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1月下旬、モスクワ中心部のスーパーマーケットで、年配の女性が手にした200グラムのバターを棚に戻した。いつも同じ国産品を買っているが、今回は控えたという。
「あのバターは、前は1個140ルーブル(約220円)だったのに、今日は店の会員価格でも319ルーブルです。どこまで高くなるのでしょう」。女性は昨年10月までの半年間、国外在住の子どもの元に身を寄せていたため、帰国後に食品価格の上昇に驚いたと話した。
物価はどこまで高くなるのか
ロシアでは、プーチン政権が2022年2月に始めたウクライナでの「特別軍事作戦」を背景に、軍需が経済をけん引する一方で、深刻な物価上昇(インフレ)や人手不足が続く。
インタファクス通信がまとめた連邦統計局のデータによると、24年は年間で食品価格が11・05%上昇し、特にバターは36・23%も値上がりした。食品以外でもガソリンが11・13%、医薬品が10・61%など軒並み上昇した。
プーチン大統領は昨年12月の大規模記者会見で「露経済は正常だ。外部からの脅威にもかかわらず発展し、全体的に状況は安定している」と主張した。だが、インフレ減速の気配は見えない。
スーパーのパン売り場で品定めしていた高齢女性は「今年に入って一層、ものが高くなったように思う」とあきらめ顔。
年金暮らしに心配がないか尋ねると、特別軍事作戦のせいだとほのめかすように「最高司令官(大統領)に聞いてください。早く“あれ”が終わってほしい」とこぼした。
輸入家電、値引きの理由
価格上昇は輸入品でも顕著だ。モスクワ市内の家電量販店を訪ねると、テレビ売り場では多くの品に「特別価格」の札があった。中国の「ハイセンス」やオランダの「フィリップス」など大手ブランドの外国製品が並ぶ。
男性店員に尋ねると、昨年12月以降、通貨ルーブル安を受けて一部商品を値上げしたという。テレビで2割ほど、パソコンも1割前後は高くなった。テレビは、12月に一定の駆け込み需要があったが、年明け以降の売り上げは低調という。
店側は、値引きしてでも売り切った方がよいとの判断で、一部を割引価格での販売に切り替えた。男性店員はウクライナでの戦闘終結に期待を寄せ、「全て良くなれば値段も客も戻るでしょう」と楽観的に話した。
給与、ボーナス増に不安も
ロシアでは物価上昇の一方、労働者不足を背景に賃金も上昇している。軍や軍需産業が高給で人手を確保しているほか、22年以降、人々の国外流出も起きたからだ。
国内IT企業で働くシステムエンジニアの30代男性は、この1年間で給与が6%上がり、ボーナスも増えたと明かす。ただ、「普通の賃金の上がり方ではない。今後が不安だ」とも吐露する。
連邦統計局によると、24年10~12月の失業率は2・3%で過去最低を記録した。露政府は12月、人口減少などを背景に30年までに労働市場で310万人が不足するとの見通しを示している。
働き手確保の問題は長期化するとみられる。【モスクワ山衛守剛】