
東京電力福島第1原発が立地する福島県双葉町と大熊町で、住民に親しまれてきた桜の木が相次いで伐採された。各町の中心部で原発事故に伴う避難指示が2022年に解除された後、復興事業の施設整備が進められるプロセスの中で切り出された。伐採を知らされてこなかった住民たちが惜しんでいる。
双葉町が14日に伐採したのは、解体された町体育館の前にあった背の高い5、6本のソメイヨシノ。国道6号から西側に曲がってJR双葉駅に向かう道路沿いにあり、町中心部の玄関口のような場所だった。体育館跡地では、飲食店3店舗が入る公設民営の商業施設の新築工事が始まる。
町復興推進課の担当者は「保存も検討したが、桜が『てんぐ巣病』(カビが原因で発生する伝染病)にかかっており、倒木リスクもあるため伐採した。商業施設には新たな桜を1本植える予定」と説明した。
桜は「町の花」。町は避難指示解除前から町内に立ち入って撮影した桜の写真をコミュニティー紙で特集し、体育館前の桜も人気だった。町出身でいわき市に住む女性(43)は「あの桜を見るたびに『双葉に帰ってきたな』と実感していた。町に新しい人が住み新しい建物ができることは前向きな変化だと受け止めていたが、周知なく桜が切られたことはショック。ささやかでも、お別れ会のようなセレモニーをしてほしかった」と残念がった。
一方、大熊町が伐採したのは、JR大野駅前の1本の河津桜。JR東日本が管理し、ホームからよく見える場所にあった。戦後まもなく地元の旧国鉄関係者が植えたとされ、長らく町民の旅立ちを見届けてきた。
町は駅周辺の再開発の一環で、東口にロータリーや駐車場を整備している。昨年11月、桜が工事の支障になると判明し、JR東と協議して伐採した。町復興事業課の担当者は「JRとの協議でも、町民に親しまれてきたという話は出てこなかった」と説明する。
町内の古跡巡りなどを企画する住民団体「おおくまふるさと塾」塾長の渡部正勝さん(76)は「駅前に震災前の暮らしの目印が何もなくなった。木は造り直せないのだから、切る前に庁内でよく相談してほしかった。みんな仕事に追われているのかな……」と嘆息する。
「町文化財保存活用地域計画」を策定中の町生涯学習課の担当者は「庁内で河津桜の価値が共有できていなかった」と認める。ふるさと塾とも連携し、「今後は指定文化財だけでなく、自然物や古跡など未指定の文化財も一覧や地図を作り、庁内で共有したり、事業者に配布したりしたい」としている。【尾崎修二】