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米価格の急騰 需要の上振れ予想できなかった「農政の構造的な問題」


日本で続くコメの小売価格の高騰に対する政府の対応が議論されている。政府は備蓄米の放出や食品等流通法の改正を進め、適正な価格形成を目指しているが、消費者の反応は複雑である。消費者の苦情に対して、コメの消費自体は減少していないが、高騰した価格に対する許容度は低い。生産コストの平均は1俵あたり1万6000円で、JAが農家に支払う価格は2万3000円に達することもある。こうした価格の高騰が流通の目詰まりや需給管理の構造的問題に起因しているとの見解がある。農水省はコメの輸出量を増やす目標を掲げたが、その積算の根拠には疑問が残る。長期的には生産コストの削減や価格安定が求められており、政府には消費者の声を集約する役割が期待されている。

  依然、高騰が続くコメの小売価格。政府は備蓄米の放出を実施する一方で、食料品にかかるコストの価格転嫁を促すため食品等流通法の改正案を閣議決定した。「適正な価格形成」を盛り込んだ食料・農業・農村基本法の改正を受けた動きだが、消費者の受け止め方は複雑だ。多くのメディアで発信を続ける西川邦夫・茨城大学術研究院応用生物学野教授(農業経済学)に聞く。【聞き手・三枝泰一】

  ◇シリーズ「令和のコメ騒動」6

 ――消費者米価の高騰が、今の論点です。

 ◆インフレに影響する可能性に日銀総裁が言及しました。今季の賃上げを目減りさせる試算も出るなど、家計への打撃が指摘されています。スーパー店頭でのテレビインタビューでは「高くて困る」という声が上がっています。その通りだと思いますが、総務省の家計調査をはじめ各種データでは、コメ消費自体の減少を示す動向は見られません。消費は底堅い、という印象です。

 ――商品の価格が変化した際にその商品の需要がどれだけ変動するかを示す「価格弾力性」が、日本のコメの場合は小さいという指摘があります。とはいえ、高騰した今の価格を消費者に受け入れてもらうことは難しい。

 ◆コメの生産コストの平均はおおむね1俵(60キロ)1万6000円程度です。JAが農家に支払う価格は2万3000円に達するケースもありました。これはかなり高い水準です。

 ――農林水産省の3月24日の発表によると、全国のスーパーでの5キロ入り平均販売価格は4172円で、前年同時期の2倍を超えています。「コメ騒動」前の2022年産米について農水省が算出した5キロ当たりの総コストの全国平均は約2000円でした。

 ◆24年産米に当てはめて、地代や賃金単価を調整しても上乗せは数百円ほどで、今の販売価格は高すぎます。

 ――国内最大の産地である新潟で、JA全農にいがた(新潟市)がいち早く提示した25年産コシヒカリの買い取り価格は24年産をさらに約3割引き上げました。新潟の価格は全国の参考になるので、高値は今年も続くとみられます。

 ◆長期的な視点が必要です。考えるべきは、この「2万3000円」の使い道です。米価低迷でかなわなかった生産機材の更新など、生産者の投資意欲に結びつけば、生産コストの削減や単位収量の拡大につながる可能性が広がり、価格安定が期待できます。食糧管理制度下だった1994年のコメの政府買い入れ価格は1万6392円、自主流通米価格は2万1367円でした。この30年で稲作の生産コストは2~3割下がりましたが、米価はそれ以上に下がった形で、生産者の立場で考えれば「報われなかった」ことになります。

 ――今回の事態の要因は、民間在庫の抱え込みによる流通の目詰まりにあるのか、あるいは需給管理を非常にタイトにしている今の農政の構造的問題の表出と見るのか。主張は大きく二つに分かれます。

 ◆このくくりで言えば、私の考えは後者に入ります。24年6月末の民間在庫は前年より44万トンも少なく、12年以降最少でした。ざっくり言って、半分はインバウンドなど需要の上振れ、半分は生産抑制のし過ぎによる供給の下振れに起因します。予期せぬ事態が起きると、均衡はたちまち崩れます。結果として、「投機」とみられる動きや流通の「スタック」が起きた。

 ――農水省は30年のコメ輸出量を24年実績の約8倍の35万トンに増やす目標を新たに打ち出しました。主食米以外に転用されている水田を戻す。生産抑制の転換ともいえ、国内供給が不足した場合は振り向ける考えのようです。

 ◆方向性はポジティブですが、「35万トン」という野心的な数字の積算の根拠については検証が必要でしょう。1俵当たりの生産コストを9500円としているようですが、かなり高い実感です。国際競争を考えれば、恐らく削減が必要になるのではないでしょうか。

 ――最初のテーマに戻りますが、今回の米価の高騰は生産者と消費者の関係性に悪影響を及ぼしかねません。

 ◆生産者には、これまでの米価にはコストへの償いがなかったという思いがありますが、JAなどを通じ、その声を集約するチャンネルがあります。一方で消費者には、その声を代弁する組織がありません。消費者の声を受け止め、相互理解につなぐ場が必要です。政府の役割でしょう。

にしかわ・くにお

 1982年、島根県生まれ。2010年、東京大大学院農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻博士後期課程修了。博士(農学)。日本学術振興会特別研究員などを経て、14年、茨城大准教授。25年4月から現職。

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