
東京電力福島第1原発事故からまもなく14年。最難関とされる溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の回収に初めて成功し、工程は転換点を迎えた。しかし、1~3号機で約880トンあるとされる燃料デブリの全量回収にはほど遠く、廃炉完了への道筋は描けていない。
作業阻む高線量
1月中旬、福島第1原発の構内に記者が入った。処理水をためるタンク群が、至るところで目に入った。一部のタンクは2023年に始まった処理水の海洋放出で空になり、2月の初解体を控えていた。空いた敷地には燃料デブリの取り出し関連施設が建設される。タンクが林立する構内の景色は、徐々に変わろうとしていた。
燃料デブリを回収する最大の障壁が、高い放射線量だ。2号機で24年に初めて実施した試験取り出しの作業も、高線量に阻まれた。着手する直前、釣りざお式の取り出し装置を押し込むパイプの接続ミスが発覚した。作業現場は原子炉建屋内で、毎時数ミリシーベルトある。被ばくを防ぐ重装備をした上で数十分間で作業を終えなければならず、パイプの接続順を十分に確認できなかった。燃料デブリをつかむ直前にも、高線量の影響で装置先端のカメラが映らなくなり、カメラの交換を余儀なくされた。
2号機では20年代後半から段階的に取り出し規模を拡大する。それには開発中のロボットアームが不可欠だ。釣りざお式装置に比べ、アームは遠隔で操作でき、作業員の被ばくを防げる。原子炉内を自在に動かせ、線量計なども搭載できるため、燃料デブリの状況が詳しく調べられる。東電は25年度後半の使用を目指すが、アームのケーブルが劣化で断線するなどの問題が発覚。開発から6年以上たっても調整が続く。
大規模取り出し2工法
次に燃料デブリを回収するのは3号機だ。30年代初頭に初めて大規模取り出しをする。燃料プール内の使用済み核燃料の取り出しが完了しており、作業環境が整えやすいと判断された。
取り出しには、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の小委員会の提案に沿い、二つの工法を組み合わせる案を検討している。水をかけ流しながら空気中で取り出す「気中工法」と、燃料デブリを充塡(じゅうてん)材で固めて取る「充塡固化工法」で、建屋の上部か横に穴を開けて取り出す。
ほかの工法に比べて工事規模が小さいなどの利点はあるが、建屋に水を張って放射線を遮蔽(しゃへい)できない。放射性物質の飛散や、充塡材の汚染による廃棄物の増加が課題となる。原子炉のふたも大量の放射性物質で汚染されており、遠隔による難工事が予想される。
取り出しに向けた格納容器の内部調査は2回しか行っておらず、1~3号機で最も少ない。格納容器内の水位が最も高く、建屋内には水素爆発によるがれきが散乱し、調査の障壁になっている。17年の水中ロボットによる調査では、燃料デブリとみられる堆積(たいせき)物がつらら状や塊状で部分的に見つかったが、全体像は見渡せていない。24年末には、原子炉を支える土台(ペデスタル)へ通じる穴の周辺の調査が終わり、ペデスタル内の調査や回収に利用できるかを検討している。
分布や性状いまだ不明
燃料デブリの回収時期が最も見通せないのは1号機だ。ペデスタルへ通じる穴付近の線量は毎時630ミリシーベルト(17年公表)で、2、3号機に比べて2桁も高い。まず燃料プール内にある使用済み核燃料の取り出しを27~28年度に始め、完了した後に燃料デブリを回収する。3号機の大規模取り出しの後になる見通しだ。
24年までのドローンや水中ロボットによる調査で、ペデスタルの広範囲に燃料デブリとみられる堆積物が確認された。さらに、ペデスタルの壁が約1メートルの高さまでほぼ全周で消失していることもわかった。燃料デブリの熱でコンクリートが溶けた可能性があり、中の鉄筋までむき出しになっていた。
1~3号機とも燃料デブリの分布や量、性状はわかっておらず、とくに圧力容器内の調査はほぼ手つかずだ。東電は25年以降、ドローンなどを使ってさらに詳しく調べる方針を示しているが、具体的な時期は定めていない。
政府と東電の工程表では、燃料デブリの試験取り出しを受けて最終盤の第3期に入った。最長40年とする廃炉完了まで、燃料デブリの回収のほか、保管や処分の問題も待ち構える。燃料デブリにどう対峙(たいじ)するか、いまだ見通せないままだ。