
廃校舎の利活用から地域の未来を考える催しが、愛媛県西予市で開かれた。文部科学省によると、1992~2017年度に全国で9700あまりの小中高校が廃校となった。少子化の影響が深刻となる一方、廃校跡を地域の「宝」として活用する動きも各地で進んでいる。大切な視点は何か。
愛媛県南予地域を活動拠点とする愛媛大学地域協働センター南予(西予市)が14日に開催し、自治体関係者ら約130人が参加した。高齢化率49・5%で過疎が進む千葉県・房総半島にある鋸南(きょなん)町(人口約6700人)の新名所となった「都市交流施設・道の駅保田(ほた)小学校」の開設に携わった豊島まゆみさん(62)が基調講演した。豊島さんは大学院修士課程で物理学専攻後、三井化学、ボストンコンサルティングなどに勤務。2007年に自身の事務所を開いて新規事業、組織活性化などの実行支援型コンサルティングを始めた。12~17年に鋸南町臨時職員となり、道の駅保田小学校の開設と運営などの事業を担当した。17年から3年間、大学院博士課程で学び、廃校活用による地域活性化などについて論文をまとめ、経営学博士に。現在は町内でクラフトビール、ソーセージなどの製造に携わっている。
「多くの廃校は地域の優良地にあり、最良の資産だが、放っておくと廃虚になってしまう」。豊島さんは全国共通の課題を指摘した。鋸南町の旧保田小の場合、廃校から1年9カ月後の15年に道の駅開業にこぎつけた。現在は町が所有する都市交流施設として指定管理者が運営する。直売所、飲食、簡易宿泊施設として活用し、売り上げは年約6億円。約60人の雇用を生んでいる。
「子どもの声を残したい」という住民の声に応えた子ども広場をつくり、災害時には480人を収容する避難エリアも整備。廃校を活用するまでの過程について、豊島さんは「いかに早く、具体的な方向性を地域で決めるかが鍵」と語った。いつも日差しに恵まれ美しい夕日が見られることなど「地元の人には当たり前だが、地域の価値を再発見して『周回遅れのトップランナー』を目指した」と取り組みを振り返った。
次いで、実際に廃校を活用した南予地域の事例が紹介された。閉校となった伊方町の旧町見(まちみ)中学校舎は1999年から2023年にかけて「町見郷土館」として民俗資料などを展示。歴史や動植物などの調査研究から地元を知るミュージアムサポーター「佐田岬みつけ隊」の活動拠点となり、23年開館の「佐田岬半島ミュージアム」に引き継がれた。17年に廃校となった宇和島市立九島(くしま)小学校舎は国の「地方創生推進交付金」を受けてリノベーションを実施。ボランティアによる高齢者の見守り配食活動などの拠点にもなっている。取り組みに携わった代表者らは「人と人のつながりが事業を引っ張る」「外部の視点、都市の知恵を活用することもこれからの課題」などと提言した。【松倉展人】