうと思います。
ただ実際に擁立を決めると、SNS(交流サイト)の反応は極めて厳しいものだった。それで慌てて公認降ろしに走ったと。そういう見方をされても仕方がないでしょう。
――党執行部は当初、山尾氏を経験豊富な「即戦力」として期待していたようです。
◆山尾さんの場合、(政策立案能力などを)評価する声は結構、永田町にあります。憲法問題を軸にしてね。
批判を受けたとしても、擁立を貫いたほうがよかったと私は思います。その覚悟がなければ公認すべきではないですよ、最初から。
批判があったから降ろします、というのは、あまりにも政党として無責任ですね。
感じられない「ポリシー」
――擁立を主導したのは玉木代表です。
◆僕がいつも言っていることがあります。政治家、あるいは政党のトップというのは、(自らが)正しいと思ったことは批判を受けてでも実現に向けて動く。批判に対して、正面からきちっと答えていくのが大事だということです。
これは与党か野党かに関係ないことです。日本という国全体を考えた時にどういう判断をすべきなのか。政党としてのポリシーなり、政治家としてのポリシーなりを示すことは、政党政治家の義務だと言っていい。
ですが、(玉木代表からは)それがあまり感じられない。山尾さんを巡る今回の件は典型的です。
――玉木代表はSNSを非常に重視していることで知られています。SNS上での発信力も背景に、昨秋の衆院選では議席を大幅に増やしました。
◆(国民民主の看板政策である)「手取りを増やす」も当初からメインの政策としてあったわけではなく、SNSで反応が良かったから、集中し(て訴え)たというようなことを、ご本人がおっしゃっています。
有権者、特に若者に対して、耳に心地よい発言がほとんどなんですね。若者減税とかね。(有権者にとって)耳の痛いことは、これまであまりおっしゃってこなかったなと。その印象が強い。
バズりは一過性
――そうした姿勢をどう考えますか。
◆もちろん、自分の政党の議席を増やしたいと思うのは当たり前のことです。しかしSNSの反応に応じて政策を組み立てたり、方向性を決めたりするようなやり方を続けていくと、いずれ限界が来ます。
SNSで「バズる」とよく言いますけど、バズりは一過性ですよね、だいたい。長期間続くケースはあまりないと思います。SNSの世界で皆さん、話題性の高いものに飛びつくけれども、時間がたつとそこからさっと去ってしまう。
繰り返しになりますが、国民に向けて耳の痛いことでも、正直に説明していく。国民民主が今後も支持を得ていくには、そういう政党に脱皮していくことが大事だと思います。
――まもなく参院選ですが、国民民主の結果をどう見通しますか。
◆なかなか厳しいだろうと思います。国民民主は要するに(昨秋の衆院選以降は)風に乗っていたわけですよね。その風がやんでしまっているわけですから、今の状況は。
そうなった時に自力で風を巻き起こせるか、巻き返せるかというと、組織力の問題も含め、現状ではなかなか難しいと私は見ています。
いとう・あつお
1948年生まれ。学習院大法学部卒。自民党本部職員を約20年務め、新進党、太陽党、民政党の事務局に在籍。98年に民主党事務局長に就任し、2001年に退職。
