
有本明弘さんが96歳で亡くなり、政府が認定した未帰国の拉致被害者12人のうち、親で存命なのは横田めぐみさん(行方不明時13歳)の母早紀江さん(89)だけとなった。拉致問題が進展しない中、被害者家族らは集会などで「親世代が健在なうちに被害者と会えなければ、拉致問題は解決とは言えない」と訴え、危機感を募らせてきた。
拉致問題は1997年に北朝鮮の関与が表面化し、拉致被害者家族連絡会(家族会)が結成された。当時から既に還暦を超えた家族も多かったが、署名活動や講演会などの地道な活動を続け、解決に向けて世論を喚起してきた。
2002年には日朝首脳会談で北朝鮮が拉致を認め、5人が帰国したものの、その後は目立った進展がないまま22年が経過した。
その間に被害者家族の訃報は続き、20年2月には有本さんの妻嘉代子さん(当時94歳)、同年6月にはめぐみさんの父の横田滋さん(同87歳)、21年12月には田口八重子さん(行方不明時22歳)の兄の飯塚繁雄さん(当時83歳)が相次いで死去した。拉致被害者自身の高齢化も進んでおり、全員が還暦を迎えている。
家族会と支援団体「救う会」は16日、東京都内で開いた合同会議で新たな運動方針を取りまとめた。政府に対し、被害者の親世代の家族が存命なうちに全拉致被害者の即時一括帰国を改めて要望。実現しなかった場合は、「私たちは強い怒りをもって独自制裁の強化を求める」と強調した。
めぐみさんの弟で家族会代表の拓也さん(56)は会議後の記者会見で「私たちは親世代が健在なうちにというタイムリミットを設けている」と言及。「母早紀江は(16日の会議に)出席したが、決して普通に参加しているわけではない。本当に無理をして、体をおして参加をしている。言葉以上にもっと重い現実なんだということをぜひ多くの方に知ってほしい」と訴えた。
早紀江さんも会見で「本当に何も動かない状況が続いて今日まで来ている」と憤りを見せていた。【木下翔太郎】