
「日本一の過密空港」とされる福岡空港(福岡市博多区)で、20日に第2滑走路の供用が始まる。滑走路の混雑解消が目的だが、インバウンド(訪日客)の急増で福岡空港の旅客数は当初の予測を既に超えた状態にある。滑走路の増設で過密は解消し、「アジアの玄関口」としての存在感を高めることができるのか。
◇旅客数全国4位
「福岡空港は処理能力の向上が喫緊の課題だった。増設滑走路の供用で、東アジアからのゲートウエーとして更に重要な役割を果たし、観光の促進や地域経済への波及効果を発揮することを期待します」
滑走路の増設事業を進めてきた国土交通省などが2日に福岡市内で開いた供用式。地元政財界の重鎮やトップら約350人が集う中、中野洋昌国交相はあいさつで空港の更なる発展に期待を寄せた。
福岡空港では2023年度、旅客数が過去最多の約2494万人に上り、羽田、成田、関西国際の各空港に次いで全国4位。発着回数(ヘリコプターを含まず)は年17・9万回で、滑走路1本当たりの発着回数としては国内で最も多く、「日本一過密」とされる。
混雑解消は長年の課題で、国と福岡県、福岡市は03年度から対応策の調査を開始した。玄界灘海上での新空港建設案を含む複数案が検討され、JR博多駅から地下鉄で5分という現空港の立地の良さを生かし、事業費も低く済む滑走路増設案が採用された。
国際線の離陸に使用
16年に着工し、総事業費は1643億円。現在の滑走路(長さ約2800メートル)の西側(国際線ターミナル側)に平行して、長さ約2500メートルの2本目の滑走路を造った。視認性を確保するための高さ90・9メートル(上部レーダードームを除く)の新管制塔も整備し、24年12月に運用を始めている。
第2滑走路は原則、国際線の離陸に使う。ただ、2本の滑走路の間隔は210メートルと狭く、同時に離着陸することはできない。広い間隔を取るには大規模な用地の拡大が必要になるため、この間隔になった。このため、滑走路を安定的に運用できる発着回数(処理能力)は、現在の年17・6万回(1時間当たり38回)から年18・8万回(同40回)へと約6・8%増えるにとどまる。
インバウンド急増
一方、福岡空港の需要は既に当初の予測を上回っている。15年の環境影響評価(アセスメント)では、25年度の旅客数を2009万~2195万人と予測したが、既に23年度で約2494万人に達している。背景にあるのは予測を上回るインバウンドの急増で、25年度の国際線旅客数の予測は年500万人前後だったが、23年度は約707万人になった。新型コロナウイルス禍から急回復し、中国線を中心に新規就航も相次ぐ。
日本航空協会の下で増便の調整に当たる国際線発着調整事務局(東京)によると、福岡空港では第2滑走路の供用後に始まる夏ダイヤに向けた各航空会社の利用希望が発着枠を大きく上回り、1日当たり100便超過するケースもあった。中国や韓国など国際線での増便希望が目立つという。
有識者委員会の委員として福岡空港の運営方式を巡る議論に加わったこともある慶応大の加藤一誠教授(交通政策)は「これほどのインバウンドの増加は誰も予想していなかったのではないか」とし、増加する需要に北九州空港(北九州市など)や佐賀空港(佐賀市)と連携して対応する必要性を指摘する。
航空評論家で元日本航空機長の小林宏之さんは「国際線の航空機は着陸後、第2滑走路を横断して国際線のターミナルに向かう必要があり、誤進入のリスクが生じる。リスク低減の対策を進めながら、限られた条件の中で柔軟に運用して便数を少しでも増やすしかない」と話す。【平川昌範、長岡健太郎】
発着枠「さらに拡大を」
第2滑走路の供用後も微増にとどまる福岡空港の発着回数について、地元経済界の一部には「さらに拡大を」との声もある。国土交通省は、航空機の進入方式を今後変更すれば供用前の処理能力から約20%増となる年21・1万回まで拡大できるとする。ただ、新たに上空を通過することになる自治体の理解が必要で、拡大は「今後の需要動向などを踏まえ、地元の理解を得たうえで検討する」と慎重な姿勢だ。↵ 背景には市街地に位置する福岡空港の特性がある。周辺の騒音対策は避けて通れない問題で、福岡市は滑走路増設に伴う発着回数増の影響を調べるため、2024年度以降、周辺地域での航空機騒音測定を「年1回、5カ所程度」から「年2回、25カ所程度」に拡充した。↵ 市は国際会議など「MICE(マイス)」誘致を進めており、滑走路の増設で「大規模MICEの開催地として福岡の優位性を高められる」と期待を寄せる。ただ、更なる発着回数の拡大については「まずは増設後も安全で安定的な運航を求め、航空需要の動向を見ながら必要に応じて県などと協議したい」とする。↵ 一方、福岡県は24年11月に国に提出した「提言・要望書」で「早期の処理能力の拡大に向けた進入方式の高度化の検討が必要」とし、周辺地域の理解を得るために「国を中心とした取り組み」を求めた。県の空港政策課は「増加するインバウンドを取り込むために、第2滑走路を最大限に活用したい」と発着回数の拡大に前向きだ。↵ 福岡空港を運営する福岡国際空港(FIAC)の田川真司社長は「安全の確保と地元の理解が大前提」としたうえで、「需要は非常に多く、発着枠を更に拡大していかないと応えられない。国や県、福岡市、経済団体と協議を重ねて早期に拡大を実現したい」と語る。【竹林静、長岡健太郎、下原知広】