
和歌山県田辺市の認可外保育施設で生後5カ月だった柴尾心都(こと)ちゃんが急死した事故から1年半。県の検証委員会が14日に公表した調査報告書から、ずさんな保育の常態化や危機感が欠如した市の対応が明らかになった。
「こんなことが分かっていたら預けなかった」
毎日新聞の取材に応じた心都ちゃんの母親(29)は、報告書で初めて知らされた託児所や自治体の姿勢に悔しさをにじませた。
事故が起きた2023年7月25日は、4人きょうだいの末っ子の心都ちゃんを施設に預けなければならない家庭の事情があった。
「川遊びに行きたい」。母親は3人のお兄ちゃんたちとの夏休みの約束を守ろうと、自宅から車で自身の姉が住む田辺市に向かった。当日は夫は仕事で、自分で子どもたちの面倒を見る必要があった。
「川にことちゃんまで連れて行くと危ない」。そう考えてインターネットで見つけたのが、「託児所めぐみ」だった。
昼過ぎ、スマートフォンの画面に絶望した。「ことちゃん、意識なく病院に行きます」。託児所から届いた無料通信アプリ「LINE(ライン)」の内容をのみ込めないまま病院に向かったが、最愛の娘は間もなく息を引き取った。
真相が分からず、託児所に預けた自分を責めた1年半だった。
公表された報告書に母親はやりきれない思いを抱く。託児所は「1人保育」が常態化し、子どもたちを安心して預けられる状況とはほど遠い環境だった。「保育を頼む上で親が一番望むのは、子どもの安全。同じような状態の施設は、絶対に運営しないでほしい」と訴える。
報告書は田辺市が託児所に改善を促す対策が不十分だったと指摘した。母親は「行政が託児所にちゃんと指導していたら、私がネットでこの託児所に行き当たることもなかった」と嘆いた。
今月22日に2歳の誕生日を迎えるはずだった心都ちゃん。真相が明らかになっても、母親の悲しみが癒えることはない。
報告書が同じ事故を二度と起こさない警鐘になるように祈る母親は、屈託のない笑顔を浮かべる娘の遺影に語りかけた。「ことちゃんが救う命がきっとあるよ」【芝村侑美】