
奈良県大和高田市が2031年度ごろに、法律に基づく「財政再生団体」に転落する恐れがあると試算していることが分かった。自治体の「倒産」とされる財政再生団体になれば、国の管理下で財政再建できるまで公共事業も厳しく制限され、市民にも大きな影響が出る。市は今後全庁的な経費削減で転落回避を目指すが、「現在計画している大型事業の見直しや大幅な人員削減は避けられない」(奥亮太副市長)という。
市が昨年12月に市議会で説明した今後10年間の財政見通しで、財政状態が今後急速に悪化するとの試算が示された。実質収支は28年度から赤字に転落し、31年度には40億9300万円の赤字となる見込み。赤字幅はその後も拡大し、昨年9月に公表した最初の財政見通しで3億円の黒字を見込んでいた33年度は、68億円の赤字に転落する見通しという。
財政再生団体と認定される基準は、特定用途の補助金などを除いた実質的な収入に対する赤字の割合である「実質赤字比率」が2割を超えることとされている。同市の実質収入は約150億円で今後も大きく変化しない見通しのため、31年度ごろに財政再生団体に転落する危険性が高い。
33年度に3億円の黒字から68億円の赤字へ悪化する理由の内訳は、人件費増加(13億円)▽物価高騰(14億円)▽金利上昇(10億円)――など。同市の田中義久総務部長は「最大の要因は人件費。会計年度任用職員(自治体の非正規職員)の給与を引き上げるよう命じた人事院勧告の影響を見誤った。同規模自治体より会計年度職員が多く、見込みが甘かった」と説明する。市の会計年度任用職員は市長部局と教育委員会のみでも636人で、正規職員605人を上回る。
市は25年度以降の10年間で人員削減を柱に総額82・5億円の経費削減を目指すが、全額達成できても現状の見通しでは財政再生団体への転落は避けられない。82・5億円のうち19億円分についてはどう減らすかも詳細が決まっておらず、23億円は既に達成できないと見込んでいる。
市は市立病院移転などの大型事業を進めており、昨年9月には病院移転への反対派が多数を占める市議会に「今後も累積での財政状態を示す実質収支で黒字が続く」とする財政見通しを公表したが、わずか3カ月で大幅な下方修正を迫られた。病院移転を計画通り実施した場合、ピークの36年度には赤字額が136億円にまで膨らむことになる。
奥副市長は「当初聞いた時は信じられない思いだった。ただ、数字は年度によるばらつきが大きく、これから財政再建に全力を挙げるため、財政再生団体に必ず転落するわけではない。落ち着いて受け止める必要がある」と話している。
この問題を巡っては、財政課が21年段階で将来的に大幅な赤字となる可能性を警告していたが、特に対策はとらなかったという。「当時は現実的でないと判断した」(田中部長)ためと説明している。
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自治体財政健全化法に基づく「財政再生団体」には、これまで北海道夕張市(当時は財政再建団体)が全国で唯一指定された。07年の指定後、人件費を減らすために市職員や議員を激減させた一方、水道料金や税額を上げざるを得なくなったことなどで人口も激減。公園や公共施設が相次いで閉鎖され、市立小中学校も指定前の11校から各1校ずつになるなど大きな影響が出ている。
ただ、実際には財政再生団体まで悪化する手前で「財政健全化団体」として国や県に健全化計画の提出が求められ、国や県も対応を勧告できるため、試算通りに悪化する可能性は低いという。【稲生陽】