
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の90歳の誕生日が今年7月に迫り、その後継者選びに注目が集まっている。中国政府の抑圧に反発するチベット民衆が蜂起してから今月で66年となるのを前に、亡命チベット人がこの問題をどのように受け止めているのか聞いた。
「私たちは今、話し合わざるを得ない状況にある。準備しなければならない」。インド北部ダラムサラ在住で、亡命チベット人社会に影響力を持つ文筆家のテンジン・ツンドゥ氏(50)に後継者問題について尋ねると、そんな答えが返ってきた。
亡命チベット人は通常、ダライ・ラマ14世の死去を議論することは不吉だと捉えている。しかし現在は、亡命政府や市民団体の間で、今後の体制や独立運動についての話し合いが行われているという。
チベット仏教では伝統的に、ダライ・ラマの死後に生まれ変わりを探す「輪廻(りんね)転生制度」が続いてきた。しかし、中国政府の関与が懸念されるため、ダライ・ラマ14世が存命中に自ら後継者を指名する可能性も取りざたされている。
ダライ・ラマ14世自身は2011年の声明で、90歳くらいになった時に高僧や一般のチベット人らと相談し、制度を継続するか決めるとしていた。
今月11日に発表された新著「ボイス・フォー・ザ・ボイスレス」の中でダライ・ラマ14世は、後継者となる新しいダライ・ラマは「(中国以外の)自由世界で生まれるだろう」との見方を示した。また多くのチベット人が制度の継承を望んでいると記した。
ツンドゥ氏は「中国はチベットの人々とダライ・ラマ法王の精神的な結びつきを何も理解していない」と訴えた。その上で「中国が関心を持っているのは、ダライ・ラマの権力だけだ。(中国政府が)少年を擁立してダライ・ラマ15世だと称しても驚かないが、それは何の正統性も持たないだろう」とけん制した。
1959年3月10日の民族蜂起では、ダライ・ラマ14世が中国人民解放軍に連行されると疑った市民数万人が解放軍と衝突した。ダライ・ラマ14世はその後、チベットを逃れてダラムサラへ亡命した。
民族蜂起から66年を記念し、インドや米国で抗議活動を実施した亡命チベット人の団体「チベット青年会議」のゴンポ・ドゥンドゥプ代表(30)は、後継者選びについて「どんなものであっても、チベット人はダライ・ラマ法王が下した決定を受け入れる」とした。【ニューデリー川上珠実】