
兵庫県洲本市出身の俳優、キムラ緑子さん(63)が古里でライブハウスの経営を始めた。過疎化が進む市中心部の「コモード56商店街」の一角に構え、自身の愛称にちなみ「LiveHall Dolly’s」と命名。「神戸や四国に行くついでに淡路島にふらっと遊びに寄る感覚で、気軽に足を運んでくれれば」と話している。
高校まで島で過ごした後、京都の大学へ。在学時から演劇活動を続けている。数々の舞台やテレビ・映画で活躍し、現在はNHK連続テレビ小説「おむすび」やNHKEテレ「グレーテルのかまど」などに出演中。俳優の大谷亮介さんとのボーカルデュオ「ドリー&タニー」で音楽ライブもこなしている。
島の両親が高齢になり、数年前から帰省する機会が増えた。そんな中、親や親戚らと楽しく集えるような居場所を探していたところ、商店街内の楽器店が所有する元スタジオの物件を紹介され、譲り受けた。
中高生時代、アーケード街はいつも大勢でにぎわい「行けば誰か同級生に会える遊び場だった」。今はシャッター通りと化し閑散としている。市自体も「消滅可能性自治体」の一つとしてニュースで報じられた。「これはいかん。絶対に盛り上げなきゃいけない」。ホールを経営するつもりはなかったが「出合っちゃったから」と施設を改修し、椅子などの備品もそろえて扉を再び開いた。
こけら落としは2024年2月12日、その1カ月前に発生した能登半島地震のチャリティーライブが開催された。その後も地元の知人らの協力を得て、神戸や大阪で活動するアーティストのライブを次々開いている。
「怖くて入りにくい……」という年配の人の声を聞けば、入り口ドアをカラフルに装飾した。とあるライブでは、自身が島内の魅力ある場所を紹介する映像をスクリーンで流したこともある。
帰省する機会が増えて気付いたことがある。歴史ある城下町で、新しいことにチャレンジしている若者やおしゃれな場所が増えている。このホールが「昔から住んでいる人と、新しい人が楽しくなるようなことで手を取り合っていく、そんな場になれば」。
自身も初めてステージに立つイベントを10月に企画している。東京で活動する仲間と共に歌やトークを披露する予定だ。ライブ以外でも落語家による高座やカラオケ大会、島内でも今後増えるであろうインバウンド客を対象にしたナイトカルチャー向けのイベントなど――湧き出るアイデアは尽きない。【入江直樹】