
国宝「二王門」など多くの文化財が残る四国霊場第51番札所・石手寺(松山市石手2)は、2028年に創建1300年を迎えるのを前に、境内の整備や文化財の修復に必要な資金をクラウドファンディング(CF)で募っている。元IT企業社長という異色の経歴を持つ藤井俊良住職(40)は、遠方の人など、参拝しにくい人たちからも浄財を募る狙いだ。藤井住職は「節目の年に向け、訪れたみなさんが癒やされるお寺に再生していきたい」と話している。
CFのきっかけは、藤井住職が僧侶になる前の20年。境内でドローンを飛ばしていたところ、国の重要文化財「三重塔」の最上部に設置された相輪(そうりん)に大きな穴が空いているのを偶然発見した。
他にも傷んだ文化財もあり、義父の加藤俊生住職(当時)を中心に修復の準備にとりかかった。そんな中、21年7月に加藤住職が63歳で急逝した。新型コロナウイルス禍もあり、修復計画は先延ばしされた。
24年になってようやく国などの補助金が出ることが決まり、本格的な修復工事に着手できた。しかし、修復とその後の維持管理には多額の費用が必要だ。補助金分を除いた寺の負担分もあり、CFなどで寄付を募ることにした。
CFはショート寄進とロング寄進の2種類。28年2月まで、6期に分けて募るショート寄進は三重塔などの修復のほか、老朽建物、不要物品の整備や撤去、自然景観の再整備など、それぞれ具体的な活用方法を示した上で、1期ごとに200万円を目標にする。
ロング寄進は、不要な建物の解体や、バリアフリー化など境内全体の整備に活用し、28年2月までに300万円を目標としている。
返礼は寄付額に応じて、寄付者の名前などを記した寄進板の設置のほか、三重塔の瓦のかけらを納めたオリジナルお守り、オリジナルTシャツなど、さまざまなメニューを準備している。CFはインターネットのサイト「うぶごえ」で受け付ける。
義父の思いを引き継ぎCF
24年8月に就任した藤井住職は兵庫県加東市出身。大学卒業後に会社員を経てウェブマーケティング会社を立ち上げ、東京や大阪で10年間経営してきた。
20人ほどの社員を抱える会社に育て上げたが、義父の死をきっかけに僧侶になることを決意。事業を手放して21年秋に得度し、僧侶としての修行を経て石手寺を継いだ。
同寺を訪れた人や地元の人たちに慕われていた加藤前住職。東日本大震災の避難者支援活動などでも知られ、メディアにも度々登場していた。今回のCFにはそんな加藤前住職の「文化財を守りたい」という強い願いも込められている。
「前職のノウハウも活用しながらお寺を盛り上げていきたい」と話す藤井住職は「縁あってお寺を継がせてもらうことになった私がまずやるべきことは貴重な文化財を守り、境内を整備すること。義父の思いを引き継ぎ、大切にしていきたい」と意気込んでいる。【目野創】