
約600年の伝統を持つ愛媛県の無形民俗文化財「お供馬(ともうま)の走り込み」の里、今治市菊間町の池原小ケ丸(こがまる)広場で10日、「お供馬ホースセラピー乗馬体験」が開かれた。引退した競走馬が高齢で走れなくなっても、お供馬に続く「第3のキャリア」としてセラピー馬となることで多くの人と触れ合いを深めてもらおうと、市が初めて主催した。
走り込みは京都・葵祭の「賀茂競馬(くらべうま)が起源。毎年10月、地域の少年が馬に乗り、同市菊間町・加茂神社の参道約300メートルを一気に駆け上がる。近年は農耕馬が姿を消したため、この20年あまりは中央競馬、高知競馬などで活躍した元競走馬のサラブレッドを地元有志が飼育してきた。
平均寿命が25歳前後とされるサラブレッド。晩年で走れなくなっても、静かに人を乗せて心を休めてもらうことは続けられる。そんな思いから、地元のNPO法人「菊馬会(きくまかい)」が2020年に発足。ふるさと納税制度を組み入れた今治市の寄付型クラウドファンディング(CF)など2種類のCFを活用して集めた330万円以上の資金で、移動式の牧柵などをそろえた。会は触れ合い乗馬、中学生への総合的学習などに乗馬を活用している。「古くから馬は人とともにいる。一緒にいることで、みんなが元気になれる場ができる」と、親子5代で馬を飼育する代表理事の岡本誠篤(せいとく)さん(51)。
「乗るだけでなく、馬を見るだけでもホースセラピー。日常生活の質を高めることになる」と、会の協力で市は今回の体験会を開くことにした。サラブレッドに乗り、ゆっくりと歩いた松山市立素鵞(そが)小2年、市原穂佳(ほのが)さん(8)は「『ありがとうございました』と声をかけたら、ぺこりとおじぎしてくれました。馬は思った以上にかしこいんだな、って分かりました」と話し、周りにも笑顔を広げていた。
今治市は11月1日にも同所で乗馬体験を開く。乗馬1回500円。障がいがある人は無料。問い合わせは市障がい福祉課(0898・36・1527)。【松倉展人】