
羽生善治・日本将棋連盟会長(54)が1期での退任を表明した。2023年に就任した当初は、当分の間、会長職を務めるとの見方が大勢だっただけに、突然の退任劇は盤上の「羽生マジック」を思わせる誰もが予想しない「一手」だ。
これまで会長職は、木村義雄十四世名人、大山康晴十五世名人、米長邦雄永世棋聖といった、棋士として優れた実績を残した人が多く務めてきた。12年に谷川浩司十七世名人(62)が就任した時は、その後は羽生九段、そして渡辺明九段(40)へと、各世代のエースにバトンが引き継がれていく青写真を描く棋士が多かった。
しかし、棋士のソフト使用疑惑を巡る混乱の責任を取って、17年2月に谷川十七世名人が僅か5年弱で退任。三つのタイトルを持っていた羽生九段を後任に据えることができず、急きょ佐藤康光九段(55)が就任した。佐藤九段は、羽生九段が就任するまでの中継ぎ登板という色彩が濃く、羽生九段が23年6月に会長に就任したことで当初の路線に戻ったはずだった。
「この形ならこう指す」という盤上の常識を常に疑うことで、誰もが考えつかない一手を編み出してきた羽生九段。今回の退任も、既定路線にこだわらない特徴が出たとも言える。将棋連盟の顔としての会長の役目は終えても、将棋の研究に打ち込む時間が増えることで名人戦順位戦でのA級復帰やタイトル挑戦、通算タイトル獲得数100期の達成などの期待が膨らみ、意表の一手には違いないが、歓迎する将棋ファンは少なくないだろう。【丸山進】